THCV規制における“ハームリダクション“についての提言
8月31日、厚労省による指定薬物部会が開催され、THCB、THCPなどと並び“THCV“という成分が規制対象となる方針が発表されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001140524.pdf
・THCVとは?
THCVは大麻草に微量に含有される天然の希少カンナビノイドの一種です。THC〜という名から、精神作用を伴うように思われがちですが、実はCB1受容体に対して拮抗的に作用するため、陶酔作用を伴わないとされています。医薬品としては、糖尿病や肥満症の治療薬としての期待が寄せられ、基礎研究が行われています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33526143/
・THCVリキッドの存在
この成分を主成分としたリキッドが嗜好品のような形態で製品化されているのは事実です。これらの製品は天然の大麻から抽出されたカンナビノイドを化学的に修飾することで製造される“半合成“のカンナビノイドと思われます。
・ヘンプ・CBD製品に微量に含有される
このTHCVという成分は大麻草にも含まれるため、一般的なCBD製品にも微量に含有されています。現在国内で流通しているCBD製品はその成分によって、アイソレート(単離製品)とブロードスペクトラムに二分されます。アイソレートにはCBD以外のカンナビノイドは含まれませんが、ブロードスペクトラム製品には、CBD以外にもCBGなどの希少カンナビノイドが含まれており、THCVはそれらの微量含有成分の一種として一般的なのです。
CBDアイソレートとブロードスペクトラムでは振る舞いが異なり、健康状態の改善を期待して使用するユーザーはブロードスペクトラム製品を愛用される方が多い印象があります。
・現行の規制方針と問題点
2021年のHHCの登場以前から、厚労省は精神作用のあるカンナビノイドは“指定薬物“として規制する方針を堅持しています。ここまでの①HHC規制、②THC-O、HHC-O規制、③THCH規制という一連の流れは、合成カンナビノイドの開発を促進、セールを誘発することで、市場における流通量を逆に増加させることになっていると私は以前より指摘してきました。
今回の第四弾規制は、包括指定であり類似の化学構造を有する物質を大規模に指定薬物化するものでした。またウェブサイト上には期日までに販売することが薬機法違反になると牽制する文言が掲載されています。
これは当局がいたちごっこという批判、セールを助長しているという批判に対して規制速度を上げ、牽制の文言を入れて対応した形になります。私はここに、“この薬物戦争は徹底的な規制によって制圧を目指す“という当局の意図を感じました。今回の規制を回避した一部成分(HHCHなど)に関しても、おそらくは数ヶ月のうちに規制対象となるでしょう。
オンラインで販売されている合成THCVを主成分とするリキッドは、(実際には陶酔作用が乏しいとしても)デザイナーズドラッグとしての側面を強調し販売されています。構造式がTHCBなどのカンナビノイドと類似していることもあり、厚労省が薬物戦争の一環として包括規制対象に加えたことは、彼らの原則に沿った行動ではあるでしょう。
しかし一方で、これらの希少カンナビノイドを指定薬物として完全に規制することは、現行の制度下で健康管理にCBD製品を活用する患者を意図しない窮地に追い込み、またCBD製品を使用する患者の来日などにも大きな制限を加えることになることが懸念されます。これは例えるなら、戦争における民間人への空爆のようなものではないでしょうか。
・具体的提案ー天然微量含有と合成添加の区別をー
現状の法規制下で、THCに関しては大麻に含まれるものについては大麻取締法の管轄、化学合成されたものに関しては麻向法の管理下に置かれています。またCBDに関しては、茎・種子から取れるものに関しては合法、花穂由来のものは違法という分割管理が行われています。
また秋に国会に提出される大麻取締法の改正案では、THCのゼロ基準(例:0.3%など)を明示した上で、THCを含有しない大麻製品(ヘンプ)の規制緩和が導入される見込みです。
そこでTHCと同じく、THCVやその他の指定薬物とされるカンナビノイドに関しても、CBD製品に微量に含有される天然由来の成分については一定の基準値(0.3〜1.0%など)を設定し、それ以下のものは規制対象外とするという解釈を分割管理を行うのが、難病患者に対する配慮ではないでしょうか。
追記:合成カンナビノイド規制問題は、厚労省の部会から政府対策会議へ
9/3に合成カンナビノイド規制について、政府対策会議が開催されると報道されました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/ad84a54d8c8c7e5e9047cd880e5a769f90d8e0c4
これによって、これまで監視指導麻薬対策課が握っていた主導権が、より上位の機関に(少なくとも形式上は)移管された形になります。
これは誰が主導したことなのか、どのような枠組みによって議論されるのかなどは現時点では未知数です。(基本的な情報提供は監視指導麻薬対策課が行うと思われるので、基本方針の180度転換というのは考えづらい気がしています)
いずれにせよ、国民の健康と福祉の最大化を大義とすべき政府と厚生労働省が、その使命を適切に果たしてくれることを切に願っております。