RetailTech領域のコロナ禍動向(後編)
DNXではここ数年、RetailTechの領域について理解を深め、RetailTechスタートアップのこれからに目を向けた投資戦略を構築することに注力してきました。最近ではCOVID-19がリテールテック業界の全体的見通しを画期的に変えましたが、このような構造的変化を目の当たりしにての我々のリサーチの一部をご紹介したいと思います。この記事は、出資者/LPに向けてシェアしたプレゼンテーションをベースに、再編集してご紹介しています。
前編では、なぜDNXがRetailTechの領域に注目しているのか、そしてCOVID-19が日本、中国、そして米国においてのRetailTechの領域に与えた影響についてご紹介しました。後編では、RetailTechのバリューチェーンのフレームワーク、各バリューステージで最も頻繁に利用されているソリューション、ウィズコロナで重要性が高まると思われるソリューションについてご紹介します。その上で、DNXが特に興味を持ったソリューションをご紹介します。
前編はこちら!
1.Retail Techのバリューチェーン
Retail Techのバリューチェーンを細分化するのには、さまざまな方法があると思われますが、今回我々は、顧客の購入前、購入時、購入後の各段階の動きに沿って、リテール業者やブランド店がどう動いているかをセグメント化してみました。購入前のツールとは主に、ブランド店やリテール業者が商品開発や商品の品揃え、ターゲットとする顧客への働きかけをサポートするものを指します。購入時のツールとは、ブランド店やリテール業者が、実店舗又はEコマースストアの「現場」でより効果的な販売をサポートするものです。購入後のツールとは、顧客が購入した商品を受け取るためのロジスティクス全てを管理する為のツールであり、顧客のロイヤリティを高めるためのエンゲージメント・ツールでもあります。
COVID-19後に相対的に重要度が高まるのは、どのソリューションでしょうか?
この質問に答えるための出発点は、まずパンデミック前後の消費者心理がどう変化したかを踏まえることです。COVID-19前、日米経済はいずれも比較的順調に成長しており、食料品やシャンプー、歯磨き粉などの生活必需品への需要が比較的安定し、それ以外の商品への購買欲も旺盛でした。しかし、COVID-19とそれに伴う景気後退により消費者の購買欲が低下した一方で、大規模な生活必需品への需要が急増しました。前編でご紹介した通り、COVID-19以前はEコマースは順調な成長を続けていましたが、それでもリテール全体の購買の割合でみると、その大部分はまだ実店舗での購買が占めていました。COVID-19以前の時代の消費者は、商品を購入後すぐに持ち帰れるという利便性、且つ、購買体験そのものを楽しんでいたと考えられます。一方ウィズコロナにおける消費者は、オンラインで購入し、自宅への配送、または、最寄りの実店舗での受取りを要求(すなわち、BOPIS=Buy Online Pickup In Store)するようになりました。ウィズコロナにおいても実店舗に足を運ぶ消費者層にとっては、リテール店側が衛生対策にしっかりと投資した安全な店舗であることを保証していることが何よりも重要な点となっています。
パンデミックの期間中に消費者心理がどのように変化したかを知ることで、バリューチェーン全体で相対的に重要性が高まるRetail Techを知ることができます。
先ほどの分類に即して見ていくと、購入前のツールでも、消費者の需要の変動合わせて対応できるように、ブランド店やリテール業者は既存の在庫管理や需要予測ツールを細かく見直すことになるでしょう。購入時のツールでは、購買体験を損なうことなく、物理的なタッチポイントを減らす為のソリューションへの重要性が高まると考えられます。特に、店頭での在庫状況を測定するためのロボティクス、非接触型の支払い、ソーシャル・ディスタンス・ショッピングに焦点が当てられると思われます。購入後のツールの中でも、ブランド店やリテール業者は、特にマイクロフィルメント施設を通じたラストマイル配送、そして返品・交換の管理ソフトウェアなどを駆使して、Eコマースの流通チャンネルを強化する方法を検討することになるでしょう。
ここからは、DNXが特におもしろいと感じているウィズコロナ時代のソリューションをご紹介していきます。
2.需要予測とプランニング
1つ目のソリューションは、データを元に消費者の需要予測を展開する、需要予測とプランニングツールです。企業にとって需要予測とは、顧客がどれだけの商品やサービスを購入するか、そのためにリテール業者がどれだけの在庫を用意すべきかについての予測情報を提供するものです。しかし、リテール業者がウィズコロナの新しい世界で優位に立ち続けるためには、従来のような単純な需要シグナルだけでは十分な指標にはならないでしょう。需要予測・プランニングツールはCOVID-19の遥か以前よりありましたが、ウィズコロナでは、人の往来、天候、健康状態など、より複雑なデータセットを取り出し分析できるような新しいプラットフォームが求められます。
