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24時間戦えますか? 〜デジタル時代の「つながらない権利」を考える〜

どうも、ゑんどう(@ryosuke_endo)です。

深夜、多くの人が微睡んでいる時間に会社やアルバイト先の上司から連絡が来たりすると、眠気も吹き飛んで嫌な気持ちになりますよね。

スマートフォンの通知音に反応し、何気なく覗き込んだ画面に「明日の準備は大丈夫ですか」とか「急遽、シフトに入ってもらいたいのですが、可能ですか」みたいな連絡を目の当たりにすることを想像してください。

胃がキリッとするというか、脳がグシャッとするというか、いずれにしても自分にストレスを与えてきていることだけはわかりますよね。

スマートフォンやSNS、ひいては携帯電話がひとり一台が当然となった頃から、私たちは24時間365日、いつでもどこでも「つながる」ことができるようになりました。

当時はそれが嬉しかったし、喜ばしかったんですよね。

私たちの生活に大きな希望と彩りを提供してくれたのは間違いありませんが、同時に、労働の場面では新たな課題が表面化してきています。

仕事とプライベートの境界が曖昧になり、常に仕事のメールやメッセージに対応しなければならないというプレッシャーを感じる人が増えています。

ディップ株式会社と株式会社アイリッジが、15歳から49歳の男女約14,000名を対象に「コミュニケーションにまつわるアルバイトのEXに関する調査」(以下「本調査」)を実施・公開しました。

結果を見てみると、飲食業や販売業で働く人で、個人SNS(LINEですね)での業務上のやり取りを「望ましくないと思う」と回答する人の46.9%が「プライベートな時間に仕事の連絡が来るのが嫌」と回答しており、以前から話題になってきましたが、いよいよ日本でも本格的に「つながらない権利」について考えなければならない時がきたのだと実感します。

「つながらない権利」とは

「つながらない権利」とはなんぞや、と思う方もいらっしゃるでしょうから説明しましょう。しましょう。

「つながらない権利」とは、従業員が勤務時間外に仕事関連の電子通信(メール、メッセージ、電話など)に応答しない権利のことです。この概念は、携帯電話やPCなどデジタル技術と端末の発展によって仕事と私生活の境界が曖昧になってきたことを背景に生まれました。

フランスでは2017年に「つながらない権利」が法制化され、従業員50人以上の企業に対して、勤務時間外のデジタルコミュニケーションの使用に関する取り決めを従業員との間で行うことが義務付けられています。

この動き、もちろん、日本をはじめとした他の国々にも影響を与え、同様の法律や規制の導入が検討されています。

この「つながらない権利」、なぜ重要視されるのか。大きく分けると主に3つの理由があるように思います。

  1. 生活と仕事の両立を促進すること

  2. メンタルヘルスの保護

  3. 生産性の向上と緊急対応との両立

結構3番目については「つながらない権利」の重要性は理解できるけど…といった企業の正直な感情ではないでしょうか。

企業側からすると緊急時の対応が必要不可欠です。

特に医療やITなどをはじめとした緊急に応じる24時間体制のサポートが必要な業種では、従業員がまったく連絡を取れない状況は避けなければなりません。

じゃー、「つながらない権利」と緊急対応の必要性をどのように両立させればいいのか。

  1. 緊急時の定義を明確にする
    一言に「緊急事態」といっても人によって定義が異なったり、解釈や思惑が異なるでしょう。その企業にとって、何が本当の「緊急事態」なのかを事前に定義し、全従業員と共有することで不必要な時間外の連絡を減らすことができるはずです。

  2. オンコール体制の導入
    企業側としては他に働き方を制度や仕組みとして整える必要があります。特定の期間、従業員が交代で緊急時の対応を担当する体制を作り、個人の負担を軽減しつつ、必要な対応を確保すること。

  3. 適切な報酬制度
    やっぱり依頼を請けて対応しなければならない従業員側の感情に寄り添えば、緊急時の対応に対して、適切な報酬や代休を設けて従業員の理解を得るようにする必要もあるでしょうね。

  4. 技術を活用する
    あとは何よりそういった緊急対応が必要な際に使用する緊急連絡システムの導入や、一部の緊急対応をAIシステムで自動化することで、人間の介入を最小限に抑える、なんてことも企業努力として必要そうです。

でも、いくら仕組みや制度を設けたところで割を食う人ってのは出てきてしまうものです。どうして仕組みや制度があるのに割りを食う人が出てくるのかといえば、そういう「文化」のようなものが根付いていないから。

緊急時以外は従業員の生活時間を尊重する文化自体を組織として、企業として総員が意識的に作り上げていかなければ根付くものも根付かないでしょう。

多様な労働形態への適用

ここまで読んできて、冒頭の話とすれ違っているように感じられる方もいらっしゃるでしょう。

そう、「つながらない権利」と緊急対応のバランスを考える上で、忘れてはならないのが労働形態の多様さを無視しないこと。

正社員、アルバイト・パートタイマー、リモートワーカーなど、それぞれの状況に応じたアプローチが必要です。

正社員の場合が一番わかりやすいですね。

明確な勤務時間の設定と、時間外労働の管理。それに加え、上述したような文化の醸成を組織が一丸となって実現していくこと。休暇中や週末の連絡は最小限に抑え、緊急時の連絡方法を事前に決めるなど、どうにかして実現に向けて邁進していくほかにありません。

