見出し画像

正しいリリース/リリースポイント

ここでは、正しいリリースポイントは「肩肘の負担が最も少ない、かつ、球速とコントロールを両立することが可能なリリースポイント」と定義します。

正しいリリースポイントで投球しないと、いくら下半身を使っても、いくら筋トレしても、どんな理論を用いても良い球は投げられません。ゴール(リリース)が正しくなければ、それまでの過程をいくら練習したところで上手くいかないですし、間違った投げ方をすれば当然肩肘の故障リスクも高くなります。よって、正しいリリースポイントや正しいリリースの仕方の理解/習得は投球する上で欠かせないことと言えるでしょう。

正しいリリースポイントをシンプルに表現すると、ボールに力を最も伝えられる位置です。

力が最も伝わるということ球速が1番出せる。
力が最も伝わるということは肩が最も安定したポジションに位置するため肩の負担が最も少ない。安定したポジションに肩が位置していれば、リリースの再現性が高まるためコントロールが良くなる。

正しいリリースが出来れば、球速、コントロール、怪我のリスクにおいてプラスに働きます。

正しいリリースの仕方を覚えることで、球速とコントロールを両立しつつ、肩肘の負担を減らすことが可能になるのです。

画像1

正しいリリースポイントは身体に対して横に位置します。

こちらの動画はバウアー投手によるリリースの仕方の解説です。

リリースポイントは身体に対して横に位置してます。身体の正面がホーム側にあるとするなら、右投手は三塁側に、左投手は一塁側に投球するような投げ方が理想的です。これがよく言われるゼロポジションで投げる形となります。

ゼロポジションとは、上腕骨と肩甲棘の運動軸が一致するポジションの事を言い、このポジションであれば上腕骨の内旋/外旋時に、回旋腱盤(=ローテーターカフ)への負担がなくなります。わかりやすくいうと、頭の後ろで手を組み、上腕を動かさずに肘を伸展させたポジションのことをゼロポジションと言います。

ゼロポジションが分かるようにイラストを作成しました。

画像3

このイラストでいう青の線は肩甲棘と上腕骨それぞれの運動軸を示してます。この2つの軸が一致していない状態がゼロポジションから外れた状態となります。

そして、ゼロポジションとセットでよく言われるのがスキャプラプレーンです。スキャプラプレーンとは肩甲骨(scapula)の面(plane)のことです。肩甲骨の面上(スキャプラプレーン)で投球することが肩への負担を減らすためには重要になります。このスキャプラプレーンですが、アライメント異常がなければ肩甲骨の外転30°あたりに位置します。

画像4

ゼロポジション/スキャプラプレーンを踏まえると、正しいリリースポイントは横+やや前方になります。

「リリースポイントを前にしろ!」「ボールを前で離せ!」という指導は投手なら誰もが聞いたことがあるのではないのでしょうか?

リリースポイントが前になればホームまでの距離が縮まり体感速度が速くなることや、前に行くほど加速距離(≒ボールを加速させる時間)が長くなるので、リリースポイントは前にある方が球速が速くなる傾向があることなどは間違っていません。リリースポイントは前にあった方が球速や体感速度にポジティブな影響を与えると考えられます。

リリースポイントは前にある方が良いということになりますが、次のような疑問を持つ方が出てくると思います。

リリースポイントは身体に対して「横」が正しいのに、リリースは「前」の方が良いって、矛盾しているのでは?

一見、そのように見えますが、この2つはそもそもの観点が違います。

リリースポイントは「身体に対して横」の話は、身体的観点(メカニクスの観点)です。一方で「リリースは前が良い」という話は空間的観点(実際にボールを離した空間上の位置)です。 

リリースポイントがかなり前だと言われる投手でも、身体的観点で見ればリリースは身体の横に位置します。腕ではなく下半身や体幹部等の他の部位を使って空間的なリリースポイントを前にしているわけです。

前述した通り、リリースを前にすることは良いことではあります。しかし、リリースを前にするという意味を誤解して、肘を前に突き出すように投げてしまう方がいます。この場合、空間的には前で離せる可能性があるが、メカニクスの観点で考えるとゼロポジション/スキャプラプレーンから外れてしまうので良い動作とは言えません。

