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04【踊る君をみて恋が始まった】
日々、パーティー通いのゴアトランス生活。
まさに
「踊る、君をみて、恋が始まった。」
である。
私は、日本を断捨離した時に3年ほど続いた、
猛烈DVダメ男との恋にも終止符を打った。
その後ゴアの年末に、
初めてのパーティー生活とクリスマスなどの雰囲気にウッカリ飲み込まれたのか、1週間ほど年下の男の子と恋人同士になったこともあった。
しかし、速攻で、さようなら。
何故なら、年下の恋人と過ごす時間より、パーティーの方が、トランス音楽の方が断然、好きだと気がついたから。
何より。「一緒に踊ろうよ」「もっと僕のこと見ててよ」という年下の彼の要求に応えられない苦痛。
フロアーで恋人同士みたいな態度を取らなければいけない苦痛。
いや、実際に恋人同士なのだけど、
「押忍、トランス道!」
な気分だった私にとって、見つめ合ってニコニコと踊るなんて邪道でしかなかったのだ。
「1秒、1秒が真剣勝負!音の波に乗り遅れるな!イチャつくのは戦いの後でだ!」
みたいな。
もう、なんか。自分の世界の設定がありすぎて、
恐らく他者は相容れなかったのだろう。
まぁ。
トランスパーティーの楽しみ方の価値観が違ったのか、私は音の波乗りと、絵を描くことが楽しくて、恋愛なんてちっとも楽しくなかった。
そんな私は、年下の彼と別れた後。
新年、心機一転、誰とも大人の関係にはならず、取り戻せ、私の14歳時代!と、ひたすらパーティーで音の波乗り遊びを繰り返していた。
しかし、2月中旬。
名前も国籍も知らないダンスフロアーで出会った、
写実的な馬のTシャツを着たアジア系の男の子に恋をしてしまった。
ゴアのデイリートリップで、頭の中身はスッカリ14歳だった私にとって、
その彼は17歳くらいの高校の先輩のようなイメージ。
学校へ通う電車の中で、よく見かける他校の先輩。そんな感じ。
初めは、ゴアのトランスパーティーで、
あまり見かけない古着風のファッションに惹かれ、気になっていた程度だった。
それが。
よりによって、私の全財産が3000Rs。(5000円程度)になり、その半額をつぎ込んだ、ヒルトップフェスティバルの2日目。
深夜12時頃に音が終わり、最高の夢心地コンディションな私は、サンダル片手に裸足で1人、駐輪場へ向かっていた。
そんなシンデレラシュチュエーションな時。
突然、目の前に現れた、写実的な馬のTシャツの男の子。
彼は、私の目をしっかりと見て、
「チャポラ、スカーラ。チャポラ、スカーラ。」
と言った。
私は、意味が分からないのと、夢心地なので、
「え?」
と目をパチクリさせていると。
彼はもう1度、
「チャポラ、スカーラ。」
と言い、去ってしまった。
私が分かったことは、彼の発音から日本人ではないアジア人ということだけ。
チベット、もしくは、ネパールか、東南アジア系だろうか。
そして、もうひとつ。
「チャポラ、スカーラ。」
は次のパーティー会場だと直感的に思った。
それは、何かの暗号のようで私の冒険心をくすぐり、ワクワクした。
私の財布の中身、全財産は300Rs(500円程)になっていた。
真夜中の商店で10Rsのチョコレートを2つ買って腹ごしらえ。
店のおじさんに、「Where is スカーラ?」と聞くと、
「マンゴーツリーというレストランで聞けば分かるよ。」と言われ、
私はマンゴーツリーレストランへ行く。
カウンターで「Where is スカーラ」と聞くと、
「ああ、それはコルバサのことだよ。昔はスカーラと呼んでいたんだ。」
とバーテンダー。
海に面したパーティー会場である。
私は、真夜中のゴアの街をRPG気分で楽しんでいた。
1度だけ話しかけられただけの、名前も国籍も知らない男の子。
それも、次のパーティー会場を3度続けて私に告げて去っていったという。
なんとも少女漫画的な出会い。
その後も、名前も知らず、言葉も交わさず、私たちは、音の波の中でだけ、会い続けた。
(という私の一方的な妄想ラブストーリーだったと1年後に気がついたのだけど…)
厨二病まっさかりの私のお花畑脳では、妄想の恋がヒートアップ。
彼のことを「先輩」と勝手に呼び、気分は女学生だった。
私は、この頃、ダークやフォレスト、そしてハイテックという種類のトランス音楽にハマり始めていた。
フルオントランスのフロアーと違う。
何故か、みんながみんな黒系の服装のパーティーもある。
ドレスコードなんてないのだけど。
そんな時は、シヴァバレーやヒルトップでは、明るい服装の人も黒い服だったりして、不思議だった。
そんな中で、私と先輩だけが赤い服だったりして。
それは一晩踊り明かした、翌朝、早朝に分かる事実。
そうゆう、変な偶然に運命性を勝手に見出し、
勝手にひとり、心の中で盛り上がっていたのだ。