第8話| 花は愛惜にちり
有るか無いかどっちかの世界から仏道は跳び出した。だから…?
だから、生と滅、迷いと悟り、衆生と仏があるとはいっても…
とはいっても?
花は愛され惜しまれて散り…
あ、ダザイ! そのまえに「仏道」って仏教のこと?
うん。いま「仏教」って呼ばれてるものはかつて「仏道」と呼ばれていた。明治になって大量の西洋語が日本に入り、そのなかの一つ “religion” が「宗教」と訳されることになった。その時から仏道も宗教の一つということになり、「仏教」と呼ばれるようになったんだ。
なんか、仏道のほうがよかったな。
なんで?
教わりすぎだ。
うーん... 剣道、弓道、華道、茶道、みんな「道」だしね。わかった、じゃーわれわれは仏道で行くことにしよう。
そうしよう! 結局こういうこと? 仏道ってもともと有る無しから跳び出してるから...
仏道もとより豊倹より跳出せるゆゑに...
生と滅、迷いと悟り、衆生と諸仏を、区別することはするけど…
生滅あり迷悟あり生仏あり、しかもかくのごとくなりといへども…
花は愛され惜しまれながら散り、草は嫌われながら生えるだけのこと。
花は愛惜にちり、草は棄嫌におふるのみなり。
どうして、生える「だけ」なんだ? ちょっとトマトジュース飲んでくる。
ダザイはいらない。
ダザイさ、なんで大人は喉が渇くとビール飲むんだろう。トマトジュースの方が百倍おいしいのに。
百倍も?
味見してみたんだ、こないだお父さんのビール。超まずい。
お父さんはおいしいって言ってるのか?
そうだよ。クイ〜ッ、夏はこれがたまんねえな!とか言って。冬になると、おでんにはこれしかない!って。
ダザイの予想では、君も十年後にお父さんと同じセリフを言う可能性が高い。
まじかよ。暑いときにたまんねえのはトマトジュースだよ、トマトジュース!永遠にトマトジュース!
トマトジュースが好きな小学生って、いっぱいいるの?
しらない。
(つづく)
挿し絵|富澤大勇
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