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マスク論争。香港人 vs イギリス人

今日、香港の繁華街 Causeway Bay で市バスに乗っていて、ちょっとした事件に出くわしました。
日曜の正午のことで、バスは 10人ほど立っているくらいの混み具合でした。
(香港のバスは、女子供は座り、男は立つルール)

立っていた私のすぐ後ろから、突然、英語の怒声が響きました。
「No eat! No drink in the bus!」

振り向くと、60代くらいの女性が、前方を睨んでいます。
睨んでいる方向を見ると、40 絡みの男性がマスクをずらしてスターバックスのコーヒーを飲んでいます。
そこから、2人の論争が始まりました。
英語の発音で、女性は香港人、男性はイギリス人とわかります。

私は、仲裁に入るタイミングを見計らいつつ、2人の様子を観察します。
しかし・・・
バスでもトラムでもチューブでも飲食くらいは普通の感覚のイギリス人。
公共の交通機関での飲食を許さない(日本人並にお行儀の良い)香港人。
これは、神学論争に近い。
ただ、私にはどちらの言い分も共感できてしまう。

香港人女性は、彼がマスクをずらしていることに怒っているわけです。
「コーヒーを飲むのにマスクをずらすのは普通だろ」と言うイギリス人男性に対して、香港人女性は「バスの中でマスクをずらすのは法律違反だ!」と叫びました。かなりヒステリックになっています。
“against the law” という言葉に、イギリス人男性もややヒステリックに反応しました。
「マスク着用は法律じゃない!」

イギリス人って、lawって言葉に弱いんだよね。

今こそ仲裁するタイミングだと感じましたが、私は仲裁せずにしばらく論争を見守ることを選択しました。手が出るほどではなかったし、私自身が興味のあるトピックだったから。
双方とも、言いたいことを思う存分言わせてやれ、と思ったんですね。

イギリス人男性「感染者数ゼロの香港で、マスクする意味があるのか?」
香港人女性「全員がマスクしているからゼロで済んでるのよ!」

これまた神学論争だな。

香港の新規感染者数が長い間ずーっとゼロなのは事実です。
それでも香港では、自宅以外のあらゆる場所でマスク率 100%で、法律ではないものの、ノーマスクには罰金が科されますから、事実上の法律みたいなもんです。

私は、香港のマスクファシズムはどう考えても行き過ぎだと思っているので、どちらかと言うと、イギリス人男性の言い分にシンパシーを感じます。
感染を抑えるために努力しよう、という主旨には賛成です。しかし、罰金とか市民同士による監視とか、マスク自体がファシズムと化していて香港市民は明らかに思考停止に陥っていると感じています。

“ファッション” 化するのは結構ですが、”ファッショ” 化してはいけない。

論争がエスカレートするなか、ついに香港人女性が言いました。
「ここは香港だ。香港のルールが守れないなら、home country に帰れ!

そこで、さすがのイギリス人男性もキレたご様子。
「レイシストめ! 今からお前の動画を撮ってやる。もう一度レイシスト発言をしてみろ!」

イギリス人がレイシズムを批判しますか。
まあイギリス人らしいのか、ある意味で。

さすがに止めようと思ったとき、香港人女性が禁断の言葉を口にしました。
「死にたいなら、お前一人が死ねばいい。地獄に落ちろ (Go to hell)!

あ。
と思ったよね。
おばちゃん、それはアカン。

その瞬間、イギリス人男性は目が泳いだようになって、”What?” と訊き返しました。

ここでレフェリー入ります。(遅かったかな)

次の停留所で、イギリス人男性を抱えて降りました。
妻と娘たちをバス内に残しているので、「先に行ってて」とテキストを打つ。

落ち着け、落ち着け、と彼の背中を叩きながら少し歩いた。

「気持ちはわかる。私も同じだから」
「あなたは・・・」
「日本人だ」
「あぁ・・・」
「落ち着いた?」
「もう大丈夫。ありがとう」
「ローカル相手に本気になるなって」
「Go to hell って言われたよ」
「ああ、驚いたな(笑)でも、”F… you” よりはマシかな」
「そうだな(笑)」

香港の渋谷と呼ばれる Causeway Bay の真ん中で、しばらく立ち話をしました。

「UK では毎日 100人以上死んでるのに、ボリスは規制を緩めた。私もそれはおかしいと思ってるよ。でも、香港もおかしくないか? 1人も死んでない、陽性者すら出ていないのに、全く規制を緩めようとしない。一生マスクをして生きろと言うのか?」
「私もマスクは嫌だし、香港人は思考停止してると思ってるよ。もう 2年も香港に閉じ込められたまま、日本にも帰れていないしね」
「日本人はどちら側なんだい?」
「たぶん・・・中間、かな。UKより慎重に抑えているけど、香港ほど狂ってもいない。いちおう、人権と自由を尊重する国だからね」
「やはりそうか。私は日本が好きなんだ。あなたがうらやましいよ」

香港政府の度を越したマスク強制と隔離政策(入国後、政府が指定する宿泊所に3週間強制隔離)、香港人の同調圧力と思考停止に悶々としている外国人はたくさんいるんだな、と知った日曜日でした。

私も、もう少し我慢するとしよう。