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「清武の乱」の大義とは結局何だったのか?|「巨魁」(ワック)

【面白かった度】★★★★★
【オススメ対象】巨人ファン、アンチ巨人、ノンフィクションが好きな人

『清武の乱』の功績、それは・・・

『巨魁(きょかい)』という言葉には、次の意味があるらしい。

(かしら。 おやぶん。 主として、盗賊、悪漢などの悪者仲間の首領をいう。 おおだてもの)

この本のタイトル『巨魁』が読売グループのトップに君臨する「独裁者」渡邊恒雄氏を指しているのは説明するまでもないだろう。
2012年3月16日に発売された本だが、いわゆる『清武の乱』が勃発(?)したのが2011年11月11日(偶然にもちょうど13年前の今日!)。なかなかのスピード感で出版されていることにまず驚く。

巨人軍の内幕、渡邊恒雄氏の傍若無人ぶりを告発するいわゆる暴露本的な内容かと思いきや、清武氏がフロントとして巨人軍に関わってからどのようにしてチームを強化してきたのか? どのような点に問題点を見つけ改善してきたのか? 球界の盟主の戦力補強はどのような力学で決定されてきたのか? などが詳しく分かる、資料的な価値がある良書だった。
渡邊恒雄氏の人間性、球団に対する姿勢、読売新聞社における球団の位置づけもよく分かる。『清武の乱』について触れられている箇所は終盤のほんの一部に過ぎない。

私個人も会見のことはよく覚えているが、見終えてからの感想は正直「?」だった。清武氏の会見に大義を見つけることができなかったのだ。訴えたい気持ちは分かるものの「それってただの感情論であって法的な問題は問えないのでは?」という感じで肩透かし感があったというか、厳しく言えば「愚痴」を聞かされているようにさえ思ったものだ。

本書を読んでもそれは同じだった。

本書では渡邊恒雄氏の一連の現場介入が「コンプライアンスに抵触する」というように書かれてある。会見でも確かそういった説明をされていたように記憶しているのだが、私が会見で感じた「肩透かし感」はその発言のチョイスにあったのだと改めて思うに至った。
会見で指摘すべきは「コンプライアンス」ではなくて「ガバナンス」だったのではないだろうか?
現場でプロセスを踏んで意思決定したことを最高権力者である渡邊恒雄氏が鶴の一言で全てをひっくり返す。ひっくり返された側にも家族がいて生活がある。それを球団代表として守らないといけない。そもそもそんな思いつきの現場介入を許していては巨人軍は強くなることができない。それは応援してくれるファンへの裏切りになるのだ。
これらを世に問い「我が巨人軍のガバナンスはめちゃくちゃだ。自分が球団代表の座を辞する覚悟でこのことを訴えたい」。ということであれば、「巨魁・渡邊恒雄と刺し違える覚悟でこの問題を公にする」という大義を見いだすことができたように思う。

『清武の乱』の功績を挙げるならば、氏が程なく巨人軍を追放されたことにより、『しんがり』『石つぶて』『サラリーマン球団社長』など、のちに優れたノンフィクション作品を世に放つことになる『作家・清武英利』が誕生したことにある。

「巨魁」
清武英利
ワック
2012年3月16日発売

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