【よく見かけません?】血圧を上げたがる腎臓内科医と血圧下げたがる循環器内科医の構図【なぜ?適切な血圧とは?】
同じ患者さんでも,腎臓内科の先生は血圧を下げたがらず,循環器内科の先生は血圧を下げたがる,って場面みたことないですか?
これは別に2つの科は仲悪いわけではないですよ?
これは,”戦っている病態”が違うから,です.
どちらが正解ということもなく,どちらも正解とも言えます.
「場面や症例によって適切な血圧は異なる」
と言ってしまったらそれまでですが,それぞれの専門領域からの見え方を整理しましょう.
それを知ることで,盲目的に行き当たりばったりの血圧対応をしているときより,血圧管理のレベルが1段アップしますよ.
ちなみに,領域をまたがる分,意外に理解していない人が多いところだと思います.
簡単に解説するので,是非読んでみてください.
■1.腎臓内科医の視点
➀腎臓にとっての血圧 と 血圧管理にとっての尿量
腎臓は,臓器の中でも灌流圧の影響を受けやすい臓器です.
「尿量が低下してます!」
って報告,看護師さんなら一度はしたことあるんじゃないですかね?
これは,臓器灌流圧低下のアラートなんです.
別に,腎臓”だけ”を守りたいわけじゃないです.
「これを放置したら,次は他の臓器も灌流障害になって,最悪の場合,多臓器不全になるかもよ?」
という,臓器灌流圧低下をいち早く知らせてくれる,かつ,計測が容易なバロメーターなんです.
だから尿量低下は重要な報告なんです.
➁正常以上に血圧を上げる意味
とはいえですよ.
正常血圧を越える血圧が必要なんてことありますかね?
だって,”正常”なんですよ?
実際に,血圧上昇に連なる”糸球体内圧の上昇”は,糸球体過剰濾過からCKDの原因となります.
ゆえに,降圧が適切な場面もあることは大前提としましょう.
(≫CKDと高血圧の関係はこちらの記事で解説しています.)
結論から言うと,正常血圧以上の血圧が,腎臓の灌流に適切な場合はあります.
「正常血圧性腎障害」という考え方があります.
極端な話をすれば,両側腎動脈に高度狭窄がある場合を想像してみてください.
この場合,体血圧が正常でも,腎臓(の血管)への灌流圧が低くなることは想像しやすくないですか?
弁当についている醤油とかドレッシングの袋,ありますよね.あの口を切るのミスって,出口がめっちゃ小さくなることないですか?
あの時,めっちゃ思いっきり圧をかけないと中身出てきませんよね?
あれと同じです.
ここまで極端でなくとも,動脈硬化の影響で,輸入細動脈に至るまでの血管が動脈硬化ないし狭窄をしていると,体血圧の割に腎灌流圧が下がることがあります.
ある程度の血圧低下なら,プロスタグランジン(PG)系亢進を介した輸入細動脈が拡張,もしくは,RAA系亢進を介して輸出細動脈が収縮することで,糸球体内圧が一定に保たれれ,糸球体濾過は維持されます.
しかし,動脈硬化症例では,これらの自動調節能が破綻してきます.
結果的に,糸球体濾過の低下,さらには,腎髄質血流の低下による尿細管障害などから,腎障害に至ります.
これが「正常血圧性腎障害」の考え方です.
「動脈硬化のせいで,血圧が腎臓まで届かない」
「動脈硬化のせいで,血圧低下に対する調節能力も破綻」
とザックリ考えてください.
■2.循環器内科医の視点
続いて,私が専攻する循環器内科からの視点です.
後負荷の話.
➀血圧上昇に関わる血管抵抗上昇は後負荷
血圧は,心拍出量×血管抵抗で規定されます.
心拍出量が必要以上に上昇する病態は一般的には少ないので,(低血圧からの循環回復などでなければ)血圧上昇は基本的には血管抵抗の上昇と考えられえます.
血管抵抗は,心臓にとって後負荷です.
後負荷が上昇すると心拍出が低下します.
