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社労士試験 予備校では教えないポイント解説 vol.072

労働者災害補償保険法(12)

不服申立て、罰則その他

今回で労災保険法は最後になります。
今回のテーマは、以後に記載する雇用保険法や各社会保険法にも同様のテーマで出てきます。ですから、試験では、その取り扱いが違うところがクロスして出されて✕。。。というのが典型的なパターンです。
不服申立てでいえば、申立て期間(みなし棄却期間)、申立て先、申立てが却下されたときの再審査などが相違点となります。特に申立て先のダミーとしてありもしない架空の団体名も登場しますので、注意が必要です。(ダミーの団体名の方がそれらしかったりします。。。)
とはいえ、そんなに難しい論点はありませんので、さらっと読んでください。なお、不服の申立ては、民事訴訟でも争うことはできますが、結審まで時間が掛かり、『今必要な生活費』を争うのに適さないので、専用窓口を設けて対応するということです。

①不服申立て

1)労審法による不服申立て

『保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官を対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会(✕労働者災害補償保険審査会。。。こんな団体はありません。)に対して再審査請求をすることができる。』
『審査請求している者は、審査請求した日から3箇月を経過しても審査請求についての決定がないときは、労働者災害補償保険審査官が審査請求を却下したものとみなすことができる。』
つまり審査の結果の連絡がなくても、審査請求から3箇月経過したら、再審査請求の手続きに入れるということです。
なお、この却下みなしの3箇月という期間は、労働保険(労災保険、雇用保険)は3箇月ですが、社会保険(厚生年金、健康保険)は2箇月です。労働保険の方が圧倒的に審査件数が多いからです。
【保険給付に関する決定】
直接、受給権者の権利に法律的効果を及ぼす処分をいい、業務上外、給付基礎日額、傷病の治癒日又は障害等級等の認定は、これに含まれません。つまり、不服申立ては、あくまで『結果(処分)』に対して行えるものであって、その『前提(事実確認)』に対して行えるものではありません。大きな障害を負ったのに支給制限等の理由で障害給付が支給されないということについては審査請求できるけど、障害等級が3級に達しないということで支給されないということは、『なぜ3級にならないのか?』という審査請求はできないということです。審査官にしてみても、障害等級について文句を言われても、『知らんがな!担当医に言えよ!』ですよね。
【労働者災害補償審査官】
厚生労働省職員のうちから厚生労働大臣によって任命され、各都道府県労働局に置かれています。
【労働保険審査会】
学識経験者のうちから、国会の両議院の同意を得て厚生労働大臣によって任命された委員によって組織され、厚生労働省に置かれています。また『労働保険』なので、雇用保険の再審査請求も扱うことになります。

1.審査請求

審査請求は、正当な理由によりこの期間内に審査請求をすることができなかったことを疎明した場合を除き、保険給付に関する決定があったことを知った日の翌日から起算して3月以内にしなければなりません。
【疎明】
『証明』とは異なり『確からしい(そういうこともあるよね。。。)』という程度(6割ぐらいの確からしさ)でいいとされています。証明を求めるとエビデンスを揃えたりする時間が掛かるため、今必要な生活費に困窮するからです。

2.再審査請求

再審査請求は、正当な理由によりこの期間内に再審査請求をすることができなかったことを疎明した場合を除き、審査請求に対する決定書の謄本が送付された日(✕受け取った日)の翌日から起算して2月以内にしなければなりません。
また、労審法においては、審査請求は文章でなくとも口頭で行ってもよいのですが(窓口の担当者がいろいろ聞きながら受け付けてくれる)、再審査請求は文章で行わなければなりません。労働保険は事由や背景が様々で、窓口の担当者が直接質問しながら受け付ける方が、差し戻しなどの手間がなく、結局早かったりするからですが、再審査請求は一度政府側が決定したことに対してのクレームなので、『それなら、内容をちゃんと文書で出してね!』ということです。

3.時効の完成猶予及び更新

民法改正前は『時効の中断』『時効の停止』となっていたのですが、中断と停止という文言のイメージが近いので判りにくいということで言い替えられました。単に文言が言い替えられただけで、法律的効果は何ら変わっていません。『時効の完成の猶予(民法改正前の『中断』)』は、時効の進行が一時的にストップしている状態をいい、そのストップしている事由が解消すれば、時効の進行が『ストップしたところから』再スタートすることをいい、『時効の更新(同、停止)』は、時効がリセットされてしまい、『ゼロから』の再スタートとなることをいいます。

『審査請求及び再審査請求は、時効の完成猶予及び更新に関しては、これを裁判上の請求とみなす。』
したがって、例えば、時効期間満了前に審査請求をしたにもかかわらず、その決定があるまでに時効期間が満了してしまったとしても、その審査に係る保険給付を受ける権利は時効によって消滅することはありません。

