【何に気をつける?なぜ気をつける?】慢性腎臓病症例に対するβ遮断薬【薬剤選択の注意】
慢性腎臓病CKDが,心不全のリスクであることは明らか
β遮断薬は,エビデンス確立された心不全の標準治療薬
ゆえに,CKD症例にβ遮断薬は適応となることが多いです.
にもかかわらず,古典的な非選択性β遮断薬がCKDを増悪させるなどした負の遺産のためか,その適応の割には使用が敬遠されています.
本当にそこまで慎重になるべきなのか.
今回は,CKDとβ遮断薬の関係を解説します.
CKDと交感神経
CKD症例では交感神経活性が亢進しています(J Am Soc Nephrol. 2004 Mar;15(3):524-37.).
CKDで交感神経活性が亢進する機序
CKDでは,全般的に酸化ストレスが亢進しており,活性酸素種が一酸化窒素(NO)を消去することにより,交感神経の亢進を引き起こすことが推測されています.
また,腎虚血によってRAA系が亢進されることも,交感神経活性亢進には関与しています.
難しいので,全然覚えなくていいです.
このことは,CKD症例で高血圧が多くなる要因であることに加え,直接的な腎障害の悪化にもつながります.(≫心腎連関の要素の1つですね.解説記事はこちら.)
CKDの進行と交感神経活性は,実は関係が深いわけです.
交感神経活性の抑制に,腎保護作用があるか
このことに着目し,各種の腎障害モデルで神経切除もしくは薬理学的に交感神経抑制をすることで,腎保護作用が得られないか検討されており,タンパク尿軽減効果や腎障害進展抑制効果の報告もあります.
ただ,プロプラノロールやアテノロールなどの従来型の非選択性β遮断薬は,ACE阻害薬/ARBに比して腎保護作用が劣ることが多くの報告で確認されていしまっています.
しかし,αβ遮断薬であるカルベジロールにおいて,腎保護作用が示されています(β遮断薬のすべて 第 3 版 2009).
ひとえにβ遮断薬といっても,腎臓に対する作用は一様でないことが考えられます.
結局,CKD症例にβ遮断薬は使用していいのか
ということで,交感神経活性と腎障害には関係性があり,一部のβ遮断薬では腎保護作用の報告もあるわけです.
また,心腎連関の観点から,心機能を改善させる可能性のあるβ遮断薬は,腎保護に働く可能性もあるため,少なくとも
「CKDだからβ遮断薬の使用を控える」なんてことは
してはなりません.
ガイドラインなどでもそんなことは言われてませんからね.
実際,心筋梗塞後およびHFrEFを対象にした6つのStudy(CIBISⅡ,MERIT-HF,COPERNICUSなど)のメタ解析では,CKD stage 3~5の症例に関しても,β遮断薬の使用によって全死亡が28%減少したことが確認されています(J Am Coll Cardiol. 2011 Sep 6;58(11):1152-61.).
例えば,Stage B以上の心不全など,β遮断薬の使用が推奨されてる状況ならば,CKDであろうとβ遮断薬の使用をためらうべきではありません.
CKD症例にβ遮断薬を使用する際の薬剤選択は?:一応,カルベジロールを優先に選択
β遮断薬では,(β受容体刺激の抑制のため)相対的にα1受容体活性が亢進し,末梢血管の収縮が起きます.
このことは,腎血管抵抗を上昇させ,糸球体濾過量(GFR)や腎血流量の低下につながります.
カルベジロールはαβ遮断薬なので,α遮断作用から前述した機序と逆に働き,腎保護的に働く可能性があります.
加えて,カルベジロールは,同じくα遮断作用によってインスリン抵抗性の改善や,カリウム上昇の抑制があり,その点でもCKD症例では有利です.
(≫糖代謝とβ遮断薬の関係はこちらで解説しています.)
さらに,高い脂溶性をもつことも,CKD症例に使いやすい一因となります.
以上より,CKD症例では,カルベジロールをまずは選択することを考えましょう.
また,β2遮断作用があると,血管拡張が阻害されるので,上述したような糸球体濾過量(GFR)や腎血流量の低下が起きやすくなります.
カルベジロール以外のβ遮断薬を選択する際は,ビソプロロールのようなβ1選択性の高い薬剤を選ぶようにしましょう.
CKD症例にβ遮断薬を用いる場合は
・α遮断作用を併せ持ち,腎保護作用の報告もあるカルベジロールを一応1stにしておく.
・ビソプロロールのようなβ1選択性が高いβ遮断薬でもok.
・代謝のことを考えた場合,脂溶性の方がbetter.(カルベジロールとビソプロロールはいずれも脂溶性)
透析症例のβ遮断薬の考え方
透析症例では高率に心不全を合併することは自明です.
よって,β遮断薬の適応を考える場面は多いと思います.
拡張型心筋症の透析患者を対象にカルベジロールの有効性を検討したRCTでは,2年後の心機能,死亡率を有意に改善させています(J Am Coll Cardiol. 2003 May 7;41(9):1438-44.).
また,心筋梗塞合併の末期腎不全症例を対象にしたstudyでは,透析・非透析に関わらず,β遮断薬には予後改善効果が認められています(J Am Coll Cardiol. 2003 Jul 16;42(2):201-8. ).
透析症例は,血圧の変動なども多く,β遮断薬の扱いがより一層難しいとは思いますが,エビデンス的には,やはり,透析症例であってもβ遮断薬を使用しない理由にはならないでしょう.
先日,Twitterでだるべ先生からこのような論文の紹介がありました.
確かに,と思ったのは,上述のようにα遮断作用によって腎血流などが維持されることが期待されるカルベジロールでしたが,透析症例ともなると,α遮断作用は血圧低下を起こしやすいな,と思いました.
この点を考えると,透析症例では(β1選択性の高い)ビソプロロールを選択してもいいかもしれません.
この選択にコンセンサスはありませんので,実際に使用してみて調整してみましょう.
まとめ
今回は,CKD症例におけるβ遮断薬の考え方,薬剤選択の仕方を解説しました.
平たく言うと,非CKD症例とほぼほぼ変わりません.
・β遮断薬が推奨される状況ならば,(非CKD症例と同じく)カルベジロールかビソプロロールを選択.
・腎保護エビデンスなどを考えたとき,α遮断作用のあるカルベジロールを優先してもいいが,β1選択性の高いビソプロロールでも問題はない.
・また,透析症例でも同様にβ遮断薬は用いるべきですが,透析時の血圧低下を考えると,カルベジロールよりビソプロロールが使いやすい場面もある.
・この2剤以外のβ遮断薬をあえて選択する意味はなし.
今回の話は以上です.
本日もお疲れ様でした.
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