共通テスト政治・経済―2023追試⑶―
今回は、2023(令和5)年度追・再試験「政治・経済」第3問を取り扱います。
問題編:第3問
次のノートは、生徒Xが、生徒Yと一緒に「政治・経済」の授業を振り返りながら、学習したことをまとめたものの一部である。これに関して、後の問い(問1~8)に答えよ。(配点 25)
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問1
下線部ⓐに関連して、生徒Xは、ある経済学者の学説について調べて、次のメモを作成した。メモ中の空欄[ ア ]・[ イ ]に当てはまる人名と語句との組合せとして最も適当なものを、後の①~④のうちから一つ選べ。[解答番号17]
発展途上国が経済成長を実現するには、経済学者[ ア ]の著書『経済学の国民的体系』の中の主張の一つである[ イ ]といった政策も必要ではないか。
ア リスト イ 幼稚産業の保護
ア リスト イ イノベーションの促進
ア シュンペーター イ 幼稚産業の保護
ア シュンペーター イ イノベーションの促進
問2
下線部ⓑに関連して、生徒Yは、日本の農業の動向が気になり、日本の農業について学習を進めた。日本の農業の現状あるいは農業政策の現状に関する次の記述a~cのうち、正しいものはどれか。当てはまるものをすべて選び、その組合せとして最も適当なものを、後の①~⑦のうちから一つ選べ。[解答番号18]
a 農地が荒廃し、耕作放棄地が増加している。この対策の一つとして、農作物の生産拡大を図るため、2000年以降、食糧管理制度の導入により米以外の作物の生産が奨励され、農業所得の拡大が図られている。
b 農業就業者の後継者不足と高齢化の深刻さが増している。この対策の一つとして、若い後継者を確保するためにも、農作物のブランド化や生産・加工・販売までの一体化による高付加価値化が進められている。
c 食料自給率の低迷や食品の偽装表示などにより、食料の確保と安全が脅かされている。この対策の一つとして、食料安全保障の観点から、農産物の関税撤廃により海外農産物の輸入制限の強化が図られている。
a
b
c
aとb
aとc
bとc
aとbとc
問3
下線部ⓒに関連して、生徒Xと生徒Yは、授業で配付された次の図を参考にしながら、国の一般会計と地方財政の関係について話をしている。後の会話文中の下線部㋐~㋓のうち正しいものはどれか。当てはまるものを二つ選び、その組合せとして最も適当なものを、後の①~⑥のうちから一つ選べ。[解答番号19]
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下線部㋐と下線部㋑
下線部㋐と下線部㋒
下線部㋐と下線部㋓
下線部㋑と下線部㋒
下線部㋑と下線部㋓
下線部㋒と下線部㋓
問4
下線部ⓓに関連して、生徒Xは、海外で模造(コピー)された日本のアニメ作品のキャラクター商品に対する国内販売差止めのニュースに関心をもち、関連する多角的貿易交渉(ラウンド)について調べた。知的財産権の保護が主な交渉内容となり、またWTO(世界貿易機関)の設立が合意されたラウンドの名称として正しいものを、次の①~④のうちから一つ選べ。[解答番号20]
ドーハ・ラウンド
東京ラウンド
ウルグアイ・ラウンド
ケネディ・ラウンド
問5
下線部ⓔに関連して、生徒Yは、授業で紹介された次の資料をもとに、社会保障の費用とその財源について学んだ。また、授業では、政府が基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目標にしていることも言及された。国の一般会計予算における社会保障の費用の増加額について資料から読みとれる内容として正しいものを後の記述アかイ、基礎的財政収支の黒字の状態を示した図として正しいものを後の図aか図bから選び、その組合せとして最も適当なものを、後の①~④のうちから一つ選べ。[解答番号21]
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ア 社会保障の費用の増加額は、消費税の増加額よりも大きい。
