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SaaS起業家限定配信「SaaS部 2020 Spring」レポート①|KKR 谷田川英治氏

2020年3月末、弊社の投資先およびSaaS領域で起業した起業家を対象に、DNX主催「SaaS部 2020 Spring」を開催しました。SaaS/クラウド領域で数多くの投資実績をもつManaging Directorの倉林陽が登壇、ゲストにKKR 谷田川英治氏、Japan Cloud 福田康隆氏をお招きしトークセッションを行いました。なお、今回は、新型コロナウイルスの感染予防のため、初めてのオンライン配信形式にてお届けしました。
本記事では、前半のセッション、KKR 谷田川英治さんのプレゼンテーションと、倉林との対談をお送りします。

※今回のSaaS部冒頭では、投資家・倉林よりコロナショックのSaaS企業への影響についてセッションを行いました。その内容については、再編集の上noteの記事で紹介していますので、ぜひ合わせてご覧ください。


こんにちは、KKRの谷田川と申します。私は2006年にKKRに入社しまして、今年で14年目になります。

さて、KKRというと、バイアウトファンドというイメージが強いかもしれませんが、最近は「テクノロジー・グロース投資」にも注力しています。本日は、今なぜ我々がテクノロジー・グロース投資に本格的に取り組んでいるのか、投資検討にあたり何を求めているのかについてお話ししたいと思います。

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谷田川 英治
2006年、KKR入社。東京オフィス勤務。2006年米国メンローパークオフィス、2010-12年香港オフィスにて勤務。KKR入社以前はゴールドマン・サックス投資銀行部門にて東京およびニューヨークで勤務し、テクノロジー・メディア・テレコム業界担当として、M&Aや資金調達などの案件に関与。KKRにおいては、テクノロジー業界チームのメンバーとして、Unisteel(シンガポール)、インテリジェンス、PHCホールディングス(旧パナソニック ヘルスケア)、アルファシータ(旧Pioneer DJ)、Transphorm(米国)、マレリ(旧カルソニックカンセイ)、工機ホールディングス(旧日立工機)、KOKUSAI ELECTRIC(旧日立国際電気)の投資に関与。また、アジアにおけるテクノロジーグロース投資リーダーとして、国内初となるフロムスクラッチへの投資を主導。
東京大学工学部にて学士号、東京大学工学系研究科にて修士号取得。

KKRの歴史と概要|
アントレプレナー、ファウンダーのカルチャー

まず簡単に私どもの経験を紹介させて頂きたいと思います。KKR(Kohlberg Kravis Roberts)は、コールバーグ・グラビス・ロバーツの3名が1976年に設立しました。おそらく世界でもっとも歴史と経験のある総合資産運用会社の一つであり、特にPE業界のパイオニアとして知られています。創業者のクラビスとロバーツは、引き続き共同CEOとして現役で指揮をとり、現在も投資委員会に参加していることもあって、アントレプレナー、ファウンダーのカルチャーを強くもった投資会社です。AUM(Assets Under Management/運用資産)は208 Bilionドル(約20兆円)。投資家は全世界に450名おり、そのうち約150名が「プライベートエクイティ投資」を担当しています。一方、「グロース投資」に特化している投資家は、全世界で約30名程度います。

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注力分野|
日本はスロースタート、昨年初の「テクノロジー・グロース投資」

KKRが日本に進出したのは2006年、今年で14年になります。ところが、最初の7、8年の投資件数は1、2件。はじめはなかなか投資ができず、しばらくスローペースでしたが、近年、大企業から子会社への買収・上場・非公開といった「カーブアウト投資」、さらにはその投資先による追加買収、クロスボーダーM&Aなど、大きな企業投資を行ってきました。

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ここ3年ちょっとですね、「テクノロジー・グロース投資」を注力分野に設定し、昨年ようやくその1号案件として、フロムスクラッチへ投資を行うことができました。倉林さんともそこで出会いましたね。


長年のテクノロジー投資実績とその理由|
テクノロジーが介在しない業界はない、テクノロジーの理解が不可欠

日本ではここ最近ですが、実は我々、テクノロジーには長い間投資を行ってきたんです。下のスライドの右側にあるように、PEとして大型のPE投資やバイアウト投資を行なっており、合計26 Billionドル(約3兆円)の企業価値の会社へ投資をしています。一方で、スライドの左真ん中にある通り、「テクノロジー・グロース」の領域にも多く投資を行っています。多くはSaaSの会社です。

また、スライドの右側にある通り、PEファンドから大型のテクノロジー・グロース案件にも投資をしています。ByteDanceやGOJEKなど、皆さんも聞いたことがある会社もあるかと思います。

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下のスライドの通り、B2B領域のSaaS/ソフトウェア関連企業へも多く投資をしています。昨年このリストにフロムスクラッチを追加することができて、私としても大変嬉しく思っています。

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ではなぜ我々がこの「テクノロジー・グロース投資」に注力しているのかというと、現代においては、すべての産業がなんらかのかたちでテクノロジーの影響を受けているから。従来型のPE投資をするにおいても、テクノロジーを活用できる企業が企業価値を伸ばし、逆に、テクノロジーに乗り遅れてしまった企業は企業価値の棄損や他者によってディスラプトされるということがおこっています。

下の絵は見られたことがある方も多いかと思いますが、従来のインダストリーの概念では想像できなかった所から競争相手がやってきて、ディスラプトされています。ディスラプトに成功した企業のバリュークリエーションは、テクノロジーなしに語れません。

