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初代ジャック?

春の嵐なのか。昨日からの湿気、雨、そして強風。
予想通り公園の桜は半分以上散ってしまった。
儚いものです。

午後遅くになって、ようやく雨も上がったのだが、身体がベッドから起き上がれない。こちらも看病疲れ、睡眠不足が続いている。

数値が下で安定したのか、身体が病気に慣れたのか、それとも春だからか、ジャックはこのところ元気だ。

今日も散歩が待ちきれずソワソワして、玄関先で「早く行こうよ」とばかりにワンワン吠える。
実際ダッシュするのは数十メートルで、そこからは自転車のカゴに乗り悠然としているのだが。

公園の入り口で、なんとなく見覚えのある妙齢のマダムに声をかけられた。
「その子は初代ジャック?」
「え?どういう意味ですか」
「私、パン屋さんのそばにそちらが引っ越す前に、よくお散歩でお見かけしたことがあって……」
ということは10年以上前か。
「ああ、そうです。あのときのジャックです。初代です。あと少しで16歳になります」
「そう!すごいのねえ」
ジャックも褒められて嬉しそうだ。
黒柴を連れていたので「何歳ですか?」と聞くと
「この子は7歳なんだけど(あれ、数字が合わない)……、あ、この子はお散歩代行で預かっているの。うちの子は亡くなって」
「そうでしたか……」
飼い犬が亡くなっても、こういう犬との接し方があるんだな。
僕たちは雑談しながら少し歩いて、別れた。

途中、ジャックがやたらいいうんちをしたのを拾って、すごく明るい気持ちになる。
犬のうんちを拾って気持ちが上がるというのも変だが、事実なのだから仕方ない。
おもいきりジャックを褒めてやる。

植え込みのツツジの蕾が少し開きかけて濃いピンクを覗かせている。
桜と違って、少々毒々しいくらいの色だ。
急に歩かなくなったジャックを抱えて前に進むと、風に煽られた桜の花びらが舞っていた。
地面も桜の絨毯だ。
広場に行くと誰もいない。
ジャックはつまらなそうに広場の匂いを嗅ぎ始めた。

戻り道、ジャックの足取りが軽い。急ぐ。ならば行きつけのカフェに行こうとしているのだ。
仕方ない、行くか……と急ぐと、公園の出口の先にある広場に何匹かの犬たちがいて見知った子たちもいるので加わった。

ジャックも仲間に会えて嬉しそうに挨拶し、遊ぶ若者たちを楽しそうに眺めていた。
ときどき割って入ろうとするくらいだ。
犬が駆け回るのを見るのはほんとに楽しい。

後からきた茶色いかわいい犬(雑種)の飼い主さんが、「この子は〇〇県の多頭飼い崩壊した家からレスキューされたのよ」と教えてくれた。
「どういう意味ですか?」
「一軒の家で85頭も飼っていて、面倒見きれなくてってわけ」
85頭?
一頭だってこんなに大変なのに……。
ご飯は? トイレの世話は? 寝床は? いろんな疑問が浮かぶが、聞けば聞くほど、テレビ番組で見たことのあるような話だった。
茶色の犬にボーロをあげて「よかったね、新しいお家ができて」と声をかけると澄んだ目をして僕を見ていた。
犬はその家で、面倒も見てもらえず、どういう気持ちで暮らしていたんだろう。

見上げると、春の嵐が去った曇り空が見事な夕焼けに変わって、やがて一瞬で暗くなった。
皆さんが家路につき、僕らはまた自転車に乗って下北沢へ向かった。
今日のジャックはやる気に満ちている。
少しでも楽しい思いをさせないと。
帰ったら、点滴をしなくてはならない……。



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