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『オン・ザ・ロード~不屈の男 金大中~』韓国の民主化運動史を総括

北朝鮮に対する緊張緩和政策や南北首脳会談などが評価され、ノーベル平和賞を受賞した韓国の金大中(キム・デジュン)元大統領。『オン・ザ・ロード~不屈の男 金大中~』は、彼の政治人生に迫るドキュメンタリー映画である。

まず映画の冒頭で「この映画は金大中が生を受けた1924年から1987年までの激動の記録である」と示される。まだ韓国が日本の植民地下にあった戦前から、民主化への大きな転換点である「6月民主抗争」の起きた1987年までということだ。

この期間は韓国の民主化運動の歴史ときれいに重なっている。つまり『オン・ザ・ロード~不屈の男 金大中~』は、金大中という1人の政治家にフォーカスした作品でありながらも、韓国の軍事独裁から民主化までの現代史を総括できる内容となっているのだ。

また『オン・ザ・ロード~不屈の男 金大中~』は、金大中本人の肉声や関係者のインタビュー、6,000時間に及ぶ膨大な映像資料をもとに制作されており、この映画で初公開という映像や音声も多い。金大中平和センターから提供されたという資料は、むしろその多さにどう取捨選択をするのかが難しかったと、ミン・ファンギ監督はインタビューで語っている。

そのお陰もあって、朝鮮戦争の凄惨さ、金大中が軍事政権から避難してきた1970年代当時の日本、かなり流暢な日本語での演説、韓国内での民主化運動の勢いの強さなど、見て驚かされるシーンも多い。

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本作は、前情報がなくても十分に楽しむことができるが、やはりある程度は韓国の現代史の流れが頭に入っていると良いだろう。ここからは大まかな歴史を年表形式で見ていくが、転換点となるような大きな出来事は、すでに映画化されているものもある。関連作品として併せてご紹介していく。



1924年 金大中 誕生
1945年 終戦・朝鮮解放
1950年 朝鮮戦争勃発
1953年 休戦協定
1954年 金大中 国会議員に初挑戦するも落選
1959年 金大中 二度目の落選
1960年 金大中 三度目の落選
1961年 初当選するも3日後に朴正煕による軍事クーデターで失職

<関連作品>
『キングメーカー 大統領を作った男』(2021年)

落選が続くキム・ウンボム(金大中がモデル)を選挙で勝たせるための、選挙事務所における戦略立案者にフォーカスした大統領選挙の舞台裏。

1963年 朴正煕(パク・チョンヒ)政権発足
1972年 朴正煕 長期独裁のための「維新体制」断行
1973年 金大中拉致事件

<関連作品>
『KT』(2002年)
金大中の拉致・暗殺に迫ったポリティカルサスペンス。KCIA(韓国中央情報部)をサポートするよう命じられた主人公の自衛官を演じるのは佐藤浩市。

1979年 朴正煕暗殺

<関連作品>
『KCIA 南山の部長たち』(2020年)
大統領直属の諜報機関である中央情報部(KCIA)の部長(イ・ビョンホン)が大統領(朴正煕がモデル)を射殺するまでの40日間を追った実録サスペンス。

1979年 全斗煥(チョン・ドゥファン)による軍事クーデター

<関連作品>
『ソウルの春』(2023年)
大統領暗殺直後に、この機を逃すまいと民主化に乗り出す高潔な軍人と、再び軍事クーデターを起こそうと暴走する将校(全斗煥がモデル)の対立を描いた政治ドラマ。

1980年 光州事件

<関連作品>
『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年)
光州で起きた軍による民間人の大虐殺。国内外に報道規制がかかる中、真実を伝えるべく現地に潜入しようとするドイツ人ジャーナリストと、彼を乗せた現地タクシー運転手の交流を描いたドラマ。

1981年 全斗煥政権発足
1987年 6月民主抗争

<関連作品>
『1987、ある闘いの真実』(2018年)
軍事政権下で、運動に参加した大学生が取り調べの際に不審死したことをきっかけに、事態は韓国全土を巻き込む民主化闘争へと激化していく。

ー『オン・ザ・ロード~不屈の男 金大中~』はここまで

1988年 盧泰愚(ノ・テウ)政権発足
1993年 金泳三(キム・ヨンサム)政権発足
1998年 金大中政権発足
2000年 南北首脳会談
2002年 日韓ワールドカップ
2003年 金大中大統領 退任


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今年公開され話題を集めた『ソウルの春』なども含め、ご紹介した金大中や韓国の民主化運動の関連作品を観たことがある、という人も多いのではないだろうか。

もし観たことがある作品があれば、その映画の情景を思い出しながら『オン・ザ・ロード~不屈の男 金大中~』をご覧いただくと、”実際はこうだった”というのが見えやすいし、個々の作品の間の情報も埋めてくれる。

軍事政権との戦いについてはさまざまな形で取り上げられているが、次第に共闘していくようになる金泳三(キム・ヨンサム)元大統領と金大中の関係性や、日本滞在中の様子、韓国に戻ってからの獄中生活などは、なかなか見ることのできない貴重な映像だ。

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劇中で最も印象深いのは、やはり大きな打撃を受けた光州に、自宅軟禁から解放され政治活動も解禁になった金大中が訪れる場面。彼がそこで見せる表情からそれまでの苦労を思わせるという、映画を象徴するシーンだ。ぜひ劇場でも届けていただきたい。

2024年11月1日(金)より ポレポレ東中野ほか全国順次公開



<参考映画>

<参考文献>

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芦田央(DJ GANDHI)
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