冒頭の調査の対象となっていた、アルバイト・パートタイマーの場合はむずかしいですよねぇ。

まず、雇用契約を結ぶ際に、シンプルで明確なルールを設定し、雇用時に説明すること。この説明部分で同意できないのであれば、契約条件の不一致なわけで、アルバイトやパートタイマー側からしたら断れるはず。

企業側でいうと、シフト管理や緊急連絡用の専用アプリを導入するなど、使いやすいツールを提供することが求められるでしょうね。

個人経営の飲食店なんかは、こういうのを導入することもできないのかもしれませんが、そうなってくればドンドンと人手を確保できなくなったり、タイミーやメルカリハロのようなスポットワークを募集して綱渡りをしていく他になくなっていきそうです。

これから増えていくであろう、リモートワーカーの場合は注意というか、企業側も働き手側も意識的に「つながらない権利」を行使しつづける気概が必要です。

リモートで仕事をこなす、あらゆる組織はSlackやChatwork、Teamsなどチャットツールで仕事を進めているでしょうし、そこにはオンライン/オフラインステータスを明確に示せる機能がついているはず。

おそらく、この機能はすでに利活用されていることと思います。

問題は、勤務時間外の連絡。

リモートワークが前提となると海外で働く人たちもいるでしょうから、必然的に「誰かの勤務時間外は、誰かの勤務時間内」みたいな状況に陥ってしまいがちです。

そうなれば、自動返信の設定を活用するなど、応答可能な時間帯を明示する工夫も必要になってきそうです。通知が本人に届かないようにするとかね。

あとは、緊急のビデオ会議をなくし、できる限り定期的なビデオ会議を設定し、そこで緊急時も含めての対応を定めていくってことも大事にしなきゃいけません。

こうやって考えてみると、企業を経営し、誰かを雇用するってのは本当に大変なことですよね。どんな労働形態においても、個々の状況に配慮しつつ、組織全体で一貫性のあるアプローチを取ることが重要だといわれるわけですから。

生産性と人間らしい生活

やっぱり、人間らしい生活をしたいじゃないですか。

「つながらない権利」を尊重することってのは、単に従業員の生活時間を守るだけでなく、労働生産性の向上にもつながる可能性があるわけで、サービス残業上等な24時間働かせまくる人間性を存分に損なわせてくれるブラック企業は長期的に淘汰されていくべきです。

じゃー、人間らしい生活ってのは、どうやって確保していきましょうか。

まぁ、やっぱり労働時間の質と柔軟性がポイントになりそうな気がします。

長時間労働が必ずしも高い生産性につながらないことは、多くの研究で明らかになっています。

たとえば、OECDの統計によると、労働時間が長い国々が必ずしも生産性が高いわけではないことが示されていまし、日本の労働政策研究・研修機構の報告では、 長時間労働と労働生産性に負の相関関係があることを示唆する調査結果を発表しています。

これ以外にもGoogle Scholarで「労働時間」とか「長時間労働」などと入力して検索してみると、たくさんの研究や調査結果がでてきます。

そうなってくるとですよ。

集中的な短時間労働の方が効果的な場合が多いのでしょう、きっとね。

だったら、みんなで一律に出社するのではなく、フレックスタイム制の導入して、個人の生活リズムに合わせた勤務時間の設定が可能にしたり、会議やメールチェックを特定の時間帯に限定し、集中作業時間の確保するなどの仕組みや制度、文化があってもいいでしょう。

あとは、徐々に導入する企業が増えてるらしい週4日間の勤務とかもいいんじゃないですか。

一方で、インターネットなどテクノロジーのおかげで物理的な距離をすっ飛ばしてつながることができるから便利になったのですが、常に「つながっている」状態を作り出す原因にもなっています。

これの解消に悩んでいるのが現代ならではの悩みなのでしょう。

でも、日本では人手が足りなくなってきているのだから、最近流行りのAIや自動化技術を活用して単純作業を減らしたりできれば嬉しいですよね。

上の集中作業時間を確保することと同じような意見ですが、「つながらない時間」を設定し、1日のうち特定の時間帯はメールチェックを控えるなどを機械的に通知されないようにすることも大事。

あとは、定期的な「デジタルデトックス」ですね。散歩いけ、散歩。

運動があるのなら、心理的な健康を保つためにメンタルヘルスのケアだって必要になってきます。最近は精神疾患の数が増えたと言われますが、それは「つながらない権利」が叫ばれるようになった背景と無関係ではないんじゃないですかね。

おわりに

デジタル時代の働き方において、「つながらない権利」と生産性の両立は避けて通れない課題ですが、ここまで長々と考えてきた通り、この課題に対する解決策は一つじゃないんですよね。

最終的には、「つながらない権利」を単なる規制としてではなく、より健全で生産的な労働環境を作り出すための機会として捉えないとダメでしょう。デンマークみたいに16時には誰もオフィスにいない状況を作り出そうとするのなら、これまでの慣習なんて関係なく素っ頓狂な取り組みをしていく他には実現できません。

でも、そういった一見すると突拍子もないことをしているような「常識外れ」な人たちが、新しい価値観を生み出していく他に、日本的な働き方も解消されないでしょうし、「つながらない権利」も行使できないんじゃないでしょうかね。

ではでは。
ゑんどう(@ryosuke_endo)


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ゑんどう ≒ 遠藤 涼介
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