![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/45646951/rectangle_large_type_2_7f8481db5db9c60876418423fabe9453.jpeg?width=1200)
BLYY - Between man and time crYstaL poetrY is in motion. (2020)
これほど「待望」という言葉が相応しい作品も滅多に無いであろう、BLYYのファーストアルバム。聴き終わった直後、この作品を表現する言葉として思い浮かんだのは「変化」だ。
再生を開始してからヒップホップリスナーが真っ先に驚くのは、ビートの強度だろう。逞しいドラムやベースの鳴り。ネタのループやチョップにおける切れ味の鋭さ。混沌としながら、ときに静寂さえ感じさせる独特のサウンド。どのトラックも強烈な個性を放っていて、曲が変わるたびに驚きや興奮を憶える。
最初はAlledのビートに耳を奪われっぱなしだが、徐々に聴覚が馴染んでいくにつれて、今度は5人のリリックが脳内に立体的に浮かび上がってくる。誰もが思い当たる節のあるハッとさせられるメッセージであったり、一見ダークな世界観の中にカラッとしたユーモアが盛り込まれていることに気付いていく。
このように、アルバムを聴き進めるにつれて、リスナーの関心がビートからリリックへと徐々に変化していく。また、中盤以降にキャッチーなフックの楽曲が増えていく構成も、こうした意識の変化を生み出すための効果的な仕掛けとして機能している。
サウンド面に焦点を当てると、メンバーがヒップホップと出会った時期である1990年代〜BLYYが結成された2001年頃〜アルバムリリースの2020年という、約四半世紀に渡る時代の変化をビートから感じ取ることができる。中でも、メンバー各人とグループのどちらにとってもヒップホップの原体験を経験した時期であろう1990年代後半〜00年代前半の影響が色濃く反映されている。例えば、A2 "Intro"の疾走感のあるドラムブレイクと不穏なネタの組み合わせは、まるで1995年前後のアブストラクトヒップホップを忠実に再現したようなサウンドだし、小気味良いチョップ&フリップで構成されたB1 "Black Nylon"のビートには1998年頃の西海岸アンダーグラウンドの影響が色濃く感じられる。
ただし、このアルバムは単なる原点回帰の楽曲群ではない。17曲というボリュームにも関わらず、上ネタは頑なに抽象性を保っていて、キャッチーさはもはやドラムの質感にしか見出せないほどだ。このブレの無さ、色気の無さこそがBLYYの最大の魅力だろう。シーンの変化に呼応するように自らのスタイルを変えていくアーティストが多く居る中で、彼らは自分達が本当に好きなサウンドやスタイルを見極め、見定め、そしてそれを深く追及した。結成から約20年を経てリリースされたデビューアルバムだからこそ、その過程が実体を伴って表現されている。
世の中の流れに合わせることだけが変化ではない。ありとあらゆる物事の移り変わりのペースが目まぐるしい現代において、とても重要なメッセージを秘めたアルバムである。