【心不全に対する降圧薬比較】β遮断薬 vs ACE阻害薬 vs ARB【エビデンスは?ガイドラインは?】

心不全に対するβ遮断薬とACE阻害薬/ARBの推奨やエビデンスを戦わせてみました.

ガイドラインは?

日本循環器学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」よりピックアップします.

1.HFrEF(EF40%未満の心不全)

明確に心収縮能が低下している場合ですね.

➀ACE阻害薬
無症候性だろうと,心不全入院を抑制し,生命予後を改善することが証明されている.
禁忌がなければ,全てのHFrEFに用いられるべき.(classⅠA)
高用量と低用量で死亡率に明確な差はないが,ATLAS試験の結果では,入院 or 死亡の複合エンドポイントは高用量で有意に改善させたので,忍容性があるかぎり増量を試みる.
➁ARB
大規模臨床試験において,ACE阻害薬に劣らない心血管イベント抑制効果.ACE阻害薬に忍容性がない場合,投与すべき.(classⅠA)
➂β遮断薬
有症候性HFrEFのビソプロロールとカルベジロール,metoprolol succinate(☜本邦採用なし)の生命予後改善効果は明らかとなっている.
有症候性HFrEFに予後改善のために用いるべき.(classⅠA)
無症候のHFrEFに対するβ遮断薬のエビデンスもある.(classⅡaB)
HFrEF+頻脈性心房細動のRate control(classⅡaB)

 2.HFpEF(EF50%以上の心不全)

心収縮能が保たれている場合.

大前提として,これまでHFpEFに対する薬物療法として,死亡率や臨床イベント発生率の低下効果が前向き介入研究で明確に示されたものはありません.(意外に恐ろしい病気)

よって,ガイドラインが推奨している治療の基本は症状軽減.(例えば,うっ血したら利尿剤)

今回のテーマである降圧薬(高血圧治療)に関する記載は,こう.

個別に推奨される降圧薬や目標血圧値に関しては十分なエビデンスが得られていないため,個別の症例に応じた適切な血圧管理を実施する.

3.HFmrEF(EF40-49%の心不全)

どっちつかずな状態.

エビデンスも確実なものなく,推奨の記載なし.(β遮断薬の可能性だけちょっと言及あり)

4.心不全ステージ別にはどうか

ステージA(危険因子はあるが,心機能の障害がない)は,要は,高血圧や糖尿病などのベース疾患があるだけなので,β遮断薬の推奨は低いです.(降圧薬としては第一選択薬ではないので)
まずは,ACE阻害薬(忍容性なければARB)

ステージB(心機能障害はあるが,無症候)でも,まずはACE阻害薬(忍容性なければARB)心筋梗塞後の収縮不全ではβ遮断薬も考慮する,といった形.
上述した推奨度でも,無症候性はclassⅡaBでしたしね.

ステージC(有症候性心不全)では,NYHAⅡ度以上で,ACE阻害薬(or ARB)とβ遮断薬の両方の使用が推奨されます.
この場合の優先順位はほとんど明記がありません

 

小まとめ【結局...】

無症候性のうちは,

ACE阻害薬(≧ARB)>β遮断薬

のヒエラルキーです(ガイドライン上は).

この背景には,心不全に関するβ遮断薬のエビデンスを見出した多くのstudyで,ACE阻害薬に追加する形でβ遮断薬が加えられていたこともあります.
ただし,ACE阻害薬とβ遮断薬をどちらを先行させても治療効果と安全性はに差がないことも確認されています.(Circulation. 2005 Oct 18;112(16):2426-35.)


一方,心機能で分類した場合,EF40%以上の心不全(HFpEF, HFmrEF)において,降圧薬としての明確な推奨はありません

ということで,優先順位に迷うのは,

EF40%未満の有症候性心不全

です.

EF40%未満の有症候性心不全に対して,β遮断薬とACE阻害薬/ARBのどちらを優先するか

ESCのガイドラインでは,β遮断薬とACE阻害薬のどちらを優先すべきかは言及されていません.

