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一味ちがう家、売ります。 ⇒売れました!

以下に記した家、気に入って下さる方が現れ、住み継いでもらえることになりました。「いいね」を下さった方、応援して下さった方に、心から感謝いたします。そして、ただの建築オタクの趣味が高じた、一風変わった住居の魅力?を伝えてくれた「なんぼや不動産」水津陽盛君にも、ありがとうと言いたいと思います。


1966年、まだ東京湾も富士山も見えた習志野の高台に、この家は建った。
それから30年後、行きつけの喫茶店でスタッフから「こういうの、興味あります?」と見せてもらった雑誌に、ルイス・バラガン設計「ヒラルディ邸」の写真があった。

建築魂に火が点いた。
すでに40代。建築家を目指すには遅すぎた。
建築家がムリなら、建築人になろう。
道元は言った、「ソレを得たいと欲うのは、既にソノ人であるからにちがいない」。
既に建築の人となった私は、ただちにその実質を形成すべく、バラガンから始まり、カーン、ミース、コルビュジェたち20世紀の大建築家の本を片端から読み、
次いで国内に目を向けて、原、安藤、谷口、SANAA、山本、坂らの建築を訪ね、見て、歩いて、撮った。坂茂のスイデンテラスは素晴らしかった。

建築人の修行を重ねつつ、2003年、習志野の家の改修に着手した。
図面は引けない。構造の知識もない。材料の知識はさらにない。アイデアだけが溢れんばかりにあった。
下手な絵を駆使して、必死に大工に伝えた。
大工は半端ない。舌足らずの説明を素人の夢想と一蹴せず、上方修正しながら解釈し、理解した。
それだけではない。工事が始まり、内装が剥ぎ取られ、骨格が現われると、1966年の大工も半端なかった。構造に関して、補強の必要はほとんどなかった。それは東日本大震災であらためて証明された。震度6にこの家は微動しかしなかった。
堅牢な構造。その上に新しい空間を思う存分展開すればよかった。

敷地周辺は住宅街で、三方を道路に囲まれていた。車はたまにしか通らない狭い道だが、生活道路として多くの人が往き来する。
家はその内部に居住する者のためにだけあるのではない。家は街の風景をつくる。
建築の勉強を通じて知ったのは、そのことだ。
街に向かって微笑む家でありたい。

まずブロック塀を取り壊し、木の格子に置き換えた。
バラガンなら熱帯の空に映える極彩色の格子にするだろう。しかしここは日本。落ち着いた茶系の格子にした。

南東方向から格子塀を見る。

南側のファサードは家の顔になる。前面道路を通る人々の視線に晒すのもいけないが、拒むのもよくない。
そこで二重被膜ということを考えた。最外層は透明ガラスのサッシ、その90cm内側に、擦りガラスを嵌めた「障子」を立てる。それによって生まれる中間の「縁側」を、玄関から広間へのアプローチとする。

玄関を入ったところ。右に透明ガラスのサッシ、左が擦りガラスの「障子」。

こうすることで、外から内に向かって、格子塀/植栽/透明ガラス/擦りガラスという透過性のグラデーションがつくられた。
外の視線は招き入れられながら消え、内の気配はあいまいに外に伝えられる。陽射しの低くなる秋の午後には、擦りガラスのスクリーン上に格子と植栽の影が揺れる。

広間の内部から南を見る。
擦りガラスの「障子」、水平ルーバーの引き戸の向こうに、外構の格子壁が見える。

一方、東側は家屋と道路との距離が接近している。したがって南面とは別のアイデアが必要だった。一階レベルでは小さな開口を一つだけ設けて、あとは全体を壁にした。外装の仕上げにはアルミプレートを用いて天候に反応する壁とした。雨の日には、水滴を透過した反射光が前面道路に落ちる。

鈍い光沢をもつ外装と、最上部の三連窓。

室内側は吹き抜けとし、北側に二層を貫くスリットを開けて採光を確保した。さらに天井際の壁面にも小窓を連続させた。
壁に遮られた空間が光で満たされた。

東の「谷」に光が落ちる。壁の材は珪藻土で、快適な内部気候が保たれている。

一階南東の和室は66年竣工時のまま残した。それと、新しい機能をコンパクトに詰めたキッチンとを、二つの「島」に見立てた。
「和」の島の入口となる障子の桟には、OMA がベルリンに設計したオランダ大使館のファサードを参考に、垂直の動性を感じさせるものにした。格子というデザイン要素がスケールを超える抽象性をもつと知った。

東の「谷」から「和の島」の入口を見る。

一方、キッチンは曲線の輪郭に収めて、「岬」のような形状を与えた。こうして一階の空間は、二つの島の浮かぶ「海」となった。水面にかえて、床には米松の無垢材が張られ、玄関から縁側〜広間〜吹き抜けの谷へと、空間が切れめなく連続する。
広間は南北に視線の抜ける、水平方向に開放的な場所であり、食事をし、おしゃべりをし、くつろいだ時間をすごす海域となっている。そこから二つの島の間の「海峡」を抜けると、風景は一変する。壁が二層分の高さを立ちあがり、垂直に走る開口とそれに沿って上昇する階段が「谷」をつくる。光は白壁のテクスチャーを伝って谷底に降りてくる。

曲面の壁の内側にキッチンがある。
右奥の開口は二階天井まで達し、北側からのやわらかな光を取入れる。

階段を昇り、「谷」に架かる「橋」を渡ると、二つの寝室(使い方によっては三つ)とクローゼットが密に並ぶ「奥地」に入る。
奥地に分け入る小道の途中に、一ヶ所、開けた場所がある。本を一冊手にとって腰を下ろしてほしい。安らぐこと、この上もない。

「奥地」に設えた読書灯。左上の写真は磯崎新による「北九州市中央図書館」。


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