2024年のマンガ読み②
女子柔道部物語
名作、柔道部物語を描いた小林まことによる新作。
女子柔道で初の金メダリストになった恵本裕子をモデルとしており、本人が原作を担当している。小林まことの位置づけが(脚色・構成・作画)となっているように、恵本の半生を小林が聞き取り、フィクションも混ぜながらマンガに落とし込んでいるのだろう。
漫画として、やはり抜群に面白い。小林まことの漫画力が高すぎるのである。
登場人物それぞれ、クセが強くて負けず嫌いなのだが、それを含めて好感が持てるようなキャラクター描写がいい。また、柔道の攻防を描くのが抜群にうまい。それぞれのコマで選手がどこに体重をかけているのかが一目瞭然で、柔道の世界に受け継がれている基本技の背景にどのような理論があるのか、視覚的にも伝わってくる。
ストーリーとしては少し淡々としているかもしれない。それでも、時系列がサクサク進み、どんどん強くなっていく神楽えもを見ているのは抜群に楽しいことだった。
やはり俺の青春ラブコメは間違っている
ヒットラノベのコミカライズ版。(ラノベが本家、アニメも人気作だが、自分はコミカライズだけを消費した形になる。)
主人公の比企谷八幡は陰キャで、他者を信じない。言葉の裏を読む。褒められてもすぐに自虐する。それは単なる陰キャを超えて、心に深い傷を追った人間が防衛的な行動をとり続けているということなのだろう。
本作に登場する高校生たちはみんな未熟だ。本音をさらけ出すのが怖い。だから空気を読む、演じる、理由をつける。だけど心の奥底では「本物」を渇望している。それは八幡と実は大きくは変わらない。八幡はそれに心の傷が関わって、安易に自分を傷つける方向に向かってしまうというのが壁なのだろう。
終盤、その壁を越えてみせる景色はやはり美しく、感慨深いものがあった。ラブコメには相変わらず抵抗感があるのだが、主人公の内面的成長が恋愛成就の壁とリンクしているのなら読みごたえがあるというものだ。
それと、どうでもいいけど、キャラのネーミングがありがたかった。雪ノ下雪乃とか、由比ヶ浜結衣とか、苗字と下の名前で同じ音を繰り返している。
高校生どうし、苗字、下の名前、あだ名のどれで呼び合うかは当然バラバラであり、各キャラのフルネームを暗記していないと状況把握にけっこうな負荷がかかる。本作のネーミングはそれを回避するのにとても有効だったと思う。ラノベは極端な口癖を付けたりして、誰が喋っているのかを明確にする工夫などもみられるが、そういった事情を抜きにしてもありがたい。
スカライティ
終末的な世界で、生き残った僅かな人々。彼らは現世への未練を持っており、それが解決されるまでは死ねない。
そんな人間の心残りを解決し、死なせてあげることをミッションとするロボット、アルスの物語。
少ない話数で一つの物語(一人の人生)を閉じていき、最後の人間が死んだところでEND。本当に物語も作品世界も閉じてしまった。まあ未練が無い状態まで到達できたのだから、ハッピーエンドなのかね。
可愛い絵柄と終わった世界のギャップ、少し心温まるエピソード。そこそこ面白かった。
宝石の国
人間の魂は月へ、肉は海へ、骨は地上へ
フォスの冒険を経て徐々に世界が明らかになっていくことのゾクゾク感、仏教をバックグラウンドとした無常、幸福、悟りの描写。唯一無二の作品だろう。
惜しむらくは戦闘シーンが見づらく、何をしているのかわかりづらいこと。アニメは観ていないが覇権扱いだったので、そちらでは戦闘シーンがわかりやすいんだろうな。
多少の仏教知識があると面白い。例えば蓮の花が繰り返し出てくるが、泥の中から池の水面まで出てきて美しい花を咲かせることから、蓮は仏教では特別な花なのだ。
終盤はなんかもう、悟りや解脱に類する何かになってしまっている気がする。
人間は欲望に駆動される本能が残っているがゆえに、短慮や矛盾から自由になれない。でも自分からしたら、動物であることの制約のなかで葛藤しながら、もがきながら善くあろうとするからこそ人間がいとおしいのだ。あそこまで素朴にはなりたくないな。
株式会社マジルミエ
魔法少女+ベンチャー企業という異色作。魔法少女モノは大量にあれど、この方向に捻ってくるかとうならされた。
もちろん、流行りジャンルに意外性のあるジャンルを足し算するという試みは大量に行われているのだが、ベンチャーを舞台にしたことで大人がみて楽しめる作品になっている。職業の中に自分を探すということ、いい仕事をすることでの満足感、オトナの事情のままならなさ、それでも譲れぬ企業理念。働くことへのロマンに満ち満ちている。
可愛い絵だし魔法少女ものだけど、お色気要素は皆無で、それも雑音がなくてよい。ギャグもいいし、それとページ数あたりの物語の進行密度がすごく心地よく感じるな。
アニメ化を前にチェックしておけてよかった。
ダンジョン飯
キャラクターもストーリーもめちゃくちゃ良かった作品。
妹がドラゴンに消化される前に、急いで地下に降りていかねば!このRTA的状況でダンジョンに潜っていくには、食糧を現地調達するしかない。魔物を食べながら降りていくぞ…という魔物食を題材にした異色のファンタジーである。
面白いのは、主人公ライオスの魔物愛がドラマをグングン異常な方向に引っ張っていくところだろう。仲間が魔物食を強制される光景は面白いし、魔物の生態を好奇の眼差しで見つめてきたことがダンジョンの攻略にも貢献していく。
ストーリーの落としどころも面白い。食をテーマとしているだけあって生命の理(ことわり)を受け入れようよ、という感じなのだ。
狂乱の魔術師は、王や王国の永続を願ってしまった。マルシルは、寿命の長いハーフエルフゆえの孤独を恐れ、避けようとしてしまった。
でもそんな宿命は受け入れて、うるせえ!適度な運動とバランスのとれた食事を基本に、人生を楽しめや!いう感じ。こういう地に足ついた感じは大好物である。