CHTHONICと私
CHTHONICとの出会い
CHTHONICという台湾のメタルバンドをご存知だろうか。
初期はシンフォニックブラックメタル、現在は比較的メロデスに近い音楽をやっている。
特徴はその歌詞、世界観にある。歌詞は台湾の神話や歴史をモチーフとし、伝統楽器である二胡やフルートなどを取り入れ、より台湾らしい表現を大切にしているのだ。
メンバーは皆親日家で、しばしば日本でライブをしてくれる。
サマーソニックやフジロックなどのフェスに出るだけでなく、ワンマンツアーなども開催し、ミートアンドグリートやインストアイベントなどで積極的にファンとも交流する、そんなバンドだ。(見出し画像はサマソニの時にプレゼントした自作のステッカー)
私がこのバンドに出会ったのは中学2年生。YouTubeでたまたま聴いた皇軍(Takao)という曲が彼らを好きになるキッカケだった。
その時、何故か台語版から聴いていた。
オリエンタルだけど荘厳なイントロと、そこから繋がるカモメー!という日本人だと結構びっくりする歌い出しに衝撃を受けたことを覚えている。
私好みの鋭いギターサウンドと、物悲しい二胡の音。そして何より壮絶なドラム!
一気に心を惹かれた。繊細な中2の私は、曲の展開だけで涙が出ていた。
生まれて初めて、歌詞も分からないのに曲がかっこよすぎて泣いた。
そして意味ありげなMV。桜の花弁で切り裂かれるメンバーの肉体、刺青を入れている着物の女性。軍服を身に纏う男性。紙飛行機や割り箸鉄砲で遊ぶ子供たち。飛び交う戦闘機。
その頃、歴史は好きだったが台湾史には触れたことが無かったので、軍服とタイトルを見て何となく日本が台湾を統治してた時代の曲かな?くらいにしか思ってなかった。
こんなかっこいい曲、何を歌ってるんだろう。
気になって、歌詞の日本語訳を調べた。
高砂義勇軍のセデック族が、高雄港から出征しようとしているその瞬間を描いた歌だった。
高砂義勇軍てなに?
セデック族って?
台湾史を知る
何も知らない私は、歌詞をより深く理解したくなりとにかく台湾史について調べ始めた。
ついでに、お小遣い制度がなかったので両親にCHTHONICのプレゼンをし、皇軍が収録されているアルバムである高砂軍をディスクユニオンで買ってもらうことに成功した。(我が家は両親が元メタルバンドマンだった為音楽にうるさく、両親に技術や音楽性を認められたバンドのCDのみ買い与えてもらえるという不思議な制度があった。お陰で耳が肥えたので良かったと思う。)
台湾史を並行して調べているうちに、高砂軍は霧社事件の後、川中島に強制移住させられたセデック族のある青年が高砂義勇軍に入隊し出征、終戦を乗り越え、その後蒋介石が率いる国民党軍による圧政が始まり、白色テロが起こり、戦争を乗り越えた青年が死んでいくまでの一連のストーリーのあるアルバムであることが何となくわかってきた。
セデック族(現在のタイヤル族)は山岳地帯で暮らしており、首狩りなどの文化によって戦闘に長け身体能力も高く、鬱蒼とした山林でもすばやく動けることから、密林地帯での戦闘の為に有用であると考えられたという。
しかしこの高砂義勇軍が創設される10数年前、セデック族による日本軍への蜂起事件が起きている。それが霧社事件だ。
当時の私の中で、台湾はとても親日なイメージがあった。そんな台湾でも、反日感情から起きた事件があるなんて。衝撃を受けた。
霧社事件については映画化もされているので、良かったら見て欲しい。アマプラにあった筈。
映画特有の脚色は多少あるが、基本的には史実にきちんと沿っている。少なくとも私の研究していた文献との齟齬はあまりない。
私はこの霧社事件が気になって気になって仕方なくなった。
民族としての誇りは何か?
何故花岡兄弟は死ななきゃいけなかったのか?
気になって仕方なくなった結果、
史学の有名な大学で霧社事件の研究をした。
そしてちゃんと学士号を取った。
進路がCHTHONICによって変わったのである。
気づけばCHTHONICだけでなく、台湾そのものにも惹かれていたのだ。
歴史だけでなく、セデック族の文化や神話にも傾倒した。
図書館に篭っては、セデック族に関する文献や霧社事件の史料を読み漁る日々だった。
何なら他の必修科目がつまらなく感じてしまい単位が危うくなるくらい、ずっとセデック族と霧社事件の研究をしていた。
CHTHONICのやさしさ、ゆるさ、いとしさ
で、私のCHTHONIC愛は台湾史愛に完全に変貌してしまったかと言えば、そんなことはなかった。
CHTHONICの来日公演はワンマン、フェス関係なく参加したし、
彼らに手作りでグッズを作ってプレゼントしたこともあった。
中学生でCHTHONICが好きな人は当時周りにはガチでいなかったので、Twitterやfacebook(台湾はfacebookが活発なので、情報収集の為利用していた)で出会ったメタラーのお兄さん、おじさまたちに大層可愛がって頂けていた。だからライブに行っても寂しくなかったし、寧ろ楽しかった。
CHTHONICはファンの方々だけでなく、メンバーもあたたかい。
ライブで出会った台湾人のカメラマンさんに、何故か楽屋まで招待してもらったことがある。台湾のバンドは、そのへん結構ゆるゆるなんだな、なんて思ったが、これは多分CHTHONICが日本のファンにとてもとても優しい故なのだと感じる。
ボーカルのフレディさんは、会う度に私を娘のように可愛がってくれるし、
ベースのドリスさんも、会うと「あ〜!」と言って駆け寄ってきてくれる。
ギターのジェシーさんは私がダニさんのファンだと知っているので何故かダニさんを呼んできたりしてくれるし、
キーボードのCJさんは緊張しながらも私に丁寧に対応してくれる。
そしてダニさんは緊張してガチガチの私の肩を抱いて写真を撮ってくれたり、拙い英語で一生懸命話しかけたりしてくれる。
そして何故かインスタで相互になっていたりもする。
こればっかりは謎過ぎたので、直近の来日公演の時に拙い英語で本人に訊いたが、結局理由はわからなかった。イラストを描いてくれるから、応援してくれるから、みたいな感じだったと思うが、そんな人世界中にたくさんいると思うのではっきりとはわからない。
さらに私はダニさんが大好きなので、かれこれ10年近く毎年ダニさんの誕生日にはイラストを描いて送るのだが、毎回丁寧にお礼のメッセージをくれる。
優しすぎる。
愛しかないが?
CHTHONICは、台湾において日本で言うX JAPANみたいな立ち位置だと聞いた事がある。
そんなビッグなバンドではあるものの、ファンの方一人一人に丁寧に対応し、近い距離で対話をしてくれる…そんな優しくてあたたかい雰囲気も大好きだ。
最近、ボーカルのFreddyさんは政治家として活動を始め、コロナ禍も相成ってライブがめっきり減ってしまった。
早くまたCHTHONICに会いたい!!そんな思いを込めてこのnoteを書いている。
もしCHTHONICに興味を持った方がいれば、台湾史も併せて調べてみるとよりCHTHONICのことが好きになると思うので、是非。
あったかくてかっこいいバンドです。