前述した通り、頭の後ろで手を組み、上腕を動かさずに肘を伸展させたポジションのことをゼロポジションと一般的に定義されていて、肩関節外転130-145°の間に位置するというのが医学的な説明となるらしいのですが、投球時にそこまで挙上して投げることはないです。ましてや肩甲骨は動く関節なので、ゼロポジションが1つということはないです。シンプルに、トップで肩の高さに肘が上がっており(胸椎/肩甲骨の動きによっては肘が低くなることもある)、そこから回転動作で腕を振るだけで十分肩肘への負担が少ない投げ方になります。

ゼロポジションなど深く考えなくても、両肩のライン上に肘がくればエネルギーが指先/ボールまでしっかり伝わります。

トップの時に、両肩より上にボールがある(肘は低くてもいい)
リリースの時に、両肩のライン上に肘がある。

これが守られていればいい。

ゼロポジション,スキャプラープレーンなど専門用語を出しましたが、簡単に言うと、最も力の入るポジションでリリースをすることが、パフォーマンスを最大限出す上でも、負担を出来るだけ減らして投げる上でも、最も重要であるということです。

リリースポイントを前にしようとして肘を突き出すように投げてしまうのは、おそらくフォームの写真や動画の分析を間違ってしまうからです。

リリースに向かうときの画像だけを切り取れば、肘を前方に突き出して投げているように見えるのも不思議ではないです。肘が突き出てくるようになるのは、投げるという運動連鎖の中で勝手に生まれるもので、基本的には意識的に出すものではありません。投球は無意識に動く部分が多く、右肩,右腕も無意識による動きがほとんどを占めています。

リリースで重要なものの1つに前鋸筋の機能があります。トップからリリースに向かう中で、肩甲骨が内転,後傾,下方回旋など、いわゆる胸の張りと言われるフェースが出ます。その胸の張ったところから力をしっかり発揮できるリリースに持ってくるためには前鋸筋が機能しているかがカギになります。

前鋸筋は肩甲骨外転に関わる筋肉です。リリースで押し込む(=強く腕を振る)ときに前鋸筋が機能しているかどうかで、リリースの強さが変わります。前鋸筋が入っていれば、力強いリリースが可能になりますが、前鋸筋が抜けていると力を強く発揮することは出来ず、肩のポジションが悪くなる可能性も出るため怪我にもつながります。

この動画では、リリースは肘を伸ばすだけというような説明がされてます。間違いではないですが、ただ肘を伸ばすだけでは肘を痛めてしまいます(骨と骨がぶつかる)。リリースでは肘の伸展だけではなく、肩関節の内旋や前腕の回内、さらに言えば肩甲骨の前傾なども同時に行われていることを理解しておく必要があります。ただ肘を伸ばすだけを意識してしまうと、この動画の方のように投げた後に肘を痛めてしまいます。肩関節の内旋や前腕の回内の動きで身体への負荷を分散させることも重要です。

<まとめ>
①リリースポイントは前にあると良いというのは空間的視点であり、身体的視点で言う正しいリリースポイントは真横やや前方に位置する。
②最も力の入るポジションが肩肘の負担が最も少なくパフォーマンスを最大限に発揮できるリリースポイントである。
③肩関節内旋/前腕回内で肩肘への負担を分散する。

専門用語を用いて色々と解説しましたが、正直こんなこと考えて投げるのは不可能です。
大事なのは、その形に「する」のではなく、その形に「なる」ように取り組むことです。

目指す形に「なる」ようにトレーニングする
目指す形に「なる」ようなイメージや感覚を探す

リリースに限らず、上達する上で大事なのはこの考え方です。

野球のボールは軽くて小さいので、肘や手を操作して投げられてしまうので、一度その癖がついてしまうとなかなか改善は難しいかと思います。サッカーボールスローやジャベリックスロー、プライオボールなどの重いボールを投げることで、腕をできるだけ使わない投げ方を身につけるのがオススメです。

持ってる感覚/イメージと、実際の動作はギャップが多いです。私を含め、150キロ以上投げる投手や150キロ近い球を投げる投手は似たような感覚を持っています。パフォーマンスの高い選手のイメージや感覚を知っておくことは成長に欠かせないものです。

ここからは私のリリースに関係する感覚論です。

ここから先は

1,067字

¥ 500

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?