一億円の低カロリー
尾けられている、と直感した。
角を左に曲がったところで立ち止まり、後ろの様子を伺う。
気配が消える。
プロの仕業だ。
男の額を嫌な感じの汗が流れ落ちる。
懐には先祖伝来、一億円のダイアモンド。賊に奪われてしまうのだろうか。
ポアロに憧れる警部は、真っ直ぐ走ろうと気にするあまり、角を曲がり損ねる。
男の後ろから足音が迫ってくる。
ひたひたひた。
絶体絶命。
ウエーブした黒髪を月光に煌めかせ、一人の女が向こうから歩いてきた。
傍らに黒い鳥。
こちらに目配せする女。
いちかばちか。男は鳥が大きく開けた口へ宝石を投げ入れる。
「なんてことしやがる」
賊が叫ぶ。
走り過ぎて息も絶え絶えの真っ白な脳細胞。
女が合図すると、海鵜はダイヤモンドを吐き出した。
「鳥にとっては、カロリーにもならない石ですわ」
女が左の第三肋骨を引き抜く。海鵜はそれを呑みくだすと、肋骨に形を変え元の位置に戻った。
「では、ごきげんよう」
彼女の名は、名探偵コスティーナ。
<了>
(402字/ルビ込み405字)
「名探偵コスティーナ」でお題十本、何とか完走できました!
ご覧くださってありがとうございます。読み切りなので、どこからでもお楽しみいただけます。けれどけれど、順番にご覧いただくと、「登場人物のおかしみ」が感じやすいかもしれません。また、「コロコロ変わる名探偵」は、最終がオススメでございます!
1.アナログバイリンガル
2.しゃべるピアノ
3.金持ちジュリエット
4.数学ギョウザ
5.君に贈る火星の
6.空飛ぶストレート
7.1億円の低カロリー
8.違法の冷蔵庫
9.株式会社リストラ
10.コロコロ変わる名探偵