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第7話| 日本語の半分以上、もとは中国語だっていう驚きの事実
僕んちは叔父さんが設計した。叔父さんは建築家じゃないけど、建築の好きさが半端ない。いろんなとこに写真撮りに行って、いろんな建築の本読んで、暇さえあればスケッチしてる。
「どうして建築家にならなかったの?」って聞いたら、40才まで思いつかなかったんだって。もし40才でサッカー選手になりたいって思いついたとしても、それからプロにはなれないだろ? ––– それはわかる。ていうか、どうして40才のときに思いついたの?
僕んちで好きな場所は、一階の床から二階の天井まで縦にまっすぐ開いてる窓だ。隣の家の庭に大きな木が一本あって、ちょうどこの窓とぴったり合う。風が吹くと、葉っぱがすぐそばで揺れる。
それと、南側の不透明なガラススクリーンもいいんだな。秋になると低めの陽が外格子にからまってる蔦を映したりとか、水盤の水が反射したりとか。
そろそろダザイを起こそうか。えーっと今日のとこは何だっけ。
仏道もとより豊倹より跳出せるゆゑに、生滅あり迷悟あり生仏あり、しかもかくのごとくなりといへども花は愛惜にちり、草は棄嫌におふるのみなり。
「仏道もとより」までしかわかんないな。仏道は本来、って意味でしょ。「豊倹」てなんて読むの?起きろダザイ。
おはよう。午前9:40。気温 31.3℃。
お天気情報とかいいから、豊倹てなんて読むの?意味は?
慌てないで。「豊倹」みたいな言葉は、ほぼ中国語なんだ。日本で使ってる漢字の言葉って、日本語と思ってるだろうけど、元は中国語だったのを日本人が使ってるうちに慣れちゃったものなんだ。一、二、三、四を、イチ、ニ、サン、シィって読むのは、千年前の中国語を日本語訛りで読んでるんだ。今の中国語だと、イー、アー、サン、スー。「二」以外は似てるだろ?
そうだったの。日本語の半分以上、もとは中国語だったわけ?
そういうことだ。言葉は混ざるんだ。
ちょっとびっくり。
豊倹はホウケンと読む。意味は、豊かか乏しいかってこと。だけど、ここはお金の話じゃない。
だよね。仏法の話だ。
まず、きのうまでの話をおさらいしよう。
おっけ。世の中を仏法でみると、迷いと悟りがあり、修行があり、生があり、死があり、仏がいて、衆生がいる。でも聖者ナーガは「すべてはエンギで織られた紋様」だって言った。だから迷いも悟りも、仏も衆生も、無条件に「ある」わけじゃない。織り方しだいなんだ。
うん、その通り。で、今日のところは、それをちがう表現で繰り返してるだけなんだ。
なーんだ、そうなの。
「なーんだ」は、みちもとに失礼だぞ。音楽では、同じフレーズを別の音色で反復するなんてことは、しょっちゅうやってる。意味と表現の関係もそれとおなじ。ちがう色を重ねるたびに、意味に陰翳がつくんだ。
意味の陰翳、ダザイにも見えるの?
余裕で見える。ダザイはレベル無限大ってことを忘れないでくれ。「仏道もとより豊倹より跳出せる」ってのは、仏道は本来、有る・無しの世界から跳び出してるっていうことだ。
紋様だからでしょ?
そう。だから…
「ゆゑに」が「だから」?
いい質問だ。その通り、「ゆゑに」は「だから」だ。
なんで「いい質問」なのかわかんないよ。質問にいい・わるい、あるの? こないだ先生にどうして男と女がいるのか質問したら、理由はありませんて言われちゃった。いい質問だと思ったのにな。
最高にいい質問だ。
じゃ、どうして?
正法眼蔵読むの、しばらく止めていいか?
ふーん、そんなにいい質問なのか。よし、正法眼蔵続けよう。
(つづく)
挿し絵|富澤大勇