ディアンジェロ《ヴードゥー》がかけたグルーヴの呪文 (2021)
D'Angeloが2000年1月にリリースしたセカンドアルバム「Voodoo」について、音楽的視点だけでなく映像やフェミニズムの視点からも考察した本。
個人的な話を先に書くと、「Voodoo」との出会いはリリースからしばらく経った2000年の3月に、当時国立にあったディスクユニオンで早くも中古に出ていたCDを買ったときだと記憶している。その頃はインターネットやMTVなどを観る環境が家に無かったので、シングルカットされた楽曲のPVを観る機会も無く、正直に言うとこの本を読んで初めて"Untitled (How Does It Feel)"のPVを観た。
「Voodoo」以降、いくつかの客演曲を除いてD'Angeloが長い間リリースから遠ざかっていたことについて、当時はその理由が分からなかったが、それを知ることができたのがこの本を読んだ最大の収穫だった。思いもよらず彼が抱えてしまった問題は、国や地域を問わず多くのアーティストに共通して起こりうる話だと思う。また、皮肉にもそれが素晴らしい作品だったがゆえに起きてしまったということを丁寧に考察している点も、本書のとても面白いところだ。映画監督/映像作家として活動する著者ならではの視点であり、音楽作品を音の部分に限定せず、様々な角度から考えることの重要性や面白さを再認識することができた。
また、内容だけでなく、押野素子さんによる訳がとても素晴らしかった。音楽関連書籍の日本語版は、内容の良し悪しとは関係なく日本語としてどうしても読みにくいものもあるが(決して批判ではなくて、原文の内容を正確に伝えようとしてくれているがゆえの結果だと思う)、異なるデータ形式(言語)に置き換えても画素数が変わらない画像を見ている感覚というか、本当に滑らかな文章だったことも印象的だった。
D'Angeloや「Voodoo」が好きな方には間違いなくおすすめの一冊。