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文芸部は常に戦っている VS生徒会編 第1話

 なぜ小説を書くのか?

 そこに物語があるから。

 こう答えたのは誰だったか覚えてはいないが、なかなか共感できる答えである。もしかしたら俺自身の言葉だったかもしれない。

 そう。そこに物語がある。

 だから俺は書くのである。


 というどうでもよい自己語りはさておき、俺・仙道真一はとてつもなく重要かつ緊急の問題を抱えていた。

 季節は春である。桜が舞う、春である。

 この時期に文芸部部長である俺がするべきことと言えば、例えば桜並木を散歩して次回作の構想を練ることだったり、穏やかな日差しを窓越しに受けながらお気に入りのミステリ小説を読み返すことだったりするはずなのだが、残念ながらそれらの世界線は潰えている。

 部室に向かう俺の足取りは重い。部員たちに何と言えばよいのか、正直なところまだ考えていないのだ。

 もっとも、とにもかくにも部員達には事実をありのままに伝えるべきだし、それが部長の責務というものである。

 文芸部の新部長としての最初の仕事がまさかこのようなものになるとは、一体誰が想像しただろうか。おそらく誰も想像できなかったに違いない。

 と、そんなことを考えているうちに部室の前に来てしまった。

「やれやれ」

 自らを落ち着けるため適当に独り言ち、扉を開ける。

「皆、聴いてくれ」

 俺は自らの席に着く。緊張して部員たちの目を見ることができないのは、まぁご愛敬だ。

 先ほどまでどう語るべきかあれほど悩んでいたのだが、ここに来たら不思議と言うべきことははっきりした。文芸部が抱える喫緊の課題を簡潔に伝達する言葉なんて、はじめからこれしかなかったのである。


「このままでは文芸部は、廃部だ」


「だろーね。部員三人しかいないし」

「うむ」

「少しは慌てろよ!」

 何だろう……俺の緊張を返してほしい。

 文芸部の二人、如月と道明寺は無駄に冷静だった。

「部員が五人以上いない部は廃部。先輩たちが三人卒業して、新入部員はゼロ」

 そう淡々と語るのが如月である。鮮やかな金髪に、遠くから見ると、というより近くから見ても女の子にしか見えない美形の彼であるが

「誰かさんのせいでね」

 かなりの毒舌である。というか、皆まで言うな如月よ。反省しているのだから。

 新入部員がゼロなのには様々な要因が考えられるのだが、その要因の一つに部活説明会での俺の演説(文学こそ今の日本には必要であり云々というもの。若気の至りである)があったことに疑いはない。

「いや、あの演説はなかなか良かったぞ」

「道明寺は優しすぎだよ」

 腕を組み穏やかな表情で俺をかばってくれたのが道明寺だ。優しく誠実な彼であるが、嫌に鋭い眼光と鍛え上げられた百九十センチ近い巨体からその内面を見破るのは至難の業である。

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 如月、道明寺、そして俺。

 数えるまでもなくわずか三人。

 改めて現状を認識すると廃部になってもやむなしといったところか。無念である。

 ちなみに俺たちは全員高校二年生、これは四年連続で新入部員を獲得できなかったことを意味していた。

「でもさ、四人以下廃部ルールなんてあんまり守られてなかったじゃん。どうして急に?」

 如月が当然の疑問を口にした。

 そうなのである。確かに生徒会が定めた部活動規則によると部員が四人以下になった部活は廃部となっているのだが、往々にしてその適用はいい加減であった。四人以下でも活動を続けている部活動は少なくないのだ(決して多いというわけではないが)。

 ではなぜ文芸部にはこの規則が厳格に適用されるのか?

 それには深い理由がある。

「現生徒会長の渋谷なんだが、実は昔文芸部でな。俺との文芸勝負に負けて部を去ったんだ。で、それ以来目の敵にされている」

「おい」

 如月の冷たい視線が俺の心をえぐる。

「生徒会の奴らはクセが強いからね。困ったな」

 と述べる如月に俺は少し語気を荒げて答えた。

「こんなくだらない理由で伝統ある文芸部を潰させるわけにはいかん」

 そう。絶対に。

 それだけは阻止しなくてはならない。

 確かに小説は一人で書くものである。

 だが文学を愛する同志たちと切磋琢磨する空間はかけがえのないものだ。

 何より俺は中学一年生から文芸部一筋、端的に言ってこの部に対する想いは非常に深いのだった。

「その通りだ」

 道明寺が相槌を打つ。

 如月も一見冷静だが、この部を守りたいという熱い思いは同じはずだ。

「そうだな……とりあえ」


 そのときである。

「よーう。相変わらずシケた部活してんな」

 田中が現れたのは。

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つづく

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