遊戯王VRAINS感想
遊戯王VRAINS、番組表を見ていなかったので「『そろそろ物語が大きく動き出すな……』と思ったら最終回だった」という最終回を迎えた。
「好き」には違いない
大まかな感想としては、シリーズでも割と好きな部類に入る。……好きだけど、面白いかと聞かれるとむしろ「ここはもうちょっとやりようがあったんじゃないの……?」と欠点を挙げざるを得ない――けど、欠点を挙げつつもなるべく高く評価してあげたいと思えるような……そういう「好き」だ。
その「好き」の一番大きな理由は、ARC-Vの失敗を分析してきちんと活かしているところに由来する。遊戯王VRAINSは、前作の「説得される理由がないのに、説得で解決してしまった」「キャラクターをたくさん出しすぎた」という失敗をきちんと反面教師にして、「説得が通じないことをお互いに理解している」「登場キャラクターを不用意に増やさない」話作りをしていた。……していたので、感想書きの私としては、その真面目な心意気をどうしても好きになってしまうのだ。
欠点……というか、「ここをもう少しこうしていれば名作だったのに」ポイントを挙げる前に、素直に良かった点を話すと、1年目のプレイメイカーvsスペクター、プレイメーカーvsリボルバー、3年目のソウルバーナーvsリボルバーなどLOST事件関係者のデュエルは、現在の利害・対立・デュエルの中に過去の回想・心理フェイズが挟まっていて、しかもそれがキャラクターの人物像や過去から現在までの人生まで繋がっていたのでとても見応えがあった。
個人的には、現在の対立に過去の回想を挟むスタイルは、デュエルのひとつのテンプレートだと思う。10分間「あの時俺は……」と話して、視聴者が「おい、デュエルしろよ」と思った頃にちゃんとデュエルの続きをやる、黄金パターンだ。泣き崩れたりブラフを掛けたりと感情的な心理フェイズも見応えがある。
逆に言うと、その他のデュエルではこういったデュエルコミュニケーションはあまりなく、……このことを含め、このアニメの欠点(改善できる余地)を列挙すると、「3つ」では到底足りない。
VR設定を活かしきれていない
手短に話せるものから挙げると、まず「VR空間という設定を活かしきれていない」。2017年にVR空間を舞台とした物語を作るのに、ロックマンエグゼの"インターネット"くらいの解像度でしか描かれていないのは勿体ない(エグゼの発売は18年前だぞ!?)。2、3年かけて続けるつもりの世界なんだから、もっとSF的な(もっとも"SF"というほど、現実とVRネットワークの距離は遠く離れてもいないけど)部分を描いてほしかった。
ブルーエンジェルでもGO鬼塚でもマックスブレイブくんでもいいけど、せっかくインターネット世間がバーチャルYoutuberやVRChatを話題にしてるんだから、1話くらいそういうエピソードをねじ込むとか、可能ならキャラクターの根幹設定まで修正してしまうとか、……あったはずじゃん。
当初のテーマが投げっぱなし
2番目の欠点は、「人工知能に絡めたテーマが不完全燃焼だった」こと。1期と2期のアース消滅あたりまでは「AIに自我はあるのか? いずれにせよ、AIの"人格"をどのように扱うべきか」というテーマを描いていたのに、最終話まで見てもついぞ回収されなかった。
私はてっきり1期の頃から「AIは祈ったりしない。計算するだけだ」が最後の方で回収されるんじゃないかと予想してたんだけど、こういう"後で答えますよ"的なテーマを出題しておいて、放置して終わるのはやめてくれよ。
現実が追い付きつつあるテーマなのに、扱いがへたくそかよ。
「AIに自我があるのか」というテーマで見るなら、不霊夢なんて本当に号の深い存在で、ソウルバーナーにとって対等な相棒であり、上から見守る親代わりであり、でも自分が生まれてこなければ(LOST事件が起こらなければ)それに越したことはなかったという罪悪感を抱えていて、しかもそれとは別に、イグニスのひとりとしてAiやライトニング、ウィンディとの付き合いもある――作中屈指の人間味あるキャラクターなのに、それでも自我がないと言えるのか? ……そこまで業の深い問いをたてておいて、なんとなくボーマンに吸収されて消滅、以降は過去の人扱いって、本当に勿体ない。
(不霊夢は鴻上博士が本当に生み出したかった、人類とともに歩むAIの成功例でもあり、その点でもやっぱり業が深いよなあ……)
キャラクターの扱いが疎か
3つ目の欠点は、「キャラクターの掘り下げが足りない」こと。
一番ひどかったのはGO鬼塚で、最初のヒールターンはともかく(プロレスラーだから急にヒールターンくらいするんだろう)、AI鬼塚になったりGO鬼塚に戻ったりする割には、どれも大きなエピソードがない。
GXでカイザーがヘルカイザーになった回とか、5D'sのBFD初登場の回とかみたいに、きっかけとなる専用エピソードをひとつ作ってくれるだけでも、「ああ、それでスタイルを変えたんだな」って視聴者は納得できる(経緯の説得力がどうであれ、「転身しましたよ」ということは認められる)のに、ことのついでみたいなノリでイメチェンすんなや!
