![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/9737436/rectangle_large_type_2_d0a1ae34cf8290c78effa159f192e769.jpeg?width=1200)
支度
シャッターを閉める。
夜の透き通った空気に、からから、と乾いた音が響く。
窓を閉める。
ぴしゃん、と大きな音を立ててしまう。
うちの窓は妙に滑りが良すぎるのだ。いつもご近所さんに心の中で小さく謝る。
カーテンを閉める。
前の家で買ったので、今の窓には30センチほど寸足らず。
新しいのを買おう買おうと思いつつ、いい色になかなか出会えないままだ。
わたしを寝かしつけにかかる暗闇の中、廊下に置いてある冷蔵庫の上で、たこ足配線のスイッチが煌々と輝くのがすりガラス越しに見える。
何か電源入れっぱだっけ。眠い頭で考える。
そうか、今日はご飯を炊いた。
炊飯器の中で徐々に冷めながら、冷凍されるのを待つ米粒たちがいる。
彼らは今、布団の中でぬくぬくと夢の世界を待つわたしが動いてやらねば、明日の朝にはカピカピになる。
廊下、寒いんだよなあ。
炊き終わってすぐに片付けなかった自分に失望し、ぬおお、とか声を出しながら起き上がる。
大切な十五穀米をカピカピにはさせない。
しゃもじの剣とタッパーの盾を抱え颯爽と現れた救世主は、迷える米粒たちをさっさと救済し、神の呪文「洗い物は明日明日」を唱えながら布団の国に凱旋する。
ああ、もう、一度体温を逃がした布団は、愛想をつかしはじめた恋人のように生冷たい。
わたしはできるだけ丸くなって、お母さんが子供にやるように胸元をセルフトントンして(ばかみたいだけれどこうするとすぐ眠れるのだ)、すう、と安心した寝息を立てはじめる。
いいなと思ったら応援しよう!
![鶴](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/106921357/profile_00b3d000cd435d740bbdd3a658e310ca.jpg?width=600&crop=1:1,smart)