AHAのガイドラインでは,β遮断薬とACE阻害薬のどちらもclassⅠとしつつも,「β遮断薬は,安定した心不全患者に投与すべき」と条件を付けています

ということで,一般的にはACE阻害薬から開始となることが多いかもしれません.

β遮断薬を優先して使うとき➀:腎障害

心不全症例における腎障害は,心腎連関と言って,複雑な病態になります.
心腎連関についての解説記事はこちら

ACE阻害薬/ARBは,腎輸出細動脈を拡張させることで糸球体内圧を下げます.このことから,ACE阻害薬やARBの使用で,糸球体濾過率(GFR)は(機能的に)低下します.

この事実に加え,心不全症例は腎血流の低下によってGFRが増悪する可能性があるため,心不全治療中に腎機能が増悪すると,GFRを少しでも保つために,ACE阻害薬/ARBを減量や中止することは少なくありません.

また,ACE阻害薬やARBの大規模臨床試験では,CKD ステージ4~5(eGFR<30 mL/分/1.73m2)の症例はほとんど除外されています

「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」では,CKDステージ3 (eGFR 30~59 mL/分/1.73m2)の場合は,ACE阻害薬/ARBの心血管イベント抑制効果は,正常腎機能と変わらずに発揮されるものとしており,β遮断薬と同等の推奨度としています.

【CKD ステージ3 の心不全への推奨】
・ACE阻害薬がⅠA
・ARBがⅠB
・β遮断薬がⅠA

CKD ステージ4~5(eGFR<30 mL/分/1.73m2)の場合,投与開始時の腎機能増悪や高カリウム血症を懸念して,ACE阻害薬/ARBは少量から開始すること,と注意しつつ,若干β遮断薬優位の推奨となっています.

【CKD ステージ4~5の心不全への推奨】
・ACE阻害薬がⅡbB
・ARBがⅡbB
・β遮断薬がⅡaB

先に述べた,話と合わせるに,CKDステージ3 (eGFR 30~59 mL/分/1.73m2)の場合や透析症例は,ACE阻害薬/ARよりβ遮断薬を優先して投与することを検討しましょう.

 

β遮断薬を優先して使うとき➁:不整脈合併心不全

頻脈性心房細動においては,頻脈自体が心不全増悪因子となりかねません.

また,心室性不整脈は,心不全の予後不良マーカーであるとともに,突然死の可能性を高めます.

これらの対応として,β遮断薬は有用です.

よって,不整脈合併心不全では,あえてβ遮断薬を,ACE阻害薬/ARBより優先して使用する根拠があります.

 

β遮断薬を優先して使うとき(おまけ):HFpEF

ガイドラインには明記されておらず,コンセンサスは得られていませんが,HFpEFに効果がある可能性がある薬剤として,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬とβ遮断薬が挙げられます.

心房細動のような不整脈合併が多いことも起因しているのでしょうか?

ゆえに,HFpEFの場合は,β遮断薬を優先してもいいかもしれません.

ただし,ステージBまで,すなわち,無症候だと(前述の通り)ACE阻害薬/ARB優先なので

「有症候性のHFpEF」で,ACE阻害薬/ARBよりβ遮断薬の方が有効な可能性がある,と考えましょう.

【余談】β遮断薬とACE阻害薬のどちらを優先して最大量まで増量するか

”どちらを優先するか”という話題をしましたが,そもそもステージB以上の心不全では,β遮断薬とACE阻害薬の併用が基本です.
よって,実際の問題として多いの,血圧が低かったりして”どちらを優先して増量するか”というテーマの疑問だったりします.

一般的に,β遮断薬の予後改善効果は,ACE阻害薬に比して大きいことが示されています.(Cardiovasc Drugs Ther. 2004 Jan;18(1):57-66.)

また,とりわけβ遮断薬の方が,増量時は慎重に気を遣うようにガイドライン上も言われてるので,まずは(面倒な)β遮断薬の増量に意識を集中することが,個人的には多いです.

実際にはコンセンサスが得られていないことであり,ACE阻害薬を先に増量する派もいると思うので,主張するつもりはありませんが,私のやりかたのご紹介でした.
 

今回の話は以上です.

本日もおつかれさまでした!

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