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オープニングでよく見る、映画監督が設立した製作会社のロゴは要チェック

映画の冒頭には、決まって製作会社や配給会社などのロゴ映像が流れる。海外の映画でよく見かけるのは、

20世紀スタジオ
コロンビアピクチャーズ
ワーナー・ブラザース
ユニバーサル・ピクチャーズ
メトロ・ゴールドウィン・メイヤー

などだろうか。

映画をよくご覧になる方は、ほかにも知っているロゴがあるかもしれない。しかし普通は製作会社のロゴなんていちいち気にして鑑賞しないので、見せられて初めて「ああ、見たことあるかも」程度だろう。

ただそんな中にも、いくつか覚えておいて損がないロゴがある。それが今回紹介したい「映画監督が立ち上げた製作会社のもの」というわけだ。

例えばスティーヴン・スピルバーグ監督が設