『あかり。』第2部 S#74 撮りたかったもの・相米慎二監督の思い出譚
あのとき自分が撮りたかったものってなんだろう……と思い出そうとしてもあまり思い出せない。
断片的に撮った映像は思い出せるのだが、そこに映し撮りたかったものが思い出せないのだ。
未熟だったんだろうと、いまはわかる。
撮っているときは、わからない。
ただ一つ一つのショットが成立していたとしても、編集で繋いでみたものは映画とは到底呼べない代物だった。すべてが寸足らずだ。
いまはこう言えるけど、当時は思っていても言えなかった。
撮った本人が吐いてはいけないことがある。
きっと相米監督もそう思っていたろうけど、僕を責めることはなかった。
自分の才能が足りないと認めることほど、苦しいことはない。
映画監督に必要で十分な才能がない、それをどう受け止めて生きていくかが
自分の課題になった。
結局、すごい人のそばにいるって、そういう側面がある。
残酷な現実を受け止めるには、僕はまだ若過ぎた。
結局、撮りたかったものは、なにも映っていなかった。
あれからずいぶん年月が過ぎた。
なんだか嘘みたいな時間だ。