文芸部は常に戦っている VS生徒会編 第2話
文武両道会。
学芸と武道を共に極めんとする猛者たちが集う、我が校が誇る部活動である。
……文武両道会の存在を他校の生徒に言うと
「何その部活? ふざけてるの?」
なんてリアクションをされがちだが、断じてそんなことはなく、むしろ我が学園で最も気合の入った部活動と言っても過言ではない。俺もその実態はよく知らないのだが、厳しい入会試験に加え、会員であり続けるには常にその実力を示し続けなくてはならないと聞く。もちろん活動内容もかなりハードで、己を磨き続ける強い意志と行動力、そして才能をあわせ持った人間だけが生き残れるそうだ。
と、以上が文武両道会の説明なのだが、読者諸君は大いに疑問を持ったことだろう。
なぜ唐突に文武両道会の話になったのか、と。
理由は単純だ。
今俺の目の前にいるこの妙な髪型(キノコヘアーとでも言うのだろうか)をした男、田中は文武両道会の会長なのである。
「なんだ田中か。今お前の相手をしているヨユーはない」
「ひどい扱いだなおい」
ちなみに俺と田中は中学一年からずっと同じクラスという腐れ縁だ。そのせいもあってか、奴はしばしば文芸部にチャチャを入れてくるのである。
田中は俺の軽口に若干気分を害した様子だったが、すぐにいつもの調子、すなわち無駄にかっこつけた雰囲気をまといながら言った。
「話はだいたい聞かせてもらった。これからどうするんだ?」
「どうするも何も……とりあえず生徒会長に直談判でもするか」
「へー。それは面白そうだ。俺もついてこ」
「おいっ」
やれやれ。田中の奴、文芸部の危機を完全に楽しんでいるな。他人の不幸は蜜の味、ということか。
しかし廃部の危機だというのに思いつくのが生徒会長への直談判だけというのも情けない。もっともそれしか思いつかないのであれば、それを実行するしかないのだが。
「如月と道明寺も来るか?」
俺は二人に尋ねる。
「僕たちはここにいるよ」
「よろしく頼む」
窓からの夕日を受ける二人は儚くも凛とした雰囲気で、その姿からは部室を守り抜く覚悟さえうかがえた。俺は敵地へと赴き、二人は自陣を守る……なんと美しい友情か!
「なんか生徒会の奴らって苦手なんだよね。エリート意識が高いっていうか。僕はパス」
「俺も先ほど良いアイディアが浮かんでな。早速執筆にとりかかろうと思う」
……前言を撤回する。
俺と田中は生徒会室に向かった。
生徒会副会長、富士平。
生徒会室で俺たちを待ち受けていた大男である。180センチ近くの上背に、軽く平均的な高校生3人分はあるだろう横幅は、まさに大男と呼ぶにふさわしい。
「おやおや、文芸部の仙道君と文武両道会の田中君ではありませんか」
富士平は笑みを浮かべて言った。眼鏡が不気味に光る。
「あいにくですが渋谷生徒会長は不在です。話なら私がお聞きしましょう」
俺たちが何をしに生徒会にやって来たのか、把握していないはずがない。これが生徒会の連中のやり口である。俺は富士平のペースに巻き込まれないためにも、できるだけ堂々とした態度で発言するよう努めた。
「ぶ、文芸部の廃部の件だ。その、あれだ。うむ……もう少しだけ時間をくれないか? さすがに、なんというか、あと5日で新入部員を獲得するのは無理があると言いますか……」
いかん、完全に富士平の圧に飲まれてしまった……!
仙道真一、最大の不覚である。隣の田中からの冷たい視線を感じるが、仕方がない。何より俺が俺に一番がっかりしているのだ。
「そう言われましても、これはルールですから。守っていただかないと」
富士平はすげなく答えた。
「そこを何とか……必ず新入部員を獲得してみせる。しかし、あと5日はあんまりだ」
「まぁ仙道もそう言ってるんだ。今回は大目に見てやったら?」
「おや、文武両道会会長の田中君まで」
田中が助け舟を出してくれる。なんだかんだ言っても、やはり頼りになる男だ。
田中の発言もあってか、しばらく考え込む様子の富士平。せめてあと1カ月の猶予がもらえれば……。
「ときに田中君」
俺が祈るような気持ちで返答を待っていると、富士平は唐突に田中に話しかけた。そしてぬっくと立ち上がり、俺たちの前に立つ。同学年の人間とは思えない威圧感は、単純にサイズの問題ではないだろう。
不敵な笑みをたたえつつ、富士平は言った。
「実は田中君。文武両道会の予算についてなのですが……何人かの生徒から『少し多すぎではないか』という指摘をいただいておりまして」
「何?」
「いやいや、別に全面的に彼らの発言を信じているわけではありませんよ? しかしですねぇ、最強の助っ人集団とうたわれる両道会ですが、近年人材不足からか助っ人の質の低下がひどい、なんていう話を聞かされましてね。それは本当でしょうか?」
「そ、そんなわけないだろ!」
突然の攻撃に、田中も動揺を隠せない。
富士平はやれやれ、といった風に首を左右に振ると
「当事者であるあなたに聞いても仕方のないことですが」
と冷たく言い放った。
「文武両道会については近いうちに調査員を派遣した方がよいかもしれません。ああ、文芸部については追って連絡差し上げます」
富士平はさっと扉の方へ手を向ける。もう帰れ、ということなのだろう。
俺たちは何も言えずに生徒会室を後にした。
つづく