イ 社会保障の費用の増加額は、消費税の増加額よりも小さい。
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アと図a
アと図b
イと図a
イと図b
問6
下線部ⓕに関連して、生徒Yは、日本における個人の経済格差について学習を進めた。経済格差に関する次の記述ア~ウのうち、正しいものはどれか。当てはまるものをすべて選び、その組合せとして最も適当なものを、後の①~⑦のうちから一つ選べ。[解答番号22]
ア ジニ係数が上昇した場合、所得格差が拡大したといえる。
イ 相続税の累進性を強化することにより、資産を多く相続する者の税負担が軽減される。
ウ 公的扶助には、所得再分配機能がある。
ア
イ
ウ
アとイ
アとウ
イとウ
アとイとウ
問7
下線部ⓖについて、生徒Xは、社会環境が変われば公共財の状態も変化するのではないかと考え、次の事例ア~ウを想定した。これらの事例のうち、公共財としての公園が非排除性と非競合性の両方の性質を保つことができている事例として正しいものはどれか。当てはまるものをすべて選び、その組合せとして最も適当なものを、後の①~⑦のうちから一つ選べ。[解答番号23]
ア 地方自治体が管理し市民が無料で利用していた公園の近くに、企業がテーマパークを作った。それ以降、公園は地方自治体が管理しつつ誰も利用しない状態になった。
イ 地方自治体が管理し市民が無料で利用していた公園を、企業が社会貢献の一環として管理する状況になった。それ以降、地方自治体が管理していた時と同じ利用方法のままで企業の管理が続いた。
ウ 地方自治体が管理する公園を市民に無料で開放していたが、多くの人が利用して公園内に荒れ地が目立つようになった。それ以降、地方自治体が公園への入場料金を徴収し管理するようになった。
ア
イ
ウ
アとイ
アとウ
イとウ
アとイとウ
問8
下線部ⓗに関連して、生徒Xと生徒Yは、多様化する行政へのニーズに対応するため、企業と同様に行政もリストラクチャリング(事業の再構築)が必要と考え、地方自治体のアウトソーシング(業務の外部委託)の例を示そうとした。地方自治体が新たにアウトソーシングをしたと考えられる例として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。[解答番号24]
地域経済の活性化のため、地方自治体が企業に雇用拡大の要請を行っていた。それに関連して、地方自治体が採用意欲のある企業の人事担当者に出席を求めて求職者相談会を催した。
自然環境整備のため、地方自治体が地元企業と協力して植林事業を行っていた。それに関連して、間伐材を活用した地場産業の新商品の開発を行う部署を地方自治体内に新設した。
住環境整備のため、地方自治体が特定地域にマンションを建設する事業者に助成金を出していた。それに関連して、他の地域のマンションの建設にも助成金を出すことになった。
国際化の推進のため、地方自治体が国際交流センターを建設し自治体の職員が管理していた。それに関連して、公共施設運営の効率化に向けて同センターの管理を民間企業が請け負うことになった。
所感
問1は、発展途上国の経済成長には保護貿易が必要だと主張した人がいるという知識から[ イ ]を先に導き出せば、[ ア ]については著書の知識などなくともすぐ導ける。やや易しい。
問2は、a~cをきちんと読めば余り詳しい知識がなくても矛盾点を直感的に見つけられる。ただし、正しいものをすべて選ぶ形式であるため難易度は標準的。
問3は、一般財源がどこまで含まれるかという知識が見落としがちかと思われるが、それ以外は簡単な知識とグラフの読み取りで対応できる。標準的な問題。
問4は、センター試験型。問題文がやや長いが、問われている内容はやや易しい。
問5は、資料の読み取りは易しく、図の読み取りも「税収等」と「政策的経費」を見ればよいだけなので、総合的に見ればやや易しい。
問6は、ア~ウの内容はどれも標準的。
問7は、「誰も排除されていないか」、「誰かが消費しても他の人が同時に消費することができているか」に注目して読めばそこまで難しくない。ただし、正しいものをすべて選ぶ形式であるため難易度は標準的。
