食塩と血圧の関係【食塩感受性高血圧を意識した一歩上の高血圧治療】
※2020/12/28一部加筆修正
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高血圧と言えば,塩分制限食
食塩摂取は高血圧を悪くする
それくらいは,医療従事者でなくとも知られている内容です.
でも,この食塩って,とっても大して血圧が上がらない人と,すごく上がっちゃう人がいます.
食塩感受性に個人差があるんです.
今回は,食塩,すなわち,ナトリウムと血圧の関係,そして食塩感受性高血圧についてと,それを踏まえた血圧治療について解説します.
ナトリウムと血圧の関係:「ナトリウム無いと,極論死にます」
食塩ってのは,ナトリウムのことを指して言っています.
ナトリウムと血圧の関係を考えます.
ナトリウムは,細胞外の有効浸透圧を主に担っているので,循環血漿量に深く関与します.
≫ナトリウムと水の関係はこの記事で解説してます.
つまり,ナトリウムがないと,血圧を維持することができません.
極論,死にます.
日本を含むアジア人の高血圧は食塩感受性であることが多いとされます.
食塩感受性高血圧とは:「ナトリウムを断捨離できない人」
ということで,ナトリウムは生きるため,血圧を保つために必要な物質です.
生物が海にいた頃は楽でした.
そこら中ナトリウムを含む海水だらけですから.
海水にいた生物が陸に上がった時,腎臓は水とナトリウムを確保(再吸収)する働きを発達させました.
つまり,海水がない代わりに,陸上生物が水とナトリウムを調整しようとする働きだったんです.
しかし,現代では食塩は十二分に摂取できます.
そんなにナトリウムが貴重じゃなくなったんです.
すると,ナトリウムの捨て方が下手くそな個体がいた場合,ナトリウム(と水)は過剰になります.
すると,血圧が無駄に上がります.
これが,食塩感受性高血圧となります.
要は
「ナトリウムは(血圧を保つから)生きるのに大事」
→「よーし,摂取したナトリウムは大切に保管しておこう」
→「え,もう要らなくなったの?でもさ,もったいない気がして,急には捨てられないよー」
という具合に,断捨離できない人みたいなもんです.
医学的には,ナトリウムの排泄障害がある状態です.
食塩感受性高血圧の実際
ナトリウムの排泄障害のため,食塩摂取で血圧が過剰に上昇してしまう食塩感受性高血圧.
ナトリウムの排泄量(摂取量)と血圧の関係をグラフにすると以下のようになります.
食塩感受性が上がっていない高血圧(食塩非感受性高血圧)は,カーブの形は変わらず,そのまま右にシフト(全体的に血圧上昇).
食塩感受性高血圧は,ナトリウム摂取に応じて血圧が変動しやすいので,カーブが横方向に伸びます.
食塩感受性高血圧が,ナトリウムの排泄障害であるならば,食塩非感受性高血圧とは何なのか.
これは,色々な因子を含むとは思いますが,多くは,全身の動脈硬化によって,腎血流の低下がみられる特徴があります.
動脈硬化→高血圧
と考えれば自然な病態ですよね.
腎血流低下を主体とする,食塩非感受性高血圧は,高レニン活性であることが多いです.
一方,食塩感受性高血圧は(腎血流が保たれているので)低レニン活性であることが多く,鑑別の参考になることもあります.
実際には,「食塩感受性か食塩非感受性か」とクリアカットには分けられません.
当然,「腎血流が低下していて,ナトリウムの排泄障害もある」という状況もありますからね.
ただ,病態把握の意味では,上述のように考えましょう.
・食塩非感受性高血圧:腎血流低下→グラフは全体的に右にシフト
・食塩感受性高血圧:ナトリウムの排泄障害→グラフが横に伸びる
降圧薬の治療反応性の違い
この食塩感受性高血圧にはサイアザイド系利尿薬がいい適応とされます.
(≫サイアザイド系利尿薬のまとめはこちら.)
それはなぜか,解説します.
まず,最も単純な降圧薬,Ca拮抗薬を使うと
全体的に血圧が下がります.
まあ,これでもいいですが...
次に,ナトリウム再吸収を抑制する利尿薬治療では
このように,食塩非感受性高血圧の形になります(グラフが横方向に縮む).
なぜなら,先ほども言った通り,食塩感受性高血圧の本態は,ナトリウム排泄障害です.
ナトリウム排泄を促進する利尿薬は,理にかなっているわけですね.
最後に,ACE阻害薬/ARBなどのRAS阻害薬を使うと...
