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第6回 CICHE-JSCE ワークショップに参加しました@長崎

土木学会(JSCE)と、台湾の中國土木水利工程學會(CICHE)は相互交流協定を結んでおり、それぞれの年次大会への参加や、アジア土木学協会連合協議会(ACECC)での活動を通じて交流を続けています。

2016年にCICHE-JSCEジョイントワークショップを開始し、今年で6回目の開催なります!

【日時】2024年11月3日(土)〜11月5日(月)
【場所】長崎県長崎市
【概要】今回のワークショップでは若手土木技術者のネットワークを広げ、両学会の将来の共同研究を促進することを目的としています。第6回ワークショップでは、カーボンニュートラル、再生可能エネルギー、持続可能な発展に焦点を当てています。


1日目 ハウステンボス視察

初日は長崎のテーマパーク「ハウステンボス」を視察しました。この施設は、清水建設株式会社の北直紀様が設計に携わられ、今回は北様がガイドとしてプロジェクトの背景や設計意図について詳しく説明してくださいました。

【設計・監理】基本計画・基本設計・監理:日本設計、実施設計:清水建設
【竣工】1992年3月
【所在地】長崎県

清水建設
ハウステンボス様子
(ちなみに「ハウステンボス」はオランダ語で「森の家」という意味らしい)

レクチャーでは、プロジェクト概要の他に、排水に関する話題が上がりました。

ハウステンボスは大村湾に面しており、以下の背景があります。

ハウステンボスが所在するこの土地は、かつては海でした。それが江戸時代に水田干拓で徐々に陸地に変わり、昭和になると、海軍施設の建設のために埋め立てが行われました。
さらに工業団地を作る計画のために埋め立て地が拡張されましたが、その後利用されることはありませんでした。

1986年、手付かずのまま荒地となっていた、この152万㎡の土地に“新しい街”を創ろうという夢が描かれます。
長崎県の経済発展への願い “エコノミー”
この土地を自然の姿へ戻したいという想い“エコロジー”
この二つの目的が重なり「ハウステンボス計画」が始動したのです。

ハウステンボス公式HP
https://www.huistenbosch.co.jp/recruit/

運河の海水は大村湾の潮の満ち引きによって自然に入れ替わるだけでなく、各所に設置された水中ポンプで水を循環させて、流れが停滞しないよう工夫されています。

さらに、園内には水処理施設が設置されていて、ここで汚水や排水を高度に処理した後、中水利用として植物への散水や土壌への浸透に使い、最終的には運河に戻すという、リサイクルを意識した仕組みが整備されています。

レクチャー様子

レクチャー後は、参加者がそれぞれが異なる視点からハウステンボス内を散策しました。排水や護岸など、テーマパークでは普段気にすることがないような「裏側」の部分に着目して見学し、見えない部分の細やかな設計の重要性に再認識しました。また参加者は園内の建物と風景について議論を交わす様子も見受けられ、それぞれの視点から新たな発見があったのかと思います。

解説を受けながら散策する様子

2日目 ワークショップ(レクチャー)


10:40-11:00 オープニング&自己紹介

2日目は主にレクチャーがメインなります。
オープニングでは自己紹介が行われ、学部生を始め、修士学生、博士学生、土木技術者、行政など多様なバックグラウンドを有する方が参加しています。

オープニング様子

11:00-12:30 Lecture #1

以下に登壇された先生方のテーマと内容を記述していきます。

【テーマ】Concrete on Civil Engineering, Life-cycle Performance Assessment
(日本語訳:土木コンクリート、ライフサイクル性能評価)
【登壇者】Prof. Chien-Kuo CHIU, National Taiwan University of Science and Technology

Chien-Kuo CHIU先生からはRC(鉄筋コンクリート)構造物における耐震設計と維持管理に関するものが示されました。

台湾は島国であり、多くの地域が沿岸部に位置しています。これは日本でも同じ環境下にあります。
このような状況下では、海からの塩化物が鉄筋の腐食を促進し、地震時の耐久性が損なわれる可能性が高まります。

この課題から、腐食進行におけるRCの強度低下メカニズム評価が紹介され、新しい構造物の耐震設計と維持管理の提案がなされていました。

台湾での実例も紹介されていましたが、来年のワークショップ(第7回は台湾主催)で訪問してみたいです!

13:30-15:00 Lecture #2  

【テーマ】Renewable Energy from Solar Panels and Their Recycling System
(日本語訳:ソーラーパネルからの再生可能エネルギーとそのリサイクルシステム)
【登壇者】Prof. Yuan-Lung LO, National Taipei University of Technology
 

Yuan-Lung Lo先生からは太陽光パネルの基礎知識や再生可能エネルギーの利活用、廃棄後のリサイクルなどに関するものが示されました。

台湾は 2016 年に「National Energy Transformation(日本語訳:国家エネルギー変革)」を正式に開始しました。その政策の中には、省エネルギー、エネルギー創造、エネルギー貯蔵、スマートシステム統合などが挙げられます。

台湾の政策目標では、2025年の総発電量に占める再生可能エネルギー比率目標を 20%、天然ガスの 50%、石炭火力発電の 30% を占めることとされています。

これにより台湾では太陽光エネルギーの開発が増加しています。そこで最後に以下の課題が課されました。

「What else can you imagine for possible PV uses?」
(日本語訳:PV の用途として他に何が考えられますか?)
※PVとは「Photovoltaic(光起発電)」という意味を持っています。

