糖尿病×高血圧【最悪タッグの治療法】

※2024/2/28加筆修正

糖尿病と高血圧の合併症例は多く見かけますよね.

それもそのはず.

糖尿病患者の高血圧の有病率は,非糖尿病患者の約2倍
高血圧患者の糖尿病有病率は,非高血圧患者の2-3倍

とされています.

この背景には,内臓脂肪型肥満や,インスリン抵抗性が,双方に共通した基盤因子であるからです.

いわゆる,メタボリックシンドロームです.

糖尿病と高血圧を合併することは,心血管系リスクを相乗的に増加させるので,最悪のタッグです.

どれくらいやばい組み合わせかというと,高血圧合併糖尿病患者全死亡率は,正常血圧・非糖尿病患者の6‐7倍とされます.

今回は,この最悪のタッグへの対策をまとめていきます.


■高血圧治療の観点から

糖尿病患者の心血管疾患予防は,血糖管理だけでは不十分であることがわかってきています.
>>この点に関してはこちらの記事で解説してます.

このような,一つの疾患にとらわれない集学的な観点からも,高血圧学会のガイドラインでは,糖尿病症例で血圧が130/80mmHgを越えている場合,直ちに降圧薬を開始することが推奨されています.

(一応,”生活習慣の是正で降圧が期待される場合”のみ3カ月を超えない範囲で非薬物療法を試みても良い,となっています.)

[余談]
メタボリックシンドロームが悪いわけなので,根底を正すなら,肥満やインスリン抵抗の是正が重要です.
ただ,高血圧は高血圧で,細小血管障害や,心血管イベントを含む大血管障害の独立した危険因子です.
それゆえ,治療介入の意義はとても大きいことになります.

1.降圧目標とエビデンス

高血圧学会のガイドラインによれば,糖尿病と高血圧の合併症例における降圧目標130/80mmHg未満となります.

JSH2019 降圧目標 ぷーオリジナル

適切な降圧によって,腎症や網膜症の発症進展が抑制される.
また,脳血管障害や心疾患のリスクも低下するとされます.

目標値のエビデンスはどうでしょう.

2009年に発表されたADVANCE試験の結果から,ACE阻害薬(ペリンドプリル)+利尿薬(インダパミド)で130/80mmHg未満にしたら糖尿病性腎症の進展抑制効果が認められました(J Am Soc Nephrol.2009 Apr;20(4):883-92.).

「おお,これはいいじゃん.」
「ガンガン治療しようぜ.」
となりました.

が,しかし
2010年に発表されたACCORD-BP試験の結果で,糖尿病に対する厳格降圧(収縮期血圧<120mmHg)は対照群(収縮期血圧<140mmHg)に比して,MI,脳卒中,心血管死の複合エンドポイントを改善させませんでした
実は,厳格降圧(収縮期血圧<120mmHg)の有益性を示した代表的な試験であるSPRINT試験から糖尿病は除外されています.

「ADVANCE試験では薬が良かっただけ?」
「じゃあ,厳格に降圧する意義はないのか!?」

ここで,SPRINT試験で登録されたような心血管リスクの高い症例に限って事後解析を行ったところ,ACCORD-BP試験でも厳格降圧(収縮期血圧<120mmHg)で心血管イベントの複合エンドポイントを21%減少させていました(Diabetes Care.2017 Dec;40(12):1733-1738.).
やっぱりリスクの放置はよくないということ.

また,メタ解析の結果から,収縮期血圧<130mmHgで,脳卒中発症やアルブミン尿の低減が確認されています(心血管イベントはあまり減らなそう).
また,日本人を対象に糖尿病患者の集学的な治療の有効性を検討したJ-DOIT3でも,強化治療群(目標120/75mmHg未満)で脳卒中が58%減少することが示唆されています.
過降圧による腎機能悪化などの懸念を勘案して,実際の降圧目標は130/80mmHg未満で落ち着いています.

余談
2010年に発表されたACCORD-BP試験の結果を受けて,ESH/ESC2013ガイドラインで,糖尿病合併高血圧の治療目標値は140/85mmHgに一度緩和されました.
ただし,2015年のSPRINT試験などの流れから2018年のガイドライン改訂では130/80mmHg未満に復帰.最新のESH2023ガイドラインでも,糖尿病合併高血圧の目標値は130/80mmHg未満のままです.

ガイドラインですら,最新のエビデンスで治療目標がコロコロ変わる中,個別化の必要もある我々の実臨床は容易なものではないですね.



2.降圧薬の選択

糖尿病合併高血圧に使用する降圧薬の第一選択は,ACE阻害薬もしくはARBです.

これは,臓器保護作用インスリン抵抗性改善作用を考慮した結果です.

