武士は食わねど本宮ひろ志。
ちょうど「ビー・バップ・ハイスクール」(きうちかずひろ・作)が流行っていた1980年代にティーンだったので、ましてや九州の片田舎、男子中高生のアイデンティティは「ヤンキーか、それ以外か」の二極化していたと言っても過言ではない。
それ以降、昭和〜平成〜令和と時代は変わろうとも、日本の若者に連綿と続くヤンキー文化。
その美学・価値観を形成するうえで、いわゆる「ヤンキー漫画」が果たしてきた役割、その影響力というのは決して小さくはない。
何をもって「ヤンキー」と呼ぶかは、語源の「yankee」からして、本来ならアメリカン・カルチャーの影響を受けているかどうかが関わってくるはずだ。
しかし、日本のヤンキー文化はかなり独特な発展の仕方をしている。
例えば、ヒップホップ・カルチャーも最初は黒人ラッパーのファッションを真似するところから始まって、ラージサイズの服を着て、タトゥーを入れ、スキンヘッドにし、金のネックレスをし…ところがいつのまにだか、眉を細くしてチンピラ化していく。チーマーにしても、カラーギャングにしても。レペゼンと言いつつ、地元の不良仲間でつるみ、コンビニ前にたむろする。
そこには不良少年の上下関係に、博徒や渡世人の人生観から発展した任侠道(極道)の影響が色濃く残っているからだろう。
ヤンキー漫画も「ビー・バップ・ハイスクール」以後、「ろくでなしBLUES」や「今日から俺は!!」などに至るポップ化以前は、暴走族や学園闘争を扱った作品があり、さらに遡ると応援団もの、番長ものといった、およそ若者のファッションには結びつかない作品群がある。
若気の至りもあって、ちょっとワルを気取りたくなる男子の傾向というのはいつの時代も変わらずあって、その時どきでいろんな不良少年漫画が流行るのであった。
当然、我がジゴロでヤクザな父親にも大きな影響を与えたであろうマンガ作品がある。
それは「サラリーマン金太郎」等でお馴染み、今やすっかり大御所の本宮ひろ志先生の初期作品群であった。
自分が小学生の頃に、部屋に転がっていた漫画雑誌などの中に単行本が何冊か混ざっていて、拾い集めてみるとそれは「硬派銀次郎」のジャンプコミックスで、3巻から9巻まで揃った(なぜか1、2巻は無かった)。
親父が読んでいて、自分と育ての母が住むアパートに置いて行った物らしい。
それを自分は中学・高校になっても、読み続けた。内容がすっかり頭に入ってしまっても、何度も繰り返し。
今思えば「硬派銀次郎」は、ちばてつや先生感も漂う純情少年の成長譚でもあって、社会からはみ出したアウトロー物語の要素は少なかったのだが。
その後もうちの親父が読んでいた漫画本をちょいちょい拝借して読むことになるのだが、そのラインナップには同じく本宮先生の「男一匹ガキ大将」や、本宮先生の弟子筋にあたる宮下あきら先生の「私立極道高校」、池上遼一先生の「男組」などもあったから、やはりうちの親父はそれらを「ヤンキー漫画」として選び、好んで読んでいたのである。
でも、自分が好きで読んでいた「硬派銀次郎」は、主人公の山崎銀次郎(通称:銀ちゃん)が、両親と兄を早くに亡くし中学生にして天涯孤独、新聞配達をしながら下町の長屋で一人暮らしをする少年で、喧嘩が滅法強くスポーツ万能で学校のみんなから慕われるという話だった。
自分はケンカもスポーツもまるでダメだったけど、生みの母親の顔も知らず兄弟もいない、貧乏暮らしだった自分の境遇と重ね合わせて、主人公に憧れを抱き、あらゆる場面で感情移入しやすい作品だったのだ。
のちに上京して、自分も新聞配達をしながら風呂なしアパートで生活することになるのだが、この漫画からの刷り込みは大きかったと思う。
実際に暴力の世界に生きているうちの親父を見ているだけに、ケンカが強い番長的なキャラクターに憧れることは無かったが、「男の生き様」的な価値観を植えつけられた。独りだからこそ自由に生きれるんだという思いも強くした。
最終巻で300人を相手のケンカにたった一人で挑む時に、よってたかってボコられながら「へっ、やせ我慢しやがってよ。」とチンピラの一人に言われた時に銀ちゃんが返す「(おまえらごときに)やせがまんという言葉を気楽に使われてたまるか〜!」というセリフにグッときて、こういう最後の意地に共感できる部分が自分にもあったから、ここまでなんとか生きてこれたところもある。
「女は男の三歩後ろを下がって歩くもんじゃ。」という昭和の当時の男尊女卑丸出しのこだわりを持つ銀ちゃんだが、背が高くて美人で世話好きで頭脳明晰で将来は女医を目指している高子という彼女がいるし、「ウブなところが可愛いのよ。」と他の女子生徒からもモテモテでもあって、そういうところにも憧れて、「女の子に興味が無いような振る舞いのほうがモテるのか!」という変なこじらせ方をしたりもした。
少年時代の自分の人格形成に大きな影響を与えた漫画だったと思う。
ちなみに、中学生ぐらいの頃になって、これもたまたまうちの親父のやつだけど、「俺の空」がなぜか8巻だけあったのを読んで、またこの巻がセックスシーンの多い巻だったもんだから、えらく刺激的だった。
自分は「性のめざめ」まで、本宮ひろ志先生の影響下にあったことになるなあ(笑)。