僕のパンはこなかった
2020年2月。パリへの単身旅行。
フランス料理への愛が高まりすぎて、一日中そのことだけを考え続けられる狂った時間が欲しくて、ルーブルも無視、歴史的建造物も無視、観光も無視、「ひたすら食べる、飲む、それを消化するために走る」だけの旅を断行
最終日前夜は渡仏の最大の目的と言っても過言ではない、焦がれて仕方なかったお店に訪問
そもそも10年前にもトライしたものの、夏季休業だか定休だかで入れなかった、10年越しの積年の想いを果たす計画
店の予約はきっちり1ヶ月前に済ませる
本来ならば東京マラソン前週なので、走る量も抑え、食べる量も抑えるべきところを、コロナによる予期せぬキャンセルにより、行き場を失った体力と食欲を逆フル回転させ、全力疾走/一食入魂に切り替える
全力で食べるために、休暇にもかかわらず毎朝4時起きしてセーヌ川でハーフマラソンを走る。昼食後も10キロ走る。
ご飯の予定だけを綿密に練った旅のしおりを作り上げる(浮ついているのでわざわざトリコロールカラーで)
今夜がクライマックス、ここに来るための準備は整え、情熱が極大点に達するようにテーパリングとピーキングも万全。
前日には予約のreconfirmもし、間違いがないことも確認
当日は↓の、30分685キロカロリー消費運動(そんなには燃えない印象)を8周し、フルマラソン2回分くらいは燃焼。
「お腹を空かせて」臨むレベルではなく、「飢餓」レベルに。
一食入魂。限られた機会なので、なるべくメニューにあるものを食べられる限り網羅するため
https://youtu.be/jO1Yb0T4DuQ
(30分で685kcal燃焼と謳っている)
また熟読してある、創業者の著書も食事の合間に読むため、ジャケットの内ポッケに忍ばせる
全ての準備を終え、長谷部さんに教えてもらった方法でしっかり整った心を携え、いざアパートを出発
基本こちらでは買い物も、食事への移動も全部走っているので、距離を測り、革靴で走れるペースを決め、お店に間に合う時間を逆算し、走り始める
が、洪水警戒レベル6のゲリラ豪雨に突如見舞われ、傘もない中走って行ったところで、アイスバケツチャレンジャーのような身なりのものは入れてもらえないと思い、急遽Uberに変更(因みにこっちのUberは相乗りが基本で安い)
20時予約のところ、Googleによる到着予定時刻は20時20分
遅刻に激しく弱い性格なので焦る焦る、整っていたはずの心は乱れまくる。お店にすかさず電話を入れる
斯様にして何とか到着・着席。やれやれ。
3.5時間一本勝負。余すことなく五感全開で頂きましょう。
まずはパンを頂く。飢餓からの反動で直ちに血糖値爆上げ症候群に罹患し、あっという間に店中のパンを食べ尽くしそうになるが、グッと堪えてちょびちょびと。
中盤に差し掛かった頃に現れた30台前半くらいの4人組。50分も遅刻なんだが、強靭なハートを携えてらっしゃるのか気にする風でもなく。
強烈な香水 x タバコ x (失礼ながら独特な)香りを振り撒いて。これは弱った。五感を全開に味わいに来たんだが。嗅覚は諦めましょう
そして何やら騒がしい。ドバイからいらっしゃている方々の模様
20分に一回は席を立ちタバコを吸いに行く
4人で別のものを頼んで、中華料理のテーブル回転ではなく、人力で皿をガンガン回して食べる
スタッフも何やら気にしているようだが、そこは一流店。顔にも態度にも出さず静観
然れども集中力が切れているのは明らかで、それまでは僕が本の栞をヒラリと落としてしまっただけでも、飛んで拾ってくれたスタッフたち、僕のパンがなくなっていることに全く気がついてくれず。
パンのお皿をちょっと前に出してみたり、意味もなくバターをパン皿に盛ったりしても全然ダメ。
CheeraaaaSSS!!!!!