【細かい話】
糖尿病合併高血圧において,ACE阻害薬/ARBと他の降圧薬を比較したメタ解析の結果,心血管疾患の発症や全死亡において,ACE阻害薬/ARBが優れる傾向にあるものの,有意でありませんでした.
つまり,厳密には,「糖尿病合併高血圧⇒まずはACE阻害薬/ARB」という単純な話ではありません.
しかし,糖尿病性腎症の進展防止に対するACE阻害薬/ARBの有用性は確固たるものであり,ガイドライン上は「微量アルブミン尿 or 蛋白尿を併存する場合は,ACE阻害薬/ARBを推奨する.」とされています.
そして,現実的には,糖尿病症例の多くが,ごく初期でない限り微量アルブミン尿は呈しており,また,近い将来に微量アルブミン尿を呈してくる可能性があります.
ゆえに,「糖尿病合併高血圧⇒まずはACE阻害薬/ARB」としても,たいてい良い選択に落ち着くことが多いわけです.

「この症例は,糖尿病合併高血圧だけど,(例えば高K血症があり)ACE阻害薬/ARBは使用しづらいな」
ってなった時は,微量アルブミン尿ないし蛋白尿の有無をチェックして,他の降圧薬を第一選択薬にするのもok
という柔軟性だけ,持っておいてください.

第二選択としては,長時間作用型Ca拮抗薬,もしくは少量サイアザイド系利尿薬です.これは,二剤目での確実な降圧作用を重視したからです.

第三選択は,第二選択で使用しなかった方,となります.

[サイアザイド系利尿薬の注意点]
➀骨格筋血流量の減少→インスリン抵抗性増大
➁血清K濃度低下による膵インスリン分泌の低下
➂トリグリセリドの上昇

など,糖質脂質代謝に悪影響を及ぼす可能性があるので,少量の使用にとどめるのが望ましいとされます.

3.熾烈な2位争いを深掘る:Ca拮抗薬かサイアザイド系利尿薬か

上述したサイアザイドの糖質脂質代謝悪化を懸念して,Ca拮抗薬がまず考慮されることが多くなります

エビデンスとしては,ACCOMPLISH試験は,ACE阻害薬に加える2剤目を,Ca拮抗薬 vs サイアザイド系利尿薬で比較しましたが,Ca拮抗薬群で心血管イベントが21%低くCa拮抗薬優勢の結果でした.

ただ一方で,GUARD試験では,RAS阻害薬の併用薬としてのCa拮抗薬とサイアザイド系利尿薬を,腎機能障害進展抑制の観点で比較すると,タンパク尿の予防にはサイアザイド系利尿薬が有利という結果でした.
先に述べた,ACCOMPLISH試験でも,CKD症例に限ったデータでは,サイアザイド系利尿薬はCa拮抗薬に非劣性でした

体液貯留を伴う症例などでは,少量サイアザイド系利尿薬を優先して選んでもいいかもしれません.

【糖尿病合併高血圧の熾烈な2位争いまとめ】
ガイドラインではCa拮抗薬とサイアザイド系利尿薬が同列
エビデンスや薬理作用的にはややCa拮抗薬優勢
・ただし,体液貯留例などでは,少量サイアザイドを優先してもいい
・結局,最終的には個々の症例で判断すべき

4.現実問題:降圧目標達成のために

降圧目標である130/80mmHgを達成している症例は2割程度との報告もあり,副作用などの問題からか,実臨床ではまだまだ甘い管理がしばしば見受けられます.

ACE阻害薬/ARB,Ca拮抗薬,少量サイアザイド系利尿薬の3剤でコントロールがつかない時,β遮断薬やα遮断薬の選択肢も考量しておくべきです.

▼β遮断薬
➀低血糖症状をマスクする
➁心拍出低下→骨格筋血流量減少→インスリン抵抗性増悪

の2点から,”糖尿病には使用しづらい”という位置づけになります.

ただし,β遮断薬は,心不全や狭心症合併例への推奨度が高いので,併用されることは少なくありません.
言い方を変えれば,この➀➁のデメリットを上回るほど,心疾患にとってはキードラッグということになります.
糖尿病だからといって,必要な時のβ遮断薬使用はためらわなくていいです

▼α遮断薬
降圧薬のガイドラインにおいて第一選択とならない位置づけですが,代謝面においては,血管拡張作用などからインスリン抵抗性の改善,トリグリセリドの低下,HDL上昇などの効果が期待できます.
ただ,糖尿病患者は起立性低血圧を起こしやすく,α遮断薬はその増悪因子となるので,そこには注意.

[余談]ACE阻害薬とARBの併用はどうか
・結論:ダメ
不動の第一選択であるACE阻害薬/ARB.これらを2剤とも使ったらどうなるか,というのは誰もが試したくなることだろう.
これを試したONTARGET試験にて,「有用性がない一方で,低血圧,腎機能悪化,高Kなどの有害事象が増えた」という,残念過ぎる結果だったので,推奨されない組み合わせとなっています

■糖尿病治療の観点から

糖尿病治療薬,すなわち血糖降下薬の観点からは,”高血圧を合併しているからこの薬!”というのはありません.

強いて言えば,メタボリックシンドロームが根底にあるのであれば,メトホルミンチアゾリジンのようなインスリン抵抗性改善薬が優先され,SU薬グリニドのような,体重増加をさせる,ないしその可能性がある薬剤は,優先度を下げるべきかもしれません.

体重減少の効果が期待される,SGLT2阻害薬GLP1アナログを選択するのもいいかもしれません.


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