文章を書く時に気をつけていること【編集者兼ライターの仕事部屋-2】
編集者/ライターの樋口亜沙美です。
コラムで何を書こうかと考えを巡らせていたとき、
こんな質問をいただきました。
「文章を書くときに気をつけていることは?」
今日はそれにお答えしていきます。
誰に向けて書くのか
誰、というのは詳細まで思い描きます。
例えばこの記事は、この質問をくれた
一人のライターさんのために情報を提供しながら、
これからお会いすることになるはずの、
著者の方に届けるイメージで書いています。
その方に語りかけるように、書くようにします。
他の文章も同じです。
ちなみに、これは「誰がが、誰かに伝えたい何か」を
伝えることがミッションの、ライターの場合です。
エッセイストやコラムニストも当然「誰かに」
当てて書くものですが、
どちらかというとエッセイやコラムは
「内側から滲み出るもの」を表現し、
言葉を紡いでいくことがほとんど。
文章を書くことが仕事のライター。
我を忘れてメッセンジャーになることが求められます。
我を忘れ、依頼主が伝えたい誰かに向けて、文章を書く。
誰に向けて書くのか。
「今、目の前に伝えたい人たちがいます」
こんな風に思い浮かべて書き始めます。
ライターは、役者たれ
私は大学時代、演劇をやっていました。
800人の前で演じたこともあります。
舞台袖についた時から、
「別人」の人生です。
(人間じゃないものも演じました)
カットの声がかかると、
すぐさま自分の演技を動画で確認します。
顔の向き。
セリフの抑揚。
共演者とのバランス。
歩くスピード。
声の張り。
伝わる何か。
それらを確認して、
演出のスタッフとより良い伝え方を試行錯誤しながら
舞台を完成させていきます。
役を行き来するスイッチは、
自分の頭の中にあります。
ライターという仕事は
役者のそれと、似たものがあります。
「本人」ではないのだけれど、
確かに本人がそこにいる。
誰が演じるかによって、
観客に与える印象はまるで違う。
誰が書くかによって、その本の主人公が
読み手に与える印象はまるで違う。
演劇ファンの楽しみの一つが、
ダブルキャスト制度というものです。
昼公演と夜公演で、演じる主役が別の人に入れ替わる。
そんな風に楽しませてくれる劇団も少なくありません。
昼は主役を演じた人が、
夜はその主役の恋人になるかもしれない。
ライターも、それに遠からず。
昼の取材と夜の取材で
立ち回る役回りは変わることがあります。
観客が入れ替われば、演者の気持ちも入れ替わるもの。
ライターが変われば、
著者、話し手の気分や気持ちも変わるもの。
私はその点を考えながら、文章を書く前の
取材に取り組みます。
舞台の上にいるのは、「本人」ではない。
でも、演じているのは「本人」である。
ことブックライターで言えば、
「本の上」にいるのは「本人」ではなく著者。
でも、書いているのはライター「本人」。
ブックライターの仕事を演劇に置き換えれば、
著者は、原作者。
編集担当は、演出家。
その中で、役を生き、伝えるライターが、役者。
常日頃から言語化していませんでしたが、
無意識も含めて私は、取材とライティングに
このようなスタンスで取り組んでいます。
これは私個人の感想とスタンスですので、
誰しもにとっての正解かどうかは、断言できません。
細かな技術はさておき、
一生のうちの大きな決断である「出版」という生みの瞬間を
こういうスタンスで向き合いたいと考えて、
今日もパソコンを開いています。
DNAパブリッシング株式会社
企画編集部 樋口 亜沙美
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