【テーマ】Case Study on Structural-Aesthetic Design of Bridge: Dejima Omotemon Bridge
(日本語訳:橋の構造美的デザインの事例紹介:出島表門橋)
【登壇者】Prof. Takafumi NISHIKAWA, Nagasaki University

西川貴文先生からは長崎市内に位置する出島表門橋の設計に焦点を当てて、橋梁の構造美学について解説がありました。

「形態は機能に従う(Form Follows Function)」というデザイン原則がはじめに紹介されました。

これは構造物が求められる機能に基づいて、どのような形をとるのかというものです。

橋梁の設計が景観と調和し、美しい形態を保つための必要な要素として「機能美」「構造美」「形態美」があります。

また具体例として、六角形鉛筆やガウディのサグラダファミリアなどが挙げられました。

15:30-17:00 Lecture #3

【テーマ】Climate Change and Environmental Issues
(日本語訳:気候変動と環境問題)
【登壇者】Prof. Ying-Chieh CHAN, National Taiwan University/Prof. Sunhee SUK, Nagasaki University

このレクチャーではYing-Chieh CHAN先生Sunhee SUK先生から、気候変動と環境問題に関する内容が示されました。

まずにSunhee SUK先生からは全体的な気候変動と脱炭素化メカニズムに基づいた市場について示されました。

次にYing-Chieh CHAN先生からはBIM/CIMを始めとする都市データを活用して、シミュレーションを行ったり、地球環境問題や可視化したりすることで、都市計画へのアプローチ/維持管理が示されました。
BIM:Bilding Information Modeling  CIM:Construction Information Modeling)

17:00-18:00 グループディスカッション

ディスカッション様子

これら3つのレクチャーを受け、与えられた課題/提案を基に議論を始めていきました。

どのレクチャーも非常に興味深いものの、どこに焦点を当てて話し合いを進め、プレゼンテーションをしていくのかが鍵となっています。

3日目 ワークショップ(成果発表)

9:00  ブレインストーミング①
前日のレクチャーで提示された課題を基に、各グループごとにディスカッションを行っていきました。

多様な価値観を受け入れながらも、付箋やボードに自分の考えやスケッチなどのアウトプットを入れながら、プレゼンテーションをまとめていきます。

作成様子

10:00-10:30 プレゼンテーション①
限られた時間の中でアイディアをまとめて、各班が発表をしていき、先生方からフィードバック/コメントを受けました。

フィードバックをする先生方

11:00-12:00 ブレインストーミング②

次の課題として、以下のものが提示されました。

【テーマ】Each group should design how the education can be arranged to achieve the idea they want to realize
(日本語訳:各グループは、実現したいアイデアを達成するために教育をどのように配置できるかを設計する必要がある)

ここで与えられた課題は、先ほどの提案を基に、どのように大学教育を設計をしていくのか、テーマとして与えられました。

各班ともに、教授方からのフィードバックも受けながら想像を膨らませ、様々なアイディア/議論が飛び交いました。

13:30-14:30 ブレインストーミング②
午前中に発表したものをもとに、最後の発表を目の前に最後に追い込んでいきます。

どの班もバタバタしています笑

最後の追い込みする様子
どんどんアウトプットしていきます

14:30-15:00 ファイナルプレゼンテーション
あらゆる視点から大学教育のアイディアが飛び交いました。

発表様子

15:00- 閉会式

3日間、交流を深めることができ、非常に有益な時間でした。最後に参加者全員にWS参加証明書が与えられました!

証明書を受け取る様子

3日間を通しての感想

(修士1年:田浪)3日間にわたり、インプットとアウトプットを繰り返しながら、多様な意見や価値観が飛び交い、普段の視点とは異なる考え方に触れられたのは大きな刺激になりました。特に、台湾の若手技術者との交流を通じて、新しい発見が多く、将来的な共同研究やネットワークの可能性も感じられたことが、このワークショップの最大の収穫だと感じています。

(学部4年:樋口)様々な国籍、分野、属性の方々と交流することができ、学びが多かったです。2泊3日という短い期間でしたが、合宿形式のワークショップだったため参加者の方々とものすごく仲良くなれました。今回で得た繋がりを次につなげていきたいです!

(学部4年:杉本)去年開催された台湾での交流会はスケジュールの関係で断念したため、今回が初めての参加でした。多種多様な国籍、分野の方と共通言語である英語で議論することは、今までに経験したことない刺激のある機会でした。今後の社会を引っ張っていく若者として、今回で出来たネットワークを大切にしたいと思います。また、今後開催される国際的な交流の場にも果敢に挑戦していきたいです。

(学部3年:山北)私のこの海外ワーキングへの参加は、昨年の台湾での主催についで2回目になります。このオフラインのイベントで、目で見て肌で感じて多くの経験値を得られました。得た、知識、関係、学習意欲をしっかりと後学に活かしていきたいです!

次回の7回目台湾での開催となります。
また来年、充実したワークショップになることを楽しみにしております!

ハウステンボスの皆様、CICHEの皆様、先生方、その他ご関係者様、ありがとうございました!

国際交流も盛んな土木学会にぜひご参加ください!

▼また当日の様子をTikTokにも載せていますので、よかったら覗いて行ってみてください!

(文責:海外土木WG 田浪慎也)