映画レビュー 四十八本目:「東京流れ者」
自分くらいの年代には、日本酒「松竹梅」のTVCMとか、TVドラマ「大都会」「西部警察」シリーズで馴染み深い名俳優、渡哲也さんの訃報。
弟の渡瀬恒彦さんの訃報も記憶に新しいうちに届けられたニュースに、ただ思ったのは「まだまだ早かった...」という想い。
今年に入って、新型コロナウイルス関連も含めて、本当に著名人の訃報が多すぎます...
個人的に思い出してしまったことの一つは、「とんねるずのみなさんのおかげです」の「食わず嫌い」コーナーに出演された時(こういう仕事もノリノリでこなしたのが、今考えると凄い)、嫌いだった品が「とろろ」で、理由が
「ハナ(鼻水)喰ってるみたいじゃないですか。」
で、とろろを食べる度に思い出してしまう始末。
まぁ、平気で食べてますけど。
そんな渡哲也、長編映画出演7作目。
7作目にして、鈴木清順監督の「もっともマトモに観られる映画」に出られたのは幸運。(笑)
一応、ストーリーは
組が解散してヤクザ稼業から足を洗いカタギとなった、倉田組でその名を知られた不死鳥の哲こと本堂哲也が、対抗組織の大塚組との抗争を避けるために自ら東京を
去るが、大塚組に追われて雪国へ逃げる。そこでも地元の組どうしの争いに巻きこまれるが、兄貴分の相沢健次に助けられて、倉田の舎弟で相沢の兄貴分の梅谷がい
る佐世保へ向かう。佐世保で哲は、再会した相沢から倉田が大塚組に寝返り、梅谷に哲の殺害を命じた事を聞かされて、単身で真実を確かめに東京へ帰る...
というものだけど、話にドキドキするより、画作りの美しさや奇抜さに目を奪われてしまう。
金貸しの吉井の事務所が、だだっ広いのにテスク一つも無く壁画に覆われていたり、
元の敵組親分・大塚が赤が好きらしく自分の背広も事務所の電話も真っ赤だったり、
大塚が根城にするジャズ喫茶の壁が紫の照明だけだったり、
そのフロアの下の配管が原色で塗られていたり、
歌手の千春(松原智恵子)が唄う店の内装が真っ白で、照明でポイントの色を替えるシステムだったり云々。
哲(渡)の自室もフランスのオシャレ映画っぽい、パステルカラーで統一されたインテリアだったりするんだけど、ここでハッ!とした。
もしかしてこれは、ゲイを暗喩した作品なのではと。
いや、肉体的な話では無く、精神的な問題で。
まだマッチョ思想がアメリカから降りてくる以前の日本映画には、そういう匂いが漂っている。
以前もここでレビューした、高倉健と勝新太郎の共演作「宿無」がその良い例で、抱く抱かれる的な俗物的な問題では無く「ただ寄り添いたい」という磁力的な想いから、元の親分への偏愛や慕って来る女性歌手への疎ましさが生じているのかと。
哲が心底慕う元の親分も、妻子が居ない様子で哲をなんとか持て成すけど、盆には切っていない野菜と果物の山で、カティーサークを注ぐカップも双方が湯呑という為体なんだけど(お手伝いさん居るのに電話の取次しかしない)、その画のおかしさがまた「嗚呼、この人はこれだから守らなきゃ」と思わせていると感じさせる。
手下には母性が生まれる。
そういえば、清順作品といえば「食べ物を出して食べない」のが定番。
未見だけど、この後に撮った宍戸錠主演「殺しの烙印」では、殺し屋は飯の炊ける匂いに欲情するだけで食べないそう。
晩年のオムニバス作品「結婚」でも、見るからにヨダレの出そうなすき焼きを目の前にして、ため息を尽くだけで全く食べない原田知世。
そこに拘る様は、ルイス・ブニュエルが「自由の幻想」で描いた、食べてる様を見せるのは恥で排泄は美という、あべこべな世界を思い出す。
閑話休題。
哲は命を狙われ各地を元親分のツテで渡り歩くも、佐世保で厄介になったキャバレーで大乱闘に巻き込まれる。
そこで助けてくれた地元の親分と元の兄弟子にも結果的に命を狙われそうになるが、二人とも哲に惹かれて逃がす。
この魅惑のオーラよ!(笑)
で、東京へ戻っての場面のスタイリッシュさ!
一応、結末は書かないでおきますが、大型倉庫規模のセットでの立ち回りが見事でした。
長門裕之・南田洋子夫妻司会時代の「ミュージックフェア」みたいでした。殺伐感が。
自分が産まれる前の作品ながら、これがテレビより映画が勝っていた時代の終わり頃の作品とは思えないほどに贅沢でやりたい放題なのが痛快。
何よりもやはり、鈴木清順の画作り「だけ」の拘りの強さが、端役の演出が雑でも観させてしまったと思います。(笑)
というかね、
渡哲也の上半身裸で云々のカットは、
まさに先述のニオイを醸し出させて来て、アクション狙いで来た男の連れ添いの女も満足させてたんだろうなと。
そうでない人達も。(笑)
それはイイんだけどさ。
ここ30年くらいで観た中で一番の駄作の監督が、
「この作品の色彩にヒントを得た」
みたいなことを言ってて
それが心底ムカつく。
それで、アレか!と。笑
ちなみに。
我が母は渡哲也の敵役を演じた
郷鍈治
(宍戸錠の弟で、ちあきなおみの元夫)
が、新作の宣伝で地元のキャバレーに来た時、一緒にチークダンスを踊ったとのこと。
「あんなに強面なのに、凄く優しかった」と、未だに自慢して来る。
何があったのかは訊かない。
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