ファミリーの結束
その日、長女フランス(仏)が長男ドイツ(独)のもとを訪れた。
仏「兄者。ちょっとよろしいか」
独「おおフランスか。何用ぞ」
仏「ロシアのプーと電話会談したそうですな」
独「ああ、そのことか」
仏「いったいどういうおつもりか」
独「軍の撤退を要求したが、断られた」
仏「アホですか?」
独「じき3年になるぞ。俺がなんとかするしかないだろ」
仏「ここ最近、兄者のスタンドプレイが目立つようで」
独「お前の裏工作は何も解決できなかったからな」
仏「現在の防衛ラインで妥協するしかありますまい」
独「フランスよ。本気でウクライナを支援する気があるのか!?」
仏「寝袋とヘルメットしか送らへんかった奴に言われたないわ!」
独「しょーがねーだろ!俺がやりすぎると周りがザワつくんだよ!」
仏「ほなジャガイモとキャベツの酢漬けでも送っとけや!」
独「お前はマクロンにマカロン付けて送れー!」
そこへ入ってきたのは次女ルクセンブルクだった。
ル「もう。兄さんも姉さんもやめてくださいよう」
独「ルクちゃん聞いてくれよ。フランスが我が軍のヘルメットを侮辱しやがった」
仏「ルクちゃん聞いてーな。兄者はマクロンとマカロンも区別できてへんねんでぇ」
ル「兄さん、私はドイツ軍のシュタールヘルム好きだよ。ジオン兵っぽくてかっこいいわよね」
独「ルクちゃん、いつからミリオタになったんだよ」
ル「姉さん、マカロンのお菓子言葉は “特別な人”。マクロンさんと混同するのも無理ないわ」
仏「ふふ。ルクちゃんにはかなわんのう」
ル「EUはウクライナの加盟に前向きですが、そのためには停戦が条件になるでしょう」
仏「そやから一部の領土は諦めてさっさと停戦せい言うとるんや」
独「先週ゼレ公と会って俺もそう言ったよ。でも奴は支援してくれの一点張りでな。いずれ停戦するにしても、戦果を上げてからでないと意味がないって言いやがる」
仏「やはり、ウチらだけの支援では限界があるかのう」
そのとき、三男オランダ(蘭)が息を切らせてやってきた。
蘭「みんなそろっとんか。ちょうどええわ。えらいこっちゃでぇ」
仏「どないしたんやダッチ」
蘭「どないもこないもあるかい姉ちゃん!アメ公がウクライナへの武器供与やめるって言いだしよった」
独「なんだとぉ!?」
仏「とうとう出てきたかい、ドナルドダックめ」
ル「これはブラフね」
蘭「どういうことや、ルク姉ちゃん?」
ル「そう言ってウクライナの戦意を喪失させつつ、裏ではロシアと停戦交渉する気なんでしょ。ロシアに有利な条件で」
独「なるほどな。フランスよ。我ら足並みをそろえるときぞ」
仏「そうやな。これはヨーロッパの問題や。アメ公の好きにはさせへん」
独「よーし。ウクライナは俺たちで守る」
蘭「おもろなってきたでぇ。やったるわい!」
ファミリーが結束を固めるなか、やってきたのは次男イタリア(伊)。
伊「なんだか盛り上がってるみたいだね~」
独「ああ、オメエには関係のねえことだが」
伊「なんか、ウクライナを守るとか言ってたような」
独「オメエの戦力には期待してねーよ」
伊「地中海に船を浮かべるくらいならできるよ」
独「地中海は戦場にならんよ。だいたいオメエすぐに降伏しちまうしな」
ル「兄さん、それは昔の話よ。チー兄ちゃんだってファミリーのことを考えているのよ」
伊「ルクちゃん・・・」
独「おいイタリア。オメエのとこにも米軍が駐留してるよな」
伊「じつはそのことで、ちょっとイヤなウワサを聞いたんだけど」
独「なんだ?」
伊「駐留費を払わないと米軍は撤退するって言ってるらしい」
独「そのことか。俺のとこにもそう言ってきたよ」
伊「え・・・どうするのアニキ?」
独「払う気ないから出て行けって言ってやったよ」
伊「えーっ!そりゃマズいよ。アメリカさんに守ってもらわなきゃ」
独「オメエいつまで敗戦引きずってんだよ」
そこへひょっこり現れた三女スイス(瑞)。
瑞「みなさん、おひさ~♪」
独「スイス!今までどこで何してたんだ!?」
瑞「まあまあ兄上。それより国連の情報もってきたでぇ」
仏「この子はいつも絶妙のタイミングで現れよる」
瑞「これは姉上様。ご無沙汰しておりまする。ご機嫌麗しゅう」
仏「ええから国連の情報言いなはれや」
瑞「相変わらず国連は人道支援しかしないわ。軍を出す気はないわね」
独「役に立たねーな国連は」
瑞「国連軍は事実上の米軍なんですよ。アメ公は血を流す気が全くないの」
仏「国連が聞いてあきれるのう」
独「スイス、一緒にやらないか?」
瑞「兄上。ウチは永世中立国ですわよ」
独「国民皆兵制を敷いててよく言うわ」
瑞「武装中立ってやつはね、国民が命を懸けて守るから中立を保てるのよ」
そのとき、養子UK(英)が姿を現した。
英「これはこれはお歴々がお集まりで。パーティーでも始まるのですか?」
独「じつは、アメリカがウクライナ支援をやめるとの情報が入った」
英「ああ、そのことでしたか」
仏「おや?知ってたんかい?ミョーに情報が早いねぇ」
英「ゴホッゴホッ。BBCで観ましてね」
仏「へえ。ほんならUKはんのお立場とやらを聞かせてもらおか」
英「早期停戦すべきです。これ以上は我々の経済がもちませんよ」
独「お前さんも自分のことしか考えないんだな」
蘭「この野郎はアメ公のイヌやで。まずこいつから血祭にあげたろーか」
ル「ダッチ、言葉を慎みなさい。UKさん、NATOはウクライナ支援で一致しています。あなたはアメリカとともに、NATOの結束に亀裂を入れるおつもりですか?」
英「これは手厳しい。停戦はウクライナにとっても悪い話ではありません」
ル「では停戦後ウクライナをNATOの傘下に?」
英「それは無理でしょうね。ロシアが納得しません」
独「お前さんはいったいどっちの味方なんだ?」
仏「UKはん。今まであんたをファミリー同然に思うてきた。そやけどあんたを完全に信用したわけやおまへんのや。のう、兄者」
独「うむ。ヨーロッパの平和は俺たちが守る。英米軍は欧州から出て行け」
UKは皮肉な笑みを浮かべてその場を辞した。
英(やれやれ、相変わらずアタマの堅い連中だ)
こうして、ヨーロッパ・ファミリーは結束を強めたわけだが・・・
アメリカは独断でロシアと停戦交渉を行っていた。
ドイツもフランスも当事者ウクライナも蚊帳の外であった。
停戦後、ウクライナは緩衝地帯とされたが、NATO加盟は認められず、その後も隣国の脅威に晒されることとなった。
ファミリーはアメリカと距離を置き、UKは両者の間を巧妙に立ち回り、スイスはどの勢力にも属さないのであった。