ステロイド糖尿病のまとめ【特徴,治療時の注意点など】
ステロイド使用者の血糖が高くなることは有名ですよね.
ステロイド糖尿病は,そんなステロイドで発症する糖尿病であり,本態性の糖尿病とは異なる特徴があります.
私のような循環器内科ではサルコイドーシスや好酸球性心筋炎などでステロイドを使用します.
他にも,呼吸器なら間質性肺炎や気管支喘息,消化器なら自己免疫性肝炎,腎臓内科ならネフローゼなど...
と,内科にいればステロイドを全く使わないということはないと思います.
今回は,そんなステロイド糖尿病の特徴と,特徴に合わせた治療選択の話をします.
ステロイド糖尿病になる仕組み
ステロイド(グルココルチコイド)の作用によって
➀肝における糖新生亢進
➁インスリン抵抗性
➂食欲増進(GLP-1の低下などが関与している可能性)
など,複数の因子が関与しているとされる.
ステロイド糖尿病の特徴
1.食後高血糖が中心
空腹時血糖だけ見ていても気づけないので注意.
食後血糖の測定や,HbA1c・グリコアルブミンのチェックを欠かさないようにする.
2.昼~夕方にかけて急激に血糖値上昇
ステロイド製剤は朝内服することが多いです.
これは,内因性ステロイドが朝に多く分泌されることから,朝内服が生理的な作用に近いことや,夕などに内服すると,目がさえて不眠症状が出てしまうことなどにもとづきます.
そのため,薬効の立ち上がりの関係で,昼食後から就寝前にかけて高血糖が顕在化しやすいのがステロイド糖尿病の特徴です.
午前中外来では見逃しやすいので注意してください.
ステロイド糖尿病の疫学
糖尿病発症には,投与量というより,投与期間の方が因果関係が強いとされます.
90日投与で66%発症,300日投与で94.2%発症というデータもあります.(参照)
また,高齢者や肥満患者は,ステロイド糖尿病になりやすいとされるので,特に注意が必要です.
ステロイド糖尿病の治療の特徴
ステロイド糖尿病は食後高血糖が特徴的であり,その治療の基本は,速攻~超速効型インスリンの使用がスタンダードでした.
しかし,「高齢者糖尿病治療ガイド2018」において,”少量のステロイドであれば内服薬で管理できることも多い”とされ,αグルコシダーゼ阻害薬やDPP4阻害薬,グリニド薬,GLP-1アナログなどの投与が有効なことが多いとも記載されました.
インスリン抵抗性改善薬は良くないのか?
病態の中心はインスリン抵抗性なので,「チアゾリジンやビグアナイドが有効なんじゃない?」と思うかもしれませんが,出番は意外に少ないです.
その理由は,
■チアゾリジンの副作用の浮腫がステロイドと相性が悪い
■チアゾリジン誘導体は,グルココルチコイド受容体の部分作動薬(パーシャルアゴニスト)のため,ステロイドの作用する増強する恐れがる
■メトホルミンは,空腹時血糖も下げてしまうので,(特に午前中の)低血糖リスクがある
チアゾリジンやビグアナイドを使用する場合は,ごく少量からにしましょう.
ステロイド糖尿病に適した薬剤➀:DPP4阻害薬
食後血糖を下げる効果があり,副作用も目立ったものはない.
1日1回内服のものが多く,アドヒアランス的にも良い.
グルカゴン分泌抑制作用もあり,糖新生抑制という意味で理にかなっている.
薬価は高め.
ステロイド糖尿病に適した薬剤➁:αグルコシダーゼ阻害薬
食後高血糖改善薬の代表.
血糖が上がりやすい食事をしらべ,1日1回などの少量で始めて徐々に増量していく方が消化器系の副作用が少なく済むので,よい.
低血糖のリスクは極めて低いが,血糖を下げる作用は弱い.
ステロイド糖尿病に適した薬剤:レパグリニド(シュアポスト®)
グリニド薬は,薬効的には使用が検討されてもいいはずなのに,ステロイド糖尿病への使用経験データが少ない薬剤です.
おそたく,併用薬の制限が多かったことからか検証されていなかったのではないかと推測されます..
他のグリニドでも問題なさそうですが,最新のグリニドであるシュアポスト®には,ステロイド糖尿病に対して,グルカゴン分泌を増やさずに食後高血糖を是正したデータがあるので,ステロイド糖尿病の治療選択肢として,グリニドは問題ないです.
このあたりの食後高血糖改善薬の使い分けについては,この記事も参照してみてください.
ステロイド糖尿病の治療まとめ
・基本は,速効型~超速効型インスリンの使用を検討する.
・ステロイドの使用量が少なかったり,高血糖の程度が軽い場合,内服でのcontrolも可能.
・基本的には食後高血糖改善薬から選択.併用も検討.
・インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジンやビグアナイド)も選択肢には挙がるが,リスクがあり,優先しては使用しない.使用する場合はごく少量からとする.特に,(元来エビデンスレベルの高い)ビグアナイドは,ステロイド糖尿病に使用すると低血糖のリスクが高いので注意.
・SU薬や持効型インスリンは,まず意味がないし,低血糖リスクも高くなるので,禁忌に近い.