すごい。静寂を打ち破り、グラスを割らんばかりに乾杯。
ほとんど一気飲み。
あっという間に2本、3本空くボトル。良く見たらそれウン万円じゃあきかないやつらでしょ。
僕はちびまる子ちゃんの友蔵ばりに清水寺の舞台から飛び降りる想いで遥々やって来ているのに(僕はこれのせいで小学生の頃、きよみず だか しみずだかよく混同した)、食事と飲み物合わせてもその1本にも届かないっすよ。
それ空けるならブルジュハリファくらいから飛び降りないと。
あまりの騒がしさに、聴覚さんにも戦線離脱頂く
このままだと台無しな思い出になってしまうので、コップには水が半分も入っている思考で、この4人組の、僕の生涯最大級かもしれない彼らの暴君ぶりがどこまで行くのか観察して楽しむことにする。
1.「おーい、この店メニューにないスペシャルないのー?」
慎ましく手を挙げて、スタッフが気がついて、きちっと席に着くのを確認してから、小声で用件を伝える農耕民族ジャポネ的発想じゃなくて、遠くの相手に直でビシッと用件
そもそもスペシャルってスペシャルな方だけに耳打ちされたり、それはスペシャルになっている別メニューをスペシャルな方々用に別に渡されるものじゃないの?
っと思っていたら
出てきた!
今夜はメニューにないものですと………ですって
天晴、狩猟民族的アプローチ
2. それまでも激しく自撮りやら皿撮りやら、映えそうな写真はバシャバシャやっていたのですが、最早その程度のことは数学的に誤差の範囲として丸められるレベルに感じていたところへ…
FaceTime
x 2
4人が6人になりました
どこから突っ込んでいいのかかなり悩みます
農耕民族のくだりで行けば、そもそも電話は店の中で応答するものではなく、小走りで店の外に出てから、何だか急いで出ました風に「モシモシっ」って出るもんだと思っていました
積極的に店内からかける、参加者を増やす、店の自慢をする、皿を見せる。
AR/VRとも違う最新テクノロジーを用いた擬似体験
でも、巻き込まれた側にとっては美味そうなものだけ見せつけられるただの飯テロじゃないのかなと思う。
3. 「おーい」
今度は用件を言わない。どうした
スタッフが来て、横についてから用件
「タバスコないの?」
マジかっっ
と日本語でリアクションしてしまいました。僕は独り言を言うような人でもないし、こっち来てから仕事の電話でチョロっと以外、全く日本語を喋っていなかったのですが、思わず日本語で独り言
しかし、大声で用件を言わなかった彼は、店での振る舞いについては全く気にせずとも、一片の曇りもなき完成されきった料理にタバスコをかけることについては多少の躊躇いがあったのでしょうかね
一流店スタッフは変わらずポーカーフェイスで、タバスコはないが、スパイシーなソースは用意すると。さすがです
3アウト。
完全にノックアウトされました。清々しい気持ちと楽しかった思い出(に塗り替えて)店を後にしました
最後まで僕のパンは来なかった
追伸
店を出てUberを待っていたら、20分のローテーションに当たったか、タバコを吸いに2人が出てきたので、「最高のワイン飲んでましたね」とジャブを打ってみたら、
「おー旨いよ。一緒に飲む???」
完全に居酒屋ノリで、もはや気持ちが良かったです
丁重にお断りしつつも、どこから来て何の仕事してるか聞いたら、やっぱりドバイから来てて建設会社で働いていると。
僕の語学力の問題ですが、質問を間違えました。
何の仕事してるの?ではなくて、正しくは
「どこの会社のオーナー?」
ですね。語学を磨きます。
追伸2
翌日は反動というか反省会というか、フレンチで洗い直せる気がしなくて、中華で特大チャーハン。
ワインボトルとの比較でデカさは伝わるのか、これをペロッと平らげるとこ
で、心は整いました
本当にあった怖い話です。森崎くんでも森田くんでもなく、全く盛ってません