逆にオポチュニティの観点からいうと、デジタルトランスフォーメーションテクノロジーをどううまく活用していけるのかが大きなバリュードライバーになってきている。そのため、我々はテクノロジーへの理解が不可欠である、という強い問題意識を持っているんです。

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テクノロジーという業界を横断するホリゾンタルなケイパビリティを強めた”Tech-Savvy”な投資家を目指すために、KKRではふたつの取り組みを行っています。
ひとつが、グロースにフォーカスしたテクノロジーのファンドを立ち上げること。
もうひとつは、オペレーションチームの中に"Technology Transformation Team"というチームを作ることで、デジタルトランスメーションのケイパビリティを蓄積していっています。

投資対象|
グロースに重きをおいたスタートアップ投資

KKRがスタートアップへの投資を検討する際の、定量的な投資基準を紹介させて頂きます。我々は「グロース投資」に主軸を置いてますので、投資対象となるスタートアップの規模は、売上で10億円程度、エクイティの投資金額で20~30億円投資できる対象を探しています。
3年ほど前から日本のスタートアップに投資したいと、最近上場を果たした大型のSaaS企業は一通り投資検討をさせて頂いていました。ところが、グローバルな投資委員会を通すためには、ローカルなイシューに対してローカルソリューションを提供しているだけだと、バリュープロポジションとして厳しかったんです。

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そんななか、フロムスクラッチが提供しているカスタマーデータプラットフォームやマーケティングオートメーションは、間違いなくグローバルなイシューでした。また、日本企業のペインポイントもうまく抑え、差別化されたローカルソリューションを提供していました。そのペインポイントはアジア諸国にもありそうで、海外への拡大展開も期待できる。もし海外展開する場合には、KKRとしてサポートもできそう、と考えました。


日本の投資が進まなかった理由|
日本のスタートアップのバリュエーションは海外よりも高い

倉林:では、ここからは私の方から質問をさせて頂きたいと思います。ここ5~10年、日本では優秀な人が起業し始めています。さらに投資をしやすくするにはどんなことが求められますか?

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谷田川さん:実は日本の投資において、最初のハードルはバリュエーションなんです。上場企業では、同じ業界・プロファイルについて日/米欧で比較すると海外企業のバリュエーションが高いですよね。ところが、グロースの投資先、つまりスタートアップのバリュエーションに関しては、逆転しているんです。

起業家の皆さんには、調達の「良し悪し」が問われると思います。確かに希薄化することはわかりますが、アーリースステージ(シリーズAやB)でバリュエーションを最大化することが最終目標ではなく、5~10年といった中長期で考え、企業が永続的に成長する「サステイナブル・グロース」を達成することこそ目標であるということをぜひ思い出していただけたらと思います。日本はまだ業界の歴史が浅かったり、DNXのようにファイナンスに強いVCばかりではなかったりして、適正なバリュエーションが付きづらいのかもしれません。良くも悪くも、コロナの影響で投資のペースが業界としては適正に、そして正常化するかもしれません。

投資戦略|
KKR注目領域は、バーティカル特化SaaS

倉林:今後注目している業界や領域はありますか?

谷田川さん:我々もB2B領域の投資に力を入れているのでDNXさんと少し似ていますが、バーティカル特化型は面白いと考えています。トラディショナルなバリューチェーンやビジネスプロセスをデジタル化をしようと取り組んでいる企業などを注目して見ています。たくさんのレーバー(労働力)かけてやっていたことを、テクノロジーでディスラプトするのはテーマとして面白いと思います。また、大企業の子会社が抱えている問題に、それぞれ共通点があるんです。使っているITシステムでは、数字の見える化ができていない。そうした日本企業が抱えている固有の課題を、ファイナンシャルSaaSのテクノロジーやダッシュボード機能を用いて解いていけたら面白いのではないかと思います。


コロナショック対策|
コロナショックにはディフェンスとオフェンスのバランスが重要

倉林:谷田川さんはこの新型コロナウイルスの影響をどのように見ていますか?KKRさんは何か大きく変わりますか?

谷田川さん:KKRはファームとしても、これまで色々な危機を経験してきました。そのなかで、ディフェンスとオフェンスをどの割合でやるのかが大事だと思っています。こうした危機的状況が発生すると、基本的には、「ディフェンスモード」に入りがちだと思います。ただ、我々はおそらくこの業界の中でリーダーの立場にありますし、他の企業はもっと苦しい。だからこそ、ここでM&Aを仕掛けたり資金支援をしたり「オフェンス」も仕掛けていく。その辺をどうバランスをとっていくのかが重要だと考えています。


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今回のSaaS部は、マネーフォワードさんのオフィスをお借りしてオンラインで配配信しました。オーディエンスのリアクション見えない中、ゲストのみなさんには、カメラに向かってお話頂きました。

PE視点のスタートアップ投資トーク、いかがだったでしょうか。テクノロジーに対峙し、グローバルな展開可能性についても長年の経験と視点から厳しくもフェアに投資検討を行うKKRの投資。レイターステージにおける資金調達の参考にして頂けたらと思います。

イベント自粛モードの流れを受けて、オンライン開催となったSaaS部。次回は後半戦、Japan Cloudの福田康隆氏とDNX倉林の対談をお届けいたします。


文・上野なつみ 監修・倉林陽

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