問8は、センター試験型とはいえ問題文も選択肢もやや長いが、要するに「自治体が業務を外部委託している例を選ぶ」だけであり、やや易しい問題。
解答編
問1
アについて
『経済学の国民的体系』を著した経済学者は、リスト(フリードリッヒ・リスト)。なお、シュンペーターは、『経済発展の理論』を著し、経済発展におけるイノベーション(技術革新、新機軸)の重要性を指摘。
イについて
リストは、経済発展段階説の立場から保護貿易の重要性を唱えた。彼は、経済発展の遅れた国は、輸入関税を賦課するなどして、今後の成長が期待できる幼稚産業の保護育成を図るべきだと主張。
よって、正解は①。
問2
aについて
誤文。前段は正しいが、1995年の食糧需給価格安定法(新食糧法)の施行に伴い食糧管理制度は廃止されたため、後段は誤り。
bについて
正文。なお、「生産・加工・販売までの一体化」とは、6次産業化の一例。
cについて
誤文。前段は正しいが、農産物の関税撤廃は海外農産物の輸入を促進する行為であるため、後段は誤り。
よって、正解は②。
問3
㋐について
誤文。公共事業の財源に限定されて発行されるのは、建設国債。なお、赤字国債は、歳入不足を補うためのもの。
㋑について
正文。一般財源とは「使途が特定されていない財源」のことであり、図でいえば地方税、地方交付税、地方譲与税、地方特例交付金である。図を見ると、これらで歳入総額の半分以上を占めている。
㋒について
誤文。図を見ると、地方交付税対象税目は49.1兆円、地方交付税交付金は15.9兆円であり、地方交付税対象税目の約32.4%を地方交付税として地方に配分していることになる。
㋓について
正文。
よって、正解は⑤。
問4
①について
不適当。ドーハ・ラウンド(2001年~)は、WTOの最初のラウンド。
②について
不適当。東京ラウンド(1973~79年)では、非関税障壁の軽減が交渉の対象となった。
③について
適当。ウルグアイ・ラウンド(1986~94年)では、知的財産権の保護、サービス貿易のルールづくりが新たに交渉の対象となった。また、WTOの設立が決まった。
④について
不適当。ケネディ・ラウンド(1964~67年)では、関税が大幅に引き下げられた。
よって、正解は③。
問5
ア・イについて
資料を見ると、社会保障の費用は24.3兆円の増加、消費税は16.4兆円の増加であり、社会保障の費用の増加額は、消費税の増加額よりも大きい。
図について
「基礎的財政収支の黒字の状態」とは、その年の税収で、国民生活に必要な支出がまかなえている状態を指す。図を見ると、図aは税収等よりも政策的経費の方が多く(=公債金で一部まかなっている)、図bは税収等よりも政策的経費の方が少ない(=税収でまかなえている)。
よって、正解は②。
問6
アについて
正文。
イについて
誤文。累進性を強化すると、収入・資産の多い人から税をより多く得ることになるため、「税負担が軽減される」が誤り。
ウについて
正文。
よって、正解は⑤。
問7
アについて
適当。「誰も利用しない状態になった」とあるが、これは対価を払わない人が排除されているわけではない。また、複数の者が同時に公園を使えるため、競合性もない。
イについて
適当。「地方自治体が管理していた時と同じ利用方法のままで」とあるため、非排除性も非競合性も引き続き保たれている。
ウについて
不適当。「公園への入場料金を徴収し管理するようになった」とあるため、非排除性が保たれていない。
よって、正解は④。
問8
①について
不適当。「地方自治体が…求職者相談会を催した」とあるとおり、外部委託は行われていない。
②について
不適当。「部署を地方自治体内に新設した」とあるとおり、外部委託は行われていない。
③について
不適当。「地方自治体が…助成金を出していた。…他の地域のマンションの建設にも助成金を出すことになった」とあるとおり、地方自治体が助成金を出しているため、外部委託は行われていない。
④について
適当。「センターの管理を民間企業が請け負うことになった」とあるとおり、地方自治体から民間へ外部委託が行われている。
よって、正解は④。