蚊取り線香

夏が来たから蚊取り線香を買ったのか、蚊取り線香を買ったから夏が来たと感じるのかはわからないが、とにかくボクは蚊取り線香を買った。

渦巻に火をつけベランダに置く。

小さい頃に焚いていた記憶は無いが懐かしく感じる。

ボクは蚊取り線香の臭いが大好きだ。

蚊取り線香の煙とタバコの煙が混ざり空に溶けていく。

煙の行方をぼんやり眺めていると、1匹の蚊がやってきた。

飛んで火に入る夏の虫。

ボクが大好きなこの香りも君にとっちゃ地獄なんだよな、ごめんな。

彼は蚊取り線香の煙のど真ん中を突っ切り、「お邪魔します」の挨拶も無しにボクの部屋に入っていった。

いらっしゃいませ。顔は覚えたよ。ようこそ地獄へ。

ボクは蚊のいなくなるスプレーを握りしめ力強く2回噴射した。

今はもう彼の姿は見当たらない。

どういうわけか内腿が痒い。




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