この分野で特に期待できる企業は、次のスライドの通りです。
3.次世代PoSと非接触型決済
2つ目のソリューションは、現金やNFC決済、顔認証まで、多数の支払い方法に対応できる次世代のPoSと非接触型決済です。リテール店には、これらの取引にもとづいた消費分析データなど、付随するバリューを提供することもできます。ウィズコロナにおいては、衛生や安全性に対して人々が過敏になっており、リテール店においても、シームレスで非接触型の決済ソリューションの優先度が高まるでしょう。
4.ソーシャル&ビデオ配信コマース
3つ目のソリューションは、ソーシャル&ビデオ配信コマースです。これは、ソーシャルメディアや動画配信、ストリーミング・プラットフォームを利用したオンラインショッピングのことです。ソーシャル&ビデオ配信コマースは、COVID-19以前からあり、特に中国で成長してきましたが、米国や日本でも同様のトレンドが出てくるのではないかと思われます。その大きなきっかけとなったのはCOVID-19です。パンデミックの影響で実店舗が閉鎖を余儀なくされたため、消費者やブランド店はオンラインしか選択肢になくなったわけです。しかしソーシャル&ビデオ配信コマースのソリューションでは、ただ漫然とビデオ画面上で商品を紹介・提供するのではなく、ライブ・ストリーミング機能を使用して、店員が商品の選択から支払いプロセスまで顧客をガイドすることで、顧客にとって購買体験がよりパーソナルで楽しいものになります。ほとんどの人が、既存のソーシャルメディア・プラットフォーム(Facebook、Instagram、Pinterestなど)の延長線上で、ソーシャル&ビデオ配信コマースという新しい形の購買を始めています。これからは米国スタートアップの PopShopやShopShopのように、ソーシャル・ショッピングに特化したプラットフォームを開発するネイティブプラットフォームが出現してくるのではないかと期待しています。
5.ラストマイルデリバリー
続いては、ブランド店やリテール業者が輸送経由地から最終目的地まで商品を配送するラストマイルデリバリーです。ラストマイルデリバリーのソリューションはここ数年、安定したペースで成長してきましたが、コロナの影響でその需要は爆発的に高まっています。特にエンドユーザー向けの独自の流通チャネルを持っていないブランド店やリテール業者の間で、その傾向が顕著になっており、ビジネス面で外注先に大きく依存しています。DNXでは、配送需要に対応する手段として、ロボティクスと自律走行車のテクノロジーの進歩に期待しています。
6.マイクロフルフィルメント
マイクロフルフィルメントは、オンラインでの食料品の受注、注文処理から配送といったステップを自動的にサポートするロボット駆動システムです。コロナ禍において、食料品の注文をより速く、より効率良く全別して扱うことができるロボットフルフィルメント施設は、オンラインフードデリバリー業界で大きな需要があります。
7.パッケージ型小売ソリューション
最後は「パッケージ型小売ソリューション」です。これはエンドツーエンドのリテール・ソフトウェア・パッケージです。ブランド店やリテール業者はほんの数年前と比べても遥かに短時間で店舗(Eコマースまたは実店舗)を立ち上げることができます。さらにこのソリューションには、ホワイトラベル決済、マーケティング、フルフィルメント、顧客エンゲージメントツールなどのサービスが付随するものも少なくありません。「パッケージ型小売」ソリューションの中で有名なのは、Shopify、BigCommerce、Magentoですが、特定のリテールカテゴリー(ホームセンター、薬局・医療、スポーツ用品など)のエンドツーエンドのニーズに対応する「パッケージ型小売ソリューション」がさらに多く登場することが予想されます。ウィズコロナの環境では、ブランド店が成功し生き残るためには、素早く対応できる販売ツールが必要です。特に、物理的な商品のみを扱うブランド店やリテール業者にとっては、売上を維持するための迅速なEコマースソリューションが必須となります。
いかがでしたでしょうか。
関連して、リテール業界の生の声として、米国スタートアップSHIPSIのCEO ChelsieLeeさんと、直近まで米国スーパーマーケットTargetのイノベーション責任者を勤めていたGene Hanさんにご登壇いただいたリテール業界の対談をご紹介しています。リテール大手とスタートアップ、それぞれの視点から語られた、実店舗からEコマースへ、非対面のコミュニケーション、非接触の決済など、テクノロジーへの大きな要請と需要の変化について、ぜひ合わせてご覧ください。
(監修:前田 浩伸 / 文:Rickie Koo / 翻訳:高橋 龍子 / 編集:上野 なつみ)
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