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私の岳父コンプレックス

「世界で一番怖いもの」と言えば、妻の父です。
世の多くの男性が同意するのではないでしょうか。

嫁 vs 姑に比べて、婿 vs 舅は気楽な関係だと思っていませんか?
とんでもない誤解ですよ。

妻の父、すなわち岳父というものは、怖い、苦手、畏怖すべき、近づきがたい、勝てる気がしない、絶対に嫌われるわけにはいかない、等々の形容詞がすべて当てはまる、世界最強にして最凶の存在なのです。

5回結婚している私には、岳父も5人いる(いた)わけです。
もうそれだけで、私の人生はイバラの道と言っていいでしょう。
いくら男同士でも、岳父と意気投合とか、身内と感じたことは皆無です。

それはなぜなんだろうと思い、私の歴代の岳父を振り返ってみました。

岳父一世
萩出身。高校の数学教師。女・女・男の父親。
見た目は頑固そうだが、根はリベラルな人格者。
似ている人: 東野英心

東野英心2

初めて会ったとき、『あばれはっちゃく』の父ちゃんだ、と思いました。
面倒臭そうだな、と感じるしかないじゃないですか。
しかも、学校の先生ですよ。
土星面倒臭そうですよね。(輪をかけて面倒臭そうの意)
しかし、付き合ってみると、当時 27の小僧だった私を下へも置かぬ扱いで、陽気かつ丁重に酒をすすめてくる好人物でした。
(だからなおさら恐縮しまくるのですが)
ただ、最後まで気になって仕方なかったことがありましてね。
岳父一世は、どう見てもヅラでした。

岳父二世
横浜出身。建築業経営。女・女・女の父親。
見た目は組関係だが、土建屋のオヤジ(やっぱり組関係)
似ている人: 渡辺哲

渡辺哲3

怖かったっちゅーねん。
初めて会ったとき、その娘を選んだことを軽く後悔したよね。
私の相手は三女で、長女と次女は既婚でした。
長女の夫も、次女の夫も、見た目カタギじゃなかったよね。
長女の夫は外資系金融エリート。次女の夫は労働組合の若き書記長。
初対面なのに、父も義兄1・義兄2もサングラスして登場。

オマイら石原軍団かと。

西部警察3

まだ入るって決めてませーん!


岳父三世
京都出身。菓子司経営。1女の父親。
浮き世離れした雅びな趣味人。大酒呑み。
似ている人: 小林薫

小林薫3

京都人は高飛車で裏表があって ”いけず”。
などとも言われますが、私は京都の人間が嫌いではありません。
私が京都に住んだのは学生時代のことだったからでしょうね。京都の人たちにはやさしくしてもらったし、京都には美しい思い出しかありません。

あれから10年後、生粋の京都人を岳父に持つとは思いもよらなかった。
京の町家。老舗のボンボン。ひとり娘。
普通の男なら戦意喪失、敵前逃亡しても責められない状況です。

「ダメもと」くらいの覚悟でお会いしましたが、拍子抜けするくらい温かく迎えていただきました。
娘が選んだ男を拒絶するのは不粋、という美意識があったのか。
酒に強いところが高評価だったのか。

岳父三世の趣味は、歌舞伎観賞、美術品の収集、詩吟などで、お話には全然ついていけなかったけれど、京都人特有のユーモアがあったなあ。

岳父四世
大阪出身。大手商社勤務。女・女の父親。
礼儀正しく物腰ソフトな紳士。恐妻家。
似ている人: 渡辺淳一

渡辺淳一2

歴代岳父の中で、最も自分に近い種族です。
やっと普通のサラリーマンきた、って感じ。
そして、やたらと気に入られました。
私の相手は次女で、長女は一生結婚しない主義らしかったので、岳父はうれしかったんでしょうか。大阪へ行くたびに、サシで飲みに誘われました。

奥様がコッテコテの大阪のおばちゃんで、ちょっと苦手なタイプだったため、同胞感情が芽生えたのかもしれません。

岳父四世は、某総合商社の部長でした。種族が近いとはいえ、大先輩ですし、どうしても上司と飲んでる気分は拭えませんでしたが。
学ぶことは多かったです。商社マンって面白いなあ、と思いましたね。

岳父五世
山形出身。無職。男・女・女の父親。
料理が得意。うまい酒を出す。融通無碍。
似ている人: きたろう

きたろう2

今の妻の父。現岳父です。
昔はサラリーマンだった(らしい)。脱サラして、小料理屋を営んでいたが、それも辞め、以後ずーっと無職。
初めて会ったときは 60前でしたが、無職と聞いて、反応に困りました。
蓄えがあるのか、地主なのか、裏稼業でもしてるのか、全く謎のまま。
妻も、謎だと言っています。

この岳父、かなりフシギちゃんですが、魅力的な人です。
私達が訪問すると、山形の銘酒を用意して待っています。
毎回違う肴をこしらえ、その旨さで毎回私を唸らせます。
超がつく愛妻家です。奥さんの顔を見て「めんごいなぁ」と言います。
かなり酒を過ごしたところで、「蛍ば見に行ぐべ」と言って私達を外に連れ出します。

この岳父と初めて会ったのは、私の父が他界した翌年のことでした。
現在 70前ですが、いつか岳父が死ぬとき、私は父が死んだときと同じくらい泣くような予感がしています。

なんかこうして振り返ってみると、歴代の岳父たちをそれほど苦手としてはいなかった気がしてきました。
もうひとつ、気づいたこと。
私の離婚歴について問い質した岳父は一人もいませんでした。(それを問い質すのは母親の役目だったからかもしれませんが)

これは、単に運が良かったとかじゃない、と思いました。
元妻たちも現妻も、自分の父親のことをよくわかっていたんだね。
「私の父は、人の過去や世間体にこだわるような人ではない」と。
だから、この人を父に会わせても大丈夫、と判断していたんだろうね。

なんなら似た者同士くらいに思っていたかもしれない。

私はどの岳父とも飲んでばかりいますね。
彼女たちは、この 2人はとりあえず飲ませときゃ仲良くなるだろ、くらいに考えていたのかもしれません。
女たちの洞察の鋭さよ。

そしてサントリーの CM の秀逸さよ。

國村準2


続編です。