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歳の離れた姉と、歳の近い姪のこと
6週間の home leave 後、香港に帰り、強制隔離からも放免されて、もとの香港生活に戻っているわけですが、日本でのちょっとした事件のことを書いておこうと思いました。
私には、7歳上のやさしい兄と、11歳上のコワい姉がいます。
姉兄弟仲は良好です。私の 3年ぶりの帰国を歓迎してくれ、いつものように酒食を共にしました。その場には、姉の子や兄の子ら(全員成人)も交じっています。
姉の長女を “きよ” といいます。
私にとって最初の姪であり、私が高校生のときにオムツを替えたり「たかいたかい」したりした、特別な思い入れのある姪っ子です。
きよもいまや 34歳になっています。
きよは、小さい頃から勉学に優れ、大学で農学の道に進み、Ph.D.を取得しました。現在は、公務員として農地開発に携わる仕事をしています。
久しぶりに大家族が集合したにぎやかな場で、私の兄がきよに言いました。
「きよ、結婚する気はないの?」
一瞬、心がざわっとしました。
それはきよにとって、長年タブーの話題だったから。
学業一筋、おそらく男子と付き合ったことのないきよのことを、私も心配していた時期がありました。きよが大学院生の頃、ボサボサの髪にすっぴん、ダサダサの服で研究室に向かう姿を見て、姉(きよの母親)に諫言したこともあります。でも、それもきよの個性だと考えるようになり、浮ついた話はしないようにしていました。
それをいま話題にするか、兄者よ。
私はきよと兄(きよの叔父)の関係性がよくわかっていないので、とりあえず黙っています。
兄「お見合いしてみたらどう?」
きよの顔を見ました。
静かに微苦笑しています。
この程度の軽口には動揺しないほど、大人になったんだね、きよ。
そこへ、姉が口をはさみました。
「大きなお世話だよ。ねえ、きよ」
姉の口調は穏やかでしたが、やや苛立ちがにじんでいます。
その流れで、兄と姉が討論を始めました。きよを置き去りにしたまま。
兄「いまどきのお見合いは、むかしと違って」
姉「そうゆうことじゃなくて、そもそも結婚する必要があるのかってこと」
兄「一生独身で生きてくの?」
姉「いいんじゃない?べつに」
兄「あんたは先に死ぬんだよ?」
姉「わかってるわよ。でも、きよの人生なんだから」
兄「一人ぼっちの人生なんてさびしすぎるだろ」
姉「それが大きなお世話だって言ってんの」
なかなか終わりそうにないな・・・
「一服してくるわ。きよ、行こうか」
私はきよと外に出ました。
翌日、兄から電話がありました。
兄「おねえちゃんがメチャメチャ怒ってんだわ」
私「は?」
兄「昨日のことだよ。きよが傷ついたって」
私「あれは、おにいちゃんが悪い(笑)」
兄「あぁ、反省してる。でもそんなに傷つく歳でもないだろ」
私「ふつうならね・・・。きよに詫び入れといたら?」
兄「それができんのだわ。きよとは二度と会わせない、って言われてな」
私「相当怒ってるね、おねえちゃん」
兄「まいったよ。助けてくれ。たのむ」
次の日、私は姉の家を訪ねました。
「あのとき、きよを外に連れ出してくれて、ありがとね」
と姉は言いました。
姉は、怒っているというより、落ち込んでいるようでした。
「あたしのせいだと思う。あの子にきびしくしすぎた。でも、いまさら性格変えられないよね。あの子、友達ができなかったんだよね。だからオシャレとかにも興味がなくてさ。自分を変えようとして、遠くの高校に入った。でも、いなかもの扱いされてやっぱり友達ができなかった。自分が周りと違うってこと、きよ自身が一番よくわかってると思う。だから、ほっといてほしいのよ。本当は、さびしかったり、将来が不安だったりするのかもしれないけど・・・あたしにはそんな顔見せないんだよね、あの子」
ちょ、おねえちゃん、泣いてるの?
姉と兄を和解させるのはあきらめ、姉の家をあとにしました。
獣医師の兄は犬や猫のことはわかっても、ヒトの機微には鈍感です。この際、猛省してもらうことにします。
コワかった姉の、意外な一面を見ました。子どもが手を離れ、犬を溺愛する生活にシフトしたと思ってたけど、母はずっと母なんだな。
きよ。君は愛されている。それに、農学博士として地域に貢献している君を叔父ちゃんは誇りに思う。恥じることなどひとつもない。胸を張って生きていけばいいんだよ。