ブルーエンジェルについても同様。
最低限の描写が不足していたこの2人の転身以外でも、やっぱり各キャラクターに主役となる回が一つずつでもあればよかったのになぁと思う。それぞれのキャラクターにそれぞれの立ち位置・職業があるんだから、「ブルーエンジェルがアイドル業をしながら、謎の乱入者からハノイの情報を得る回(1期で2話構成)」みたいなのをもっと入れてほしかった。
十代vsクロノス先生の卒業デュエルみたいな熱量・爽やかさの、プレイメイカーvsGO鬼塚(再戦)も見たかったよなぁ。
(とはいえ、遊戯王VRAINSの人類は四六時中危機にさらされていたから、そういう小話を挟むタイミングが本当になかったというのはわかる。……だったら根本的に平和な時期も作れよって話ではあるんだけど)
作業的なデュエル
特に2期3期で目立った欠点だけど、「勝敗が見えているデュエルが多すぎる」。
ライトニングもボーマンも説得の余地はないし、人類側と交渉したり妥協したりする理由もない。主人公たちもそのことを理解している。勝ったら殺す、負けたら死ぬ。最終的にプレイメイカーがラスボスを倒して、人類は存続する……これらからの逆算で、ほとんど全てのデュエルが意味をなさなくなってしまう。
「スペクターがいくら心理フェイズに持ち込んだところで、ライトニングの人類を滅ぼそうとする意志は変わらないし、最終的にデュエルで殺すしかないじゃん。なんならデュエル以外で殺せるならそれでもいいけど」みたいな対戦カードが多すぎる。
3期序盤のSOL社防衛チームvsAiなんて、なにひとつ新しい情報が出ないまま、作業的にみんな負けて消えていったよなぁ。
3年目のテンポがいまいち
まあ3年目に限った話でもないけど。
プレイメイカーvsAi(最終回付近)まで情報を渋りすぎていて、最終話の直前に「実はライトニングからシミュレーションを見せられて……」「AIはその優秀さゆえに人類と歩幅を合わせられない」「俺のコピーを作って、俺は消えるよ」と怒涛の陳述。もうちょっとやりようあったろ~!
「モニターを見ながら、憔悴した表情でキーボードを殴りつける」とか「Aiそっくりのソルティスが並んだ部屋で『これであいつともお別れか……』と呟く」みたいなシーンをさ、せめてちょっと挟むくらいしてくれよ~!!
口頭で説明するにしたって、ロボッピが死んだあたりで話してくれないと心の準備ができないよ~!!
それっぽいシーンがあれば「もしかしてこういう動機なのかな」って考察できる(5D'sダークシグナー編の鬼柳とかその辺うまかったよね)し、一歩進めば「一見説得は不可能そうだけど、どうやって説得するんだろう? (どうやってハッピーエンドに辿りつくんだろう?)」ってサスペンス(宙づりの状態)を楽しめるのに、急すぎる。
最終回1話だけを見てもテンポが悪くて、最初15分でデュエルを終わらせてラスト15分で物語全体までまとめるのは気持ちの整理が追いつかない。
歴代のvs表遊戯、ダークネス戦後のvs武藤遊戯、vsジャック・アトラス、vsアストラルみたいに、作品全体のテーマをまとめなおすために2話くらい割けばちょうどよかったんじゃないかと思う。
(DMなら死者の魂、GXとZEXALは楽しむ心、5D'sは自分たちが切り開く未来とそれぞれ作品全体をうまくまとめあげている。ARC-Vだって、最後にvs沢渡でエキシビジョンマッチをすればもうちょっと見栄えが良かったはず)
VRAINSの場合、テーマは『繋がる心』だから、リボルバーと対戦しつつ「いろんな事件があったけど、その中で生まれた繋がりは決して消えることはない」みたいにまとめれば、自画自賛だけどいい感じじゃない?
まとめ
気になると言わざるを得ない部分はたくさんあったけど、それでもなんとなく「好き」だということには違いないんだよ……。これを読んで興味を持った人は、リボルバーかソウルバーナーが出る回だけ選んでみれば面白いと思うよ。