4.訴訟との関係

保険給付に関する決定の処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する労働者災害補償保険審査官の決定を経た後でなければ、提起(裁判所に提訴 )することはできません。
また、審査請求に対する労働者災害補償保険審査官の決定に不服がある場合には、前記のように労働保険審査会に再審査請求をすることができ、その決定にも不服がある場合には、裁判所に処分の取消しの訴えをすることができるのですが、労働者災害補償保険審査官の決定後、労働保険審査会への再審査請求を経ずに、いきなり裁判所に処分の取消しの訴えを提起することもできます。

2)行政不服審査法による不服申立て

『保険給付に関する決定』以外の処分について不服がある場合は、行政不服審査法に基づいて審査請求を行うことができます。
例えば、
・事業主からの費用徴収に関する処分
・不正受給者からの費用徴収に関する処分
・特別加入の(不)承認に関する処分
等に不服がある場合には、厚生労働大臣に対して審査請求を行うことができます。
また、これらの処分に係る不服については、審査請求することなく、直ちに裁判所に処分の取消しの訴えを提起することもできます。

②時効等

1)時効

療養(補償)等給付、休業(補償)等給付、葬祭料等(葬祭給付)、介護(補償)等給付及び二次健康診断等給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から2年を経過したとき、障害(補償)等給付及び遺族(補償)等給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から5年を経過したときは、時効によって消滅するとされています。また、障害(補償)等年金差額一時金の支給を受ける権利は、これを行使することができる時から5年、障害(補償)等年金前払一時金及び遺族(補償)等前払一時金の支給を受ける権利は、これらを行使することができる時から2年を経過したときは、それぞれ時効によって消滅するとされています。
また、支分権(支給決定が行われた保険給付の支払を受ける権利)の消滅時効は、公法上の金銭債権として会計法の規定(=社労士試験の範囲外)により、これを行使することができる時から5年間とされています。
なお、各保険給付を受ける権利の具体的な時効期間及び起算日は、以下の通りになります。
試験上は、ざっくりと覚える程度でなんとかなるかと思います。
・起算日は、『請求できる事由の生じた日の翌日』
・期間は、民法にあわせて短期債権は2年、長期債権は5年ということです。額の多い少ないというので分けられているわけではないのですが、そういうイメージの方が覚えやすいのでしたらそれでもいいです。理由は試験では問われませんので。また、『時効という概念がないもの』は引っ掛けとして試験に出るので注意が必要です。
〈時効という概念がないもの〉
・療養給付の療養の給付(治療行為のこと)…現物給付だから
・傷病(補償)等年金…政府が支給決定をするため、請求行為を伴わないため
〈時効期間が2年のもの〉
・療養(補償)等給付の療養の費用の支給…(起算日。以下略。)療養に要する費用を支払った日の翌日
・休業(補償)等給付…労働不能の日ごとにその翌日
・葬祭料等(葬祭給付)…死亡した日の翌日(✕葬祭の日の翌日。絶対に試験で引っ掛かるところです。)
・介護(補償)等給付…介護を受けた月の翌月の初日(※各月ごとに1ヶ月分まとめて請求するから。 ✕介護を受けた日の翌日)
・障害(補償)等年金前払一時金…障害が治った日の翌日
・遺族(補償)等年金前払一時金…死亡した日の翌日
・二次健康診断等給付(※特定保険指導のみが対象)…一次健康診断の結果を了知し得る日の翌日(※そもそも、一次健康診断から2年以上経って特定保険指導を受けても意味がないとは思いますが。。。尚、特定保険指導の前提となる二次健康診断は、『1年度につき1回に限る』となっているため、時効という概念はないものとされています。この二次健康診断も一次健康診断を受けてから2年も後に受けても意味はないと思いますし、それより、二次健康診断を受けるような状態ならば、そもそも二次健康診断よりも病院に行って精密検査を受けろよ!と思います。。。)
〈時効期間が5年のもの〉
・障害(補償)等給付…傷病が治った日の翌日
・障害(補償)等年金差額一時金…(元となる)障害年金の受給権者が死亡した日の翌日
・遺族(補償)等給付…死亡した日の翌日

2)罰則

事業主が次のいずれかに該当するときは、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。
①行政庁による報告又は文章の提出命令に違反して報告せず、若しくは虚偽の報告をし、又は文章の提出をせず、若しくは虚偽の記載をした文章を提出した場合
②立入検査における行政庁職員の質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の陳述をし、又は検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合
尚、労働保険事務組合又は一人親方等の団体が、上記①②のいずれかに該当する場合その違反行為をした当該労働保険事務組合又は一人親方等の団体の代表者又は代理人、使用人その他の従業者にも同様の罰則が適用されます。
【事業主等】
事業主、派遣先の事業主又は船員派遣の役務の提供を受ける者をいいます。
【事業主等以外の者の罰則】
事業主等以外の者(第三者を除く。)が一定の違反行為をした場合は、6月以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられます。

3)書類の保存

労災保険に係る保険関係が成立し、若しくは成立していた事業の事業主又は労働保険事務組合若しくは労働保険事務組合であった団体は、労災保険に関する書類を、その完結の日から3年間保存しなければなりません。

次回からは雇用保険法に入ります。

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