【字幕投稿報告】Kurzgesagt: Why Scientists Are Puzzled By This Virus
Kurzgesagtの「なぜ科学者はこのウイルスに困惑しているのか」という動画について、字幕を投稿した。遅くなってしまった…
雑感
タイトルはちょっと不正確で、単一のウイルスを紹介するというよりも人体に常在するウイルス群(ウイローム)の実態と、解明されつつある一部機能の紹介という感じだ。
人体の細胞数を40兆個として、ウイルスだけで10兆と試算されているということ、多くはファージであること。人体での繁栄を前提としているウイロームのウイルスは、その繁栄・存続のためにも人体を健康に保つ必要があること。だから体内の細菌の動向をコントロールするような働きをしてくれること。
だが一部には人体への影響を顧みないやつもいて…
そうはいっても、これはウイロームの構成員なのかはわからないけど、ガンを狩ってくれるウイルスもいるぞ…
そんな感じで、体内の生態系をウイルス込みで俯瞰できるような興味深い動画だった。
字幕作成の苦労
今回も色々と判断に迷うところがあった。
直喩か隠喩か
たとえ話を訳すさいには「まるで~のようなもので」というような訳文を入れる事になる。これだけで文字がけっこう増える。
一方で訳文は秒間6文字以内で、可能な限りわかりやすく認知負荷の低いものにしなくてはならない。
そこで一つの誘惑がある。直喩ではなく隠喩にしたくなるのだ。たとえ話であることを明示しているのが直喩、そうでないのが隠喩だ。
たとえば「彼はまるで鬼のような人で」が直喩で、「彼は鬼だ」が隠喩となる。文字数削減を考えれば隠喩にしたい。だが、隠喩にはニュアンスを強める働きがある。そのニュアンスの強さは原文の意図を超えたものになりうる。
さて、以下の文だ
文字数を気にせず訳すと以下のようになる。
「腫瘍溶解性ウイルスは囲まれた都市への侵入者のようなもので、左右の門番を殺して門を開き、免疫細胞の勝利を助ける」
「囲まれた都市への侵入者のようなもので」というのは長い…長すぎる
そもそも、今回の動画ではウイルス・菌・細胞の相互作用が扱われており、主語を曖昧にするとかなりわかりづらくなる。つまり文章ごとに「腫瘍溶解性ウイルス」という9文字もいれなくてはならないのだ。
そこで、今回は太字部分を「腫瘍溶解性ウイルスは城塞都市に切り込み」と表現させてもらった。短文化に成功しているが、隠喩ならではの断定的なニュアンスが出てしまっている気もする。
とはいえ、映像と合わせてみれば、含意するところは明らかだろう。これぐらいは許されるのではないか。
どっちなんだよ
一番悩んだのが、黄色ブドウ球菌についての描写である。
みての通り、黄色ブドウ球菌が無害なのか有害なのか、解説が一貫していないように見える。
ソースドキュメントを見てもよくわからず、しかたないので自分で黄色ブドウ球菌自体について勉強する。すると、以下のことがわかる。
・実際、黄色ブドウ球菌はありふれた菌であり、基本的に無害
・ただし、免疫が弱ったりしているところで凶悪性を発揮することがある
・ファージに感染してさらに凶悪化することがある
ということは、5:52の「ほとんど無害」も7:02の「以前から非常に致命的だった」もまあ、科学的事実に反していないのだ。
とはいえ、そんなことは字幕を忙しく読んでいる人にはわからない。どうするか。
黄色ブドウ球菌は基本的に無害としつつ、黄色ブドウ球菌への感染は有害、という形で訳しわけておいた。少しでもひっかかりがなくなればいいが、これで良かったのかはわからない。
字幕が遅れた理由
本業がかなり忙しいのと、次男がイヤイヤ期に突入したことが原因である。
次男はかなり主張がハッキリしており、泣くときもすごい強い圧をかけてくる。
長男はおっとりとした正確で、泣いても可愛かった。
「うえーん、ぼく、こまっちゃった…」
というニュアンスを感じたものだ。
だが、次男は強烈なクレーマーである。泣いているときは特にキツい。
「うおおあああああああああああ!はやく対処しろやあああ!それでも親か!ボクのこの辛い状態を放置するのは人権侵害じゃねえのか!」
というような責められているニュアンスを感じるのである。
午前3時とかにこの泣きを食らい、寝かしつけ、背中スイッチが発動し…
1時間に1回、夜泣きされた日もあった。もうボロボロである。
本業の忙しさが時間的リソースを圧迫し、イヤイヤ期への対応ストレスが精神的リソースをゴリゴリに削っている。字幕作業の遂行には決意と犠牲が必要だった。
そんなわけで。今回の字幕提出には、動画投稿から50日以上かかってしまった。これはしばらく字幕活動はおやすみせざるを得ないかな。