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三島由紀夫『鏡子の家』と石原慎太郎『亀裂』。

三島由紀夫の『鏡子の家』は1958年10月から雑誌『聲』に途中まで連載されていたが、その後書き下ろしで、第一部、二部と同時に2冊発売された。発表時は佐伯彰一、山本健吉から酷評されたのは世に知られている。その下敷きと言える作品が石原慎太郎の『亀裂』です。『亀裂』は1958年1月10日に文藝春秋新社から発売されましたから、時系列でいえば『亀裂』が先です。
 三島由紀夫は昭和32年9月に『現代小説は古典たり得るか』で堀辰雄の『菜穂子』と『亀裂』を対比させて論考を進めていますが、石原氏の最良の作品と論じており、『菜穂子』に登場する建築家兼詩人と『亀裂』の主人公が同姓同名であると指摘している。『亀裂』の主人公都築明は学生作家でドンファン気質。友人が拳闘家、登場するラグビー選手が右翼の結社に入っていたりと、『鏡子の家』のエッセンスが入り込んでいることを三島は既に吐露しているようなものなのです。三島は石原が天然に、実感として持っていた、若い世代の瑞々しい感覚に憧憬の念を抱いていたのは明らかです。若い感覚は若い魂から得るのが望ましい。三島由紀夫にとって、その素材が、『太陽の季節』発表時から目を付けていた石原慎太郎であり、裕次郎であったのですね。稀人が三島由紀夫の近くに2人いたのも創作の源泉だった。それが三島らしくないとの評価を生む、パラドックスも発生したのだと思います。
三島由紀夫という存在が作家として巨大になる。しかしエトランジェと呼ばれた、弟が裕次郎で文才があった石原慎太郎の存在は何処か、時代と共に存命時は影に埋もれていた印象があるが、石原氏の逝去で学術的に深淵に研究されることを祈ります。


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秋山大輔
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