(≫循環動態と血管抵抗の関係はこちらの記事で解説しています.)
また,実際に使用される降圧薬の多くは血管抵抗を軽減させます.
(ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬,ACE阻害薬/ARB,硝酸薬...etc)
「ほら,心臓にとって血圧を下げるのはいいことじゃないか!」
って思っていただければ,まずはいいんですが.
でも,程度が違くないですか?
腎臓内科医の「血圧下げろ」と循環器内科の「血圧下げろ!!」は?
循環器内科医は,異様に降圧しにきません?
なぜでしょうか?
➁なぜ,循環器内科医が後負荷を嫌うのか
正常心機能の場合,心拍出量に対する後負荷の影響は少ないんです.
逆に,前負荷の依存度は強くなります.
(この理解には,圧容量曲線(PV loop)の解説が必要になりますが,割愛します)
心疾患ない人は,血圧が上がったくらいで心不全にならないでしょう?
血圧上がるだけで心不全になってたら,そこら中で救急車が走る世の中です.
同じようなことを,以前にTwitterのツリーで解説してます☟
一方で,心機能が低下すると,後負荷増大による心拍出量低下が顕著になります.
さらに,前負荷への依存度は低下します.
(これらの理解にもPV loopはh実用だが割愛.)
つまり,循環器介入が必要なほどタイトな心機能低下例を,腎臓内科の先生は主治医で見ることが少ないので,考え方の解離が生まれるのでないかと考えます.
・「正常血圧性腎障害」の存在を意識する腎臓内科医
・心機能低下例における後負荷上昇による心不全破綻くらっている循環器内科医
この違いです.
■実際の対応を考える【私見】
ここからは,ガイドラインの推奨の明示などはないことも多いですが,病態から考えた,私なりの血圧管理のスタンスの提案です.
➀心機能低下例は,血圧は低くするべき
もっと正確に言うのなら,「極限まで血管抵抗は軽減すべき」です.
(循環器内科医の私がこれを言わなかったら,誰が言うんや,ってスタンスですが...)
血管抵抗とは,(心拍出低下などの変化から)臓器灌流圧を保つためのしくみです.
血圧=心拍出量×血管抵抗
なので,極論,心拍出量が保てている人なら,血管抵抗なんて極小でいいんです.
この血管抵抗は,前述したとおり,心拍出量を低下させます.
「は!?」って感じじゃないですか?
想像してみてください.最悪のパターンは
心拍出低下→(血圧保とうと)血管抵抗上昇→後負荷上昇→心拍出低下→血管抵抗上昇→後負荷上昇→..
この負のループです.
前述の通り,心機能低下例ではこの負のループに陥りやすいです.
だから,「極限まで血管抵抗は軽減すべき」です.
では,どこまで?
患者さんごとに適切な血圧に差異があるのは事実ですが,一般的な指標やバロメーターがあります.
まず,集中治療の領域(特に敗血症管理)などでいわれる
平均動脈圧(MAP)≧65mmHg
は一つの指標です.
「これ以上のMAPを目指しても予後を改善しなかった」というエビデンスに基づくので,とくに急性期の血圧の管理の指標にはなりそうです.
実は,MAP<65mmHgがダメかと言うと,「さすがに低すぎだろ...」という倫理的な問題で正確には検討できていないだけなので,ホントは大丈夫なのかもしれません.
【ちなみに】
低血圧を気にするなら,保つべきは平均動脈圧です.
なぜなら,この平均動脈圧が臓器灌流圧を規定するからです.
(例外:心臓灌流ないし冠動脈は拡張期血圧)
加えて,上述したような「正常血圧性腎障害」のバックグランドを疑う場合は,尿量も臓器灌流圧の指標になります.
尿量は,臓器灌流”量”の影響も受けてしまうので,バックグランドや心拍出量との兼ね合いもありますが,明確な降圧後に尿量が激減した時は,MAPの設定を(≧65mmHg)でなく,少し高めに設定するのもいいかもしれません.