なんと,食塩感受性が高くなるとされます.(グラフがさらに横に伸びる)
下がるには下がるけど,塩分制限を守れていないと血圧コントロール不良になるわけです,
この理由として,RAA系の抑制が糸球体濾過量を低下させることが関与しているのではないかとされます.(Hypertens Res 2009; 32 ( 513 519.)
ACE阻害薬/ARBがあまり効かない高血圧,結構見たことないですか?
ACE阻害薬/ARBは,臓器保護作用の観点から広く使われる薬剤であり,合併疾患によっては,Ca拮抗薬と利尿薬に優先して投与すべきとされます.
(≫降圧薬の一剤目の選び方についてのまとめはこちら.)
ただ,このACE阻害薬/ARBで血圧が下がりにくい症例を経験したことがありませんか?
この中に,食塩感受性高血圧が含まれている可能性は高いです.
日本人には多いはずですからね.
理由は前述の通り.
ゆえに,ACE阻害薬/ARBで血圧が下がりにくい症例の対応としては
➀塩分制限を確認.守れてなければ注意喚起.
➁副作用に気をつけて,少量サイアザイド系利尿薬併用
のどちらか,もしくは両方がいいでしょう(特に食塩感受性高血圧を疑った場合).
サイアザイド利尿薬によって起きるRAA系亢進を,RAS阻害薬は相殺してくれるので,その点でもこの組み合わせは合理的.
Ca拮抗薬の併用でもいいですが,(食塩感受性高血圧なら)本質的な治療ではないですよね.
とはいえ,サイアザイド系利尿薬は副作用の懸念も多く,一方で,Ca拮抗薬の強みは,大した副作用がないところなので,選択肢にはなります.
最もいけていないのは,ACE阻害薬/ARBの増量.これは下手くそな治療です.
高血圧治療ガイドラインでも,降圧不良例は薬剤併用を基本とすることが推奨されていますから.
「アドヒアランス不良で,1種類しか飲んでくれない...」
それは大丈夫.
ARB+Ca拮抗薬,ARB+サイアザイドは合剤がありますから,そっちを使ってください.
食塩感受性高血圧を疑うのはどのようなときか?(私見含む)
私見を含みますが,食塩感受性高血圧の疑い方を紹介します.
➀ACE阻害薬/ARBがあまり効かない
これは上述の通り.
➁低レニン活性(採血結果)
これは十分参考にしていい所見ですが,安静時採血の手間がかかることと,通常,外注検査なのですぐに結果が出ないこと,が問題.
➂患者さんの性格上,塩分制限を守れなそう
根気強く指導するべきでもありますが,こういう人の血圧が下がらない場合,食塩感受性高血圧の可能性を考えながら治療すべきです.
➃比較的若年で動脈硬化リスクが高くない
これは,上述した通りで,動脈硬化が進行して起きた高血圧は,高レニン性高血圧の可能性が高く,食塩感受性は低いことが多いです.逆に,動脈硬化のあまりなさそうな,比較的若年症例が高血圧できた場合,食塩感受性高血圧の可能性があります.日本人ですから.
➄Non-dipper型夜間高血圧(早朝高血圧の原因の1つ)
早朝高血圧の原因となるNon-dipper型夜間高血圧.
この原因の一つとして,食塩感受性が高いことが言われており,早朝高血圧を見た時は,食塩感受性高血圧の可能性を考えるべきです.
(≫早朝高血圧についての解説はこちら)
➅おまけ:糖尿病,CKD,メタボリックシンドロームの合併
これらの病態は腎交感神経を活性化します.すると,尿細管におけるナトリウム再吸収が亢進するので,食塩感受性が高い状態と言えます.
ただ,これらの合併は動脈硬化が強いこともあり,この情報だけから食塩感受性高血圧と決めつけるのは無理があるでしょう.(上述した通り,動脈硬化を主病態とするのは食塩非感受性高血圧だから)
以上のような症例の場合,食塩感受性高血圧の可能性を考え治療しましょう.
サイアザイド系利尿薬は,単剤では降圧効果があまり高くないことや,無理に増量すると副作用の懸念も増すことから,(第一選択薬のひとつなのに)第一選択になることは多くありません.
ですが,食塩感受性高血圧を疑う症例で,そこまで血圧が高くない場合は,サイアザイド系利尿薬単剤も試す価値はあります.
そして,サイアザイド系利尿薬が一番活躍するのは,他剤との併用です.
特に,ACE阻害薬/ARBが無効のとき,食塩感受性高血圧の可能性を考えて,併用薬の選択に少量サイアザイド系利尿薬を選択肢に上げるのは,スマートな薬剤選択かな,と思っています.
≫サイアザイド系利尿薬についてのまとめはこちら.
今回の話は以上になります.
本日もお疲れ様でした.
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