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ビートメイク

ビートを作る、という事について自分なりの考えを書いてみたいと思う。

自分の肩書きは、DJ。
勿論、DJをする。ラップもする。
そして、自分の仕事としてメインだと思っているのがビートを作る事だ。

16歳の頃にZeebraの影響でターンテーブルを2台買い、DJを始める。
その少し後に彼と音楽、ヒップホップをやろうと話をし
サンプラーとシーケンサーを買う事になる。
そこからかれこれ30年以上ビートを作り続け現在に至る。
世に出ていないビートを入れれば相当数のビートを作って来た事になる。

USのヒップホップに夢中になり87年頃になると
レコードをサンプルし、それをループする
という手法が確立され、自分はその手法に魅了されたのだ。
今では普通に使われる手法だが当時は時代の最先端を行くそれまでに無い新しい手法だった。
サンプルを使ったアート、「サンプルアート」だ。
それを自分もやりたいと思い見よう見まねで始めるわけだ。

手本とするヒップホップに感銘を受ける物が多い時代だったので
それが身体に染み付いていたのか
想像していたよりも形になるのが早かった。
楽器を使う音楽と違い楽譜の読み書きも必要ない。
良いと思ったサンプルを見つけループし重ねて行けば音楽になるのだ。
Zeebraもビートを作るのでお互いに作った音を聴かせ合い
常に刺激をもらいながら切磋琢磨した。

サンプルの話をしよう。
サンプルをループする、という事は
違う言い方をすれば「ずっと同じフレーズを聴く」という事だ。
3分ならば3分間ずっと同じフレーズだ。
今ではヒップホップも一曲の中に多くのアレンジ、展開があるが
当時は、基本ワンループで多くの曲が作られていた。
それにドラムブレイクをループさせ乗せる。
サビ用のサンプルネタは、また別の物を乗せるわけだが
基本、最初から最後まで同じフレーズが続く事になる。
同じフレーズの音がずっと繰り返されていたら
どんな人だっていつかは飽きてしまうかもしれない。
それでは、聴いてもらう事が大前提の音楽として成立しなくなってしまう。
ではどうするか?
それをずっと聴いていても飽きないループにすればいいのだ。
それがループを作る上で1番大事な要素という事になる。

そして、サンプル選びで重要になるのは「センスの良さ」。
どんなアートでもセンスの良さが必要になるのは当然で
音楽に対しての知識や理屈よりもこの一点があるか無いかで
良いループを作れるかどうかは決まる。
サンプルのチョイス、サンプルする箇所を決める事
まずそこで最初のセンスが試されるわけだが
レコードを聴きながら頭の中でループされた状態をイメージするのと
実際にサンプルをしてループさせると想像していたイメージと違う事がある。
要するに実際にループさせてみないと見えて来ない事があるわけだ。
ループしてみると想像していた時よりイマイチな事も当然ある。
しかし想像してたイメージを遥かに超えた物になる場合もあるのだ。
まさにそれがループの醍醐味であり「ループマジック」だ。
ヒップホップという音楽は、そのマジックが必要であり
そのマジックを起こせるか起こせないかで
歴史に残るクラシックビートになるか?が左右される。

ずっと聴いていても飽きないループを作るには
当然、サンプルするフレーズ自体が重要になるが
ずっと聴いていたいループをどう作るか、という事を考えると
フレーズだけじゃなくその繋ぎ目が重要な役割を担って来る。
例えば2小節のフレーズを2小節で、4小節のフレーズを4小節でループさせれば繋ぎ目には何の違和感もないループが完成される。
自然と流れる様なループが出来、元曲のグルーブ、メロディを重視した物になる訳だ。
カバー的ループを作る場合は、この手法になるだろう。
では、2小節のフレーズを1小節で、4小節のフレーズを2小節でループさせるとどうなるか
本来途中である部分がフレーズの最後になりそこから最初に戻る形になる。
それが繋ぎ目になる訳だが、そこに違和感があっては元も子もない。
しかし、その繋ぎ目が癖になる物であれば
もっともっと聴きたくなるというマジックが起こる。
噛めば噛むほど味が出る、と似た効果が生まれる訳だ。

シンプルなループを作る事に対して簡単に書いてみたが
その全てが「センスがあるかないか」で大きく変わって来る。
勿論、経験を積む事で「ネタの使い方、サンプルとして使い易い物の選び方」等の技術は上がって行く。
ただ、その技術の向上とセンスの良さは、別の話だ。

自論になるが音楽を作る上で大切な事を少し書いておこう。
例えば自分にビートを依頼された時にこう伝えて来る人が居る
「○○の様なビートを作ってくれ」と。
その○○には、US物のヒットソング等の名前が入る訳だが
個人的にその依頼のされ方は、その時点で退屈な物になってしまう。
何故ならその時点で「俺の魂から作られた音」では、なくなってしまうんだ。
結果、BPMや音の派手さや静けさ等は、寄せられるが
あくまでも俺が表現した音になり言われた物とは、違う物に仕上がる事になる。
当然、例に出された物を超える作品を生み出すべきである。
無論、自分からビートを作る時に○○みたいなビートを作ろう
という考えから作業が始まる事は、無いわけだ。
基本、何のイメージも持たずにビート作りを始め
これだ、と思うサンプルを見つけてからイメージを作っている。
作った結果○○風な感じだな、という形はありではある。
しかし、何かに似ているかどうかは、作っている途中で普通気付くはずだ。
その「○○の様な」という発想が安易な作品を増やす原因であり
結果、アートの衰退に繋がる発想なのだと思う。

何を言いたいのかと言うと
アートに必要なのは「オリジナリティ」であり
自分の魂を追求し、人に流される物ではない。
要するに「クリエイティブ」であるべき物なのだ。
個人的にアートという物は、時代と共に変化すると思っているので
その時代その時代の表現方法を取り入れる事に面白さを感じてはいるが
自分が作り上げた「軸」は、揺るぎない物にしておくべきだ。
「今っぽい音を作る」という事にただただ重点を置けば
他と何ら変わりの無い物が出来上がるだろう。
「自分だから作れる音」そこに重点を置く事がアートとして重要なのだ。
誰でも影響を受けたアーティストが居るだろう。
大切なのは、その受けた影響を自分なりの消化をし
アウトプットする時には、自分の形になっている事が重要だ。
誰かの真似、何かの様な、という発想は
アートを表現する上では、避けるべき事であろう。
自分の軸をぶれさせず、自分のアートを追求して行けば
自然とその人のオリジナリティが表現され
いつしか「その人の音」という物が出来上がるのではないだろうか。

最後にもう一点、表現して行く上で大切な事を伝える。
それは、作って行く段階で「これはイマイチだ」という事に
どれだけ早く気付けるかという事。
その感覚、感性もアートを表現する上で必要不可欠であり
なおかつ重要な才能である。
イマイチな物を作るのに時間をかけるほど無駄な事は無く
完成してからイマイチだ、と思うほど残念な結果は無い。

アートにルールは無い。
ビートメイクは、変幻自在だ。
「自分を信じる」それがアートを衰退させない為の重要な要素だと思う。

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