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武装少女とステップ気候

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クルドの少女による、ハードボイルドマカロニウエスタン系童話
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2014年5月の記事一覧

武装少女とステップ気候(目次)

武装少女とステップ気候(目次)

 クルドの少女によるハードボイルドマカロニウエスタン系童話
中東某国の内戦のなかで武装した少女兵が海を見に西へとあるいていくお話

Α:ピースメイカーは奏でない
1.許されざる一匹狼(マーヴェリック)
2.狂犬アノニマ
3.地雷を踏みつつコンニチワ
4.中東戦線異状なし (1)/(2)/(3)/(4)/(5)/(6)/(7)/(8)
5.荒野のエトランゼ (1)/(2)/(3)/(4)/(5)/(

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3:地雷を踏みつつコンニチワ

3:地雷を踏みつつコンニチワ

 うううううう、と狼犬のカマルが唸りました。少女は彼にクルドの言葉で〈待て(ボウスタ)〉と呟いて、姿勢を低くし、いちめんの砂の地平線の向こうに目を凝らしました。
 それは点でした。もっと厳密に言うと、地雷を踏んだまま天を仰いでいる、異邦人(エトランゼ)の服を着た長い黒髪をした一人の男でした。
「なんだ、あいつは……」
少女が鬱陶しそうに呟きました。それから、ぴゅうと指笛を鳴らしますと、どこからとも

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2:狂犬アノニマ

2:狂犬アノニマ

「いいか? 嬢ちゃん動くなよ……声も出したらいけねぇぜ」
不覚。とだけ少女は思いました。
 少女は銃を向けられていました。視界の開ける砂漠の夜に、少女は独りで眠っていましたから、その隙を突かれてしまったのでした。晴れた空には三日月が輝いていました。
 男は顔中に髭をたくわえて、髪は長く、日射しとアルコールに焼けた鼻をして、垢まみれの服を着ており、明らかに浮浪者(スカベンジャー)でした。男は下品に笑

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1:許されざる一匹狼(マーヴェリック)

1:許されざる一匹狼(マーヴェリック)

 この国では春から内戦が続いておりました。同じ年の三月十一日には日本という国で大地震が起こり、五月の初めにはパキスタンで9・11の首謀者とされた男が米軍によって殺害され、おおよそ三週間が過ぎた今でも、戦火は治まる事を知らないようでした。

 曇り空の夜、東から続く広大な砂漠の道を数台のトラックが走っていました。幌に覆われた荷台の積荷は、大量の武器でした。イラク製カラシニコフ突撃銃、通称『タブク』、

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Α:ピースメイカーは奏でない

Α:ピースメイカーは奏でない

 いちめんの眩しい砂漠に響くのは一続きのピアノの音でした。
 それはたったの六秒間だけ、すぱぱぱぱぱという乾いた甲高い音を立てながら、人間の叫び声と一緒に奏でるひとつの和音(ハーモニー)でした。
 そして銃声が止みました。
 米軍補給部隊所属のジェーン・C・サンダース中尉は、予断を許さぬように、小隊にいったん待機命令を出しました。
「な、何が起きてるんだ……?」
ウィリアム・ギルバート・ハント三等

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