降圧薬の選択は,急性期は血管抵抗をしっかりとってくれるジヒドロピリジン系Ca拮抗薬や硝酸薬,心保護なども考えてACE阻害薬/ARBもいいかもしれません.
ただし,ACE阻害薬/ARBは糸球体内圧を急激に低下させる可能性があるので,CKDやAKI合併症例では注意しましょう.
➁CKD症例はどうする?:蛋白尿の有無で仕分け!
腎障害の機序は大きく分けて,
糸球体内圧上昇による糸球体障害
と
腎灌流圧低下による腎虚血(まずは尿細管障害)
になります.
i) 糸球体内圧上昇による糸球体障害:蛋白尿陽性のCKD
前者は蛋白尿を特徴にしており,積極的な降圧の対象です.
2019年改訂の高血圧治療ガイドラインでも,この蛋白尿の有無は強調されています.
(蛋白尿陽性→降圧目標130/80mmHg未満,蛋白尿陰性→140/90mmHg未満)
急性期は,色々な要因で蛋白尿が陽性になってしまうので,解釈が難しいですけどね...
バックグランドがわかれば,病歴などで確認しましょう
蛋白尿陽性のCKDは,適切な降圧をはかった方が恩恵が得られる可能性が高いと考えましょう.
蛋白尿陽性のCKDにベストマッチな降圧薬は,ACE阻害薬/ARBです.
輸入細動脈が拡張しますから,糸球体内圧が良く下がります.(ガイドラインでも推奨されています)
Ca拮抗薬が輸入細動脈が拡張するため,糸球体内圧が下がりにくいことは覚えておきましょう(使っちゃいけないわけではないけど,腎保護効果は期待しがたい).
ii) 腎灌流圧低下による腎虚血:蛋白尿陰性のCKD
さて次に,問題の,蛋白尿陰性のCKDを考えましょう.
「正常血圧性腎障害」が潜んでいるかもしれません.
「➀心機能低下例は,血圧は低くするべき」でも言及したように,尿量はひとつのメルクマールです.
尿量が損なわれるような血圧は,過度な血圧低下かもしれません.
降圧薬の選択には注意です.
蛋白尿陽性のCKDで推奨されたACE阻害薬/ARBは,とくに推奨されるわけではありません.
ガイドライン上は,「Ca拮抗薬ーACE阻害薬/ARBーサイアザイド」が同率1位です.
このなかで,サイアザイドには注意です.灌流圧,灌流量ともに低減しますから,腎障害を悪化させる可能性が高いです.
また,サイアザイドが有効とされる高食塩感受性に関しても,腎血流低下症例は食塩感受性が高くなりにくいとされるので,有効性も期待できないと考えます.
Ca拮抗薬やβ遮断薬は,輸入細動脈を拡張させるので理論的にはいいかもしれません.(ただし,β遮断薬はガイドラインでは第2選択薬なので注意)
■まとめ
つらつらまとめましたが,それぞれの視点は理解できたでしょうか?
一番厄介なのは,「心機能低下症例における蛋白尿陰性のCKD」ですかね?
いずれも動脈硬化を原因とすることがあるので,全然ありえない話ではありません.
私のザックリとした考えとしては
「尿量を維持できる限り,しっかりした降圧」
が大事だと思っています.
循環器内科医だからというのもありますが,やはり後負荷は見逃せません.
後負荷を改善させることで,心拍出が改善し,結果,逆に腎臓の灌流圧も保たれる可能性もあるんですから.
逆に言えば,「心機能低下症例における蛋白尿陽性のCKD」は,しっかり降圧すべきだと思います.
少なくともガイドラインのいう「130/80mmHg未満」は基本的に目指してはいいのではないでしょうか?
蛋白尿が陽性であるならば,(ネフローゼや腎炎でない限り)糸球体の過剰濾過の存在が示唆されるので,糸球体内圧”も”下げた方がいい,という推測です.
本日の話は,あくまで“型”にハメた考え方です.
実際の症例は千差万別であることはふまえた上で,”型”を持つことを大事にしていきましょう.
今回の話は以上です.
本日もお疲れ様でした.