円安は再起動したのか?~短期・中期・長期の視点~
円安、迫力と持続性には疑問
ドル/円相場は150円近傍での推移が続いています:
過去のnoteでも述べましたが、IMM通貨先物取引に象徴されるように、依然として投機筋の持ち高が円ロングに傾斜しているとすれば、当分、円相場はその巻き戻しによって軟調を強いられても不思議ではないでしょう。下記noteでは「投機ポジションが清算された時点で150円突破は短期的には十分考えられる想定」と整理しました:
とはいえ、問題は投機が去った後の方向感です。2022~2023年は金利差を意識した投機的な円売り、機関・個人双方の投資家による円売り、そして巨額の貿易赤字と多くの要因が円安を支持していました。だからこそ、あれほどの規模と持続力を伴った円安局面が醸成されたのでしょう。しかし、論点別に現状を整理すれば、筆者は同じことは起こり得ないと考えています。
以下では国際収支統計を基軸として、最新の数字を踏まえ、金利・投機・実需の状況を整理しつつ、短期・中期・長期の円相場の展望を論じてみたいと思います。
まず、22~23年を需給面で振り返れば、筆者試算のキャッシュフロー(CF)ベース経常収支で2022年は約▲9.7兆円、2023年は約▲1.3兆円と赤字でした(ちなみに統計上はそれぞれ約+11.4兆円、約+21.4兆円の黒字でした)。金利面では、この間、日銀の金融政策はマイナス金利が堅持され、FRBのそれは過去最速ペースで利上げされました。あの円安は必然の帰結でしょう。為替予想はランダムウォークで予測不可能だと言われますが、筆者は22-23年に関してはそんなことは無いと思っています(だからこそ22年9月に円相場の脆弱性について本を出すことを決めました。翌年以降も読まれる内容と考えたからです)。
しかし、足許の円安相場にはそれほどの迫力と持続性を感じておりません。確かに、米9月雇用統計やそれに伴う円安・ドル高の動きは凄まじいものでありましたが、再現性に乏しいという印象もあります。10月や11月の雇用統計でもポジティブサプライズが続けば、いよいよ利下げ局面の早期終了が争点化するかもしれませんが、それを理由に円安局面の再起動を想定するには合理的な理由がありません(雇用統計は流動的過ぎてよく分かりません)。
鮮明になる需給改善
なにより、円相場の需給環境は明らかに改善の途上にあります。10月8日、財務省から公表された本邦8月国際収支を踏まえ、円の基礎的需給環境を整理しておきましょう。既報の通り、この統計は単月では過去最大の黒字として注目されました。ご覧いただいた方も沢山いらっしゃるようですが、BSテレ東「NIKKEI NEXT」でも同日にゲスト解説をお願いされました:
このnoteメンバーシップはあくまで「腐らない議論」をテーマとしていますので、単月の統計云々の話はしません。なので、せめて1~8月合計で議論するとしましょう。1~8月合計の経常収支黒字は約+19.7兆円で、これは比較可能な1996年以降、1~8月合計としては最大でした。ちなみに昨年同期は約+13兆円でしたので1.5倍に膨らんだことになります。統計上の数字だけを見ても円の需給環境が前年比で大幅に改善していることが分かるでしょう。
こうしたイメージは筆者試算のCFベース経常収支でも同じです。CFベース経常収支についてはもう詳述はいたしませんが、以下のnoteや近刊をご参照頂ければ正確な算出過程を学ぶことができます。近刊については現在、第5版まで出ており、大きな書店であれば大体は置いてあるみたいです:
まず、8月単月のCFベース経常収支は約+8000億円と3か月連続の黒字でした。CFベース経常収支が3か月連続で黒字だったのは2021年5~7月以来、即ち2022年3月以降に始まった今次円安局面では初めてです。これだけでも大きな変化を感じ取ることができます。
1~8月合計で見ますと、昨年は約▲2.9兆円の赤字であったのに対し、今年は約+1.9兆円まで回復しています。分かりやすく図にします:
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