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しゃべるピアノ


 ピアニストは、床の上でこときれていた。
 彼が愛し、愛されたピアノ、スタインウェイの脇に。

 老スタインウェイは、奏で続けている。
「自動演奏の機能は無いはずですが」
 マネージャーの秋本は呟く。
「ショパン『別れの曲』ですな」
 ポアロに憧れる警部は、先ほど鑑識から聞いたばかりの曲名をのたまう。
「つまり自殺」
「先生に限ってそんなことは」
 弟子の夏木と冬井が叫ぶ。

「私の推理では」
 効果を狙った警部は鍵盤に触れる。
 スタインウエイは蓋を閉じた。この真っ白な脳細胞野郎め。
「ぎゃあ」
 警部の人指し指は抜けなくなった。

 ウエーブした黒髪をかき上げ、一人の女が部屋に入ってきた。
「エチュード作品10第3番、Eメジャーホ長調
 銀の鍵を差し込む。
「なのに、これは編曲されていますわ。Aメジャーイ長調に」
A 」蓋が開く。

 秋本が泣き出し、演奏が止む。

「では、ごきげんよう」
 女は右の第二肋骨を引き抜くと、鍵をしまって元に戻した。

 彼女の名は、名探偵コスティーナ。


<了>

(401字/ ルビ込み408字)





「名探偵コスティーナ」でお題十本、何とか完走できました!

 ご覧くださってありがとうございます。読み切りなので、どこからでもお楽しみいただけます。けれどけれど、順番にご覧いただくと、「登場人物のおかしみ」が感じやすいかもしれません。また、「コロコロ変わる名探偵」は、最終がオススメでございます! 

1.アナログバイリンガル  
2.しゃべるピアノ 
3.金持ちジュリエット
4.数学ギョウザ
5.君に贈る火星の 
6.空飛ぶストレート
7.1億円の低カロリー
8.違法の冷蔵庫
9.株式会社リストラ 
10.コロコロ変わる名探偵