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心理学の資料|受け手へのチューニング

今回はコミュニケーションの講義のワークのために作った資料をオープンにするための記事。
別にオープンにするまでもないし内容もかなりマイナーだけど,「ワークで使う資料がうまくできたんだけど??誰か見てくれない??」と思い立ったので自己満足的にアップした。
資料に関する説明をして,最後に資料を置いておく。


コミュニケーションのチューニング

普段,人がコミュニケーションをする中で,相手の知識や心理状態を考慮して情報を送信している。この様子を Fussell & Krauss(1989)が実験によって示した。

実験は以下の図(Figure 1,元論文抜粋)のような,意味を特に持たない図形を複数提示して,その図形について記述させるというものであった。実験では記述方法に条件を定めており,記述を読んだ他者が,どの図形のことを示しているのかが分かるような記述をするよう求められるという条件があった(伝達条件)。また,別の条件では,あとでその記述を自分が読んで,どの図形のことを示しているのかが分かるような記述をするよう求められるというものであった(覚え書き条件)。

実験の結果,覚え書き条件では,例えば(d)の図形であれば「くしみたいな絵」のように特徴だけを短い言葉で記述していたのに比べ,伝達条件では,細部にまで言及した精密な記述がされていた。これは情報伝達の前提となる共通の基盤(common ground)を持たない他者への配慮の結果が表れている。このような言語を変容させる行動のことを受け手へのチューニング(audience tuning)という。

Figure 1. Eight sample stimuli (identifying letters were not part of the presented figures) を引用

Figure 1 のパワポ画像ダウンロードは記事下部から。


相手の知らない人物・用語を当たり前のように登場させるな

共通の基盤を日常でイメージすると以下の図(Figure 2)の感じ。時々,共通の知り合いでもない人との出来事を説明もなしに話してくる人がいるが,これは受け手へのチューニングができていない良い例である。
あとはカタカナのビジネス用語を多用する人がうっとうしいのは,この共通の基盤がないから,もしくはあるけど日本語使うより認知負荷がかかるから,そういったことを踏まえて受け手へのチューニングをする気がなさそうな態度が鼻につくからというようなことが考えられる。

Figure 2. 他者に関する共通の基盤の有無

小さな子どもが親に「○○ちゃんがね~,××してね~」みたいなことをつらつら話すが,親はその子が誰だか何が起きたのかよくわからない,それでも子どもは話し続けるといったこともある。これは Piaget の認知的発達段階説において,前操作期(2~6, 7歳)は他者の視点に立って物事を考えることが難しい自己中心性が見られる時期だからだろう(たぶん)。そして,具体的操作期(7, 8~11, 12歳)では自己中心性から抜け出し(脱中心化)論理的思考ができるようになるため,受け手へのチューニングを考えた会話をするようになる(たぶん)。

(急に心理学の理論を持ち出してきて,受け手へのチューニングができていないぞという指摘は無しで)


Figure 1 のパワポ画像は以下からダウンロードしてください。アップしたパワポにはパワポで作成したものと SVG にしたものでスライドを分けてあります。色などちょっと変えたい,PNG で使いたいなどの場合はパワポ画像を,パワポの他にも Word などに貼りたい場合は SVG といったように,ご自由にお使いください。
講義内では Fussell & Krauss(1989)と同様の実験を,コミュニケーションワークとして使いました。

今後も何かしらいい感じの資料ができたらアップしていきます。


< 文献 >

Fussell, S. R., & Krauss, R. M. (1989). The effects of intended audience on message production and comprehension: Reference in a common ground framework. Journal of Experimental Social Psychology, 25(3), 203–219. https://doi.org/10.1016/0022-1031(89)90019-X

(参考)唐沢 穣(2019)第10章コミュニケーション 池田 謙一・唐沢 穣・工藤 恵理子・村本 由紀子(著)補訂版社会心理学(pp. 223–242) 有斐閣


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