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社員重視か業績優先か?優れたリーダーが選ぶ第三の道

社員を大切にしながら高業績を実現するリーダーの条件とは?
経営者はしばしば、「業績優先」と「社員重視」の二者択一に陥る。業績を優先しすぎれば社員の士気が低下し、長期的な成長を損なう。一方で、社員の満足度を重視しすぎると、企業の競争力を維持できなくなる。しかし、欧米22社のCEOを対象にした調査では、このジレンマを克服し、社員の熱意と献身を引き出しながら業績を向上させるリーダーの存在が明らかになった。これらの企業は「ハイ・コミットメント/ハイ・パフォーマンス(HCHP)企業」と呼ばれ、リーダーは次のような共通の戦略を持っていた。


1. 社員と業績を両立するリーダーの思考法

多くの企業では、リーダーが株主の圧力に屈して短期的な利益を追求し、社員を軽視してしまう。一方、歴史のある大企業などでは、社員や社風を重視しすぎて競争力を失うケースもある。HCHP企業のリーダーはこのどちらにも偏らず、企業の価値観を大切にしながら変革を推し進め、長期的な成長を実現する。

例えば、ディーゼルエンジンメーカーのカミンズ社のCEO、セオドア・ソルソは、巨額の負債を抱えた状態で就任し、厳しい市場環境の中で大規模なリストラを実行。しかし、同時に社員とビジョンを共有し、環境技術を強みに事業の多角化を進めた。その結果、2007年には売上が2倍以上に伸び、社員数も33%増加するという成功を収めた。

このように、HCHP企業のリーダーは、社員の献身を引き出しながら、企業の競争力を強化する方法を熟知している。


2. HCHP企業のリーダーが実践する4つの戦略

社員の信頼を得て、業績を向上させるリーダーは、次の4つの戦略を実践している。

1|真実を伝え、信頼を築く

リーダーが社員に対して正直であることは、組織の結束を強める。ロイヤル・メール・グループの会長アラン・レイトンは、「社員が私の言葉を信じるようにするには、日頃から正直でなければならない」と語る。彼はリストラを実施する際にも、社員に率直に現状を説明し、信頼を維持した。

また、ベクトン・ディッキンソン社のCEO、エドワード・ラドウィックは、CFO時代に自ら推進したSAP導入プロジェクトが失敗に終わった際、それを公に認めた上で、新しいプロジェクトを立ち上げた。この誠実な姿勢が、社員の信頼を勝ち取る要因となった。

2|社員と直接つながる

HCHP企業のリーダーは、組織のすべての階層の社員と積極的に対話し、現場の声を大切にする。レイトンはロイヤル・メールの1600の集配所の半分以上を訪問し、現場の配達員とも直接会話することで、経営の方向性を調整した。また、「アスク・アラン」というメール制度を設け、社員からの意見を直接受け付け、15分以内に返信する仕組みを導入した。

このような取り組みは、社員に「トップが本当に自分たちを気にかけている」という意識を持たせ、エンゲージメントを向上させる。

3|目標を明確にし、集中する

HCHP企業のリーダーは、明確な目標を設定し、そこに全エネルギーを注ぐ。カミンズのソルソは、「重要なイニシアティブは1つか2つに絞り、成果が出るまで4〜5年粘り強く取り組むべきだ」と述べている。

イギリスの医療保険会社BUPAの元CEO、バレリー・グッディングも、「何より大切なのは顧客であり、その方向性を社内に何百回も繰り返し伝えることがCEOの仕事だ」と語る。市場環境が激変する中でも、企業がぶれずに成長するには、リーダーが強い意志を持って目標を浸透させることが不可欠である。

4|リーダー層全体を育成する

HCHP企業のリーダーは、組織全体のリーダーシップを強化することを重視する。彼らは「自分1人で組織を動かすのではなく、リーダー層全体の能力を底上げすることが重要」と考えている。

例えば、スタンダードチャータード銀行では、各事業ユニットが戦略的に人材評価を行い、次世代のリーダー育成に取り組んでいる。CEOのピーター・サンズは、全社員の誕生日を手帳に書き留め、直接メッセージを送ることで、個々の社員とのつながりを大切にしている。


3. 社員と企業がともに成長するために

HCHP企業のリーダーは、社員の成長を促すことが企業の成功につながると認識している。そのため、次の3つの視点から組織を運営している。

1|社会に貢献する

企業が社会的な使命を持つことで、社員の士気が向上する。例えば、ハーマンミラー社では、社員がインドで学校を建設するプロジェクトを支援し、その経験を通じて組織の結束が強まった。

2|誇りを持てる業績を上げる

企業が高業績を上げることは、社員のモチベーション向上にも直結する。HCHP企業のリーダーは、業績を向上させることが「社員の誇り」にもつながることを理解し、組織全体で成果を追求する文化を育んでいる。

3|社員に成長機会を提供する

優秀な人材を惹きつけ、長期的に活躍してもらうには、成長機会の提供が欠かせない。ヒューイット・アソシエイツのフレイディンは、「社員にワクワクするような仕事を与え、成長のチャンスを提供すれば、彼らの目は輝く」と述べている。


4. 結論:偉大な企業を築くために

HCHP企業のリーダーは、業績を重視しながらも社員の熱意を引き出すことに成功している。彼らは、業績と社員満足のどちらかを選ぶのではなく、両立させる方法を探求する。強い信念と実行力を持ち、全社を巻き込んで変革を推進するリーダーこそが、企業を持続的に成長させる鍵を握る。

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廣石雄大/京都在住の経営者
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