企業買収と「円安を活かすカード」~対内直接投資の観点から~
本邦小売最大手企業に対し、カナダのコンビニエンスストア大手企業が買収提案を持ちかけたということが大きく報じられています。同報道は日本経済新聞による独自であり、「提案を知る複数の関係者」からの話とされていますが、買収提案に関しては当該企業が「法的拘束力のない初期的な買収提案を受けていることは事実」とのコメントを発表している。実現可否はさておき、提案自体は事実のようです。本件に係る買収金額は実現すれば5兆円以上とされ、海外企業による日本企業買収としては最大級になるそうです。
「円安を活かすカード」として
今回の一件は円相場にとっても非常に重要な報道だと考えられますので、ここで一筆しておきたいと思います。というのも、折しも「円安を活かすカード」としての対内直接投資が注目を浴びており、政府としても残高目標を掲げている中での話です。真相は当事者しか分かり得ませんが、近年の大幅な円安傾向が事態の背景にある可能性も否めないでしょう。
過去の本欄でも議論しているように、政府・与党は2023年6月に示された「骨太の方針」で「2030年までに100兆円」を目標として掲げています:
2023年末時点の残高が約50兆円であることを思えば、1つの案件の規模が5兆円を超えるということがどれほど大きな話なのか分かるでしょう。しばしば話題となる半導体工場のように、製造業が日本に工場を作り、労働者を雇い、生産活動を軌道に乗せるという意思決定では日本が背負う制約条件として人手不足はどうしても障害になります。
しかし、「直接投資=工場を作る」ではありません。今回のように外資系企業からの買収を受け入れるケースでも対内直接投資残高は積み上がります。他でもない日本企業が2011年頃から世界に向けてやってきたことです。以下は近刊「弱い円の正体 仮面の黒字国・日本」で議論した内容ですが、企業買収を通じた対内直接投資に関し、改めて筆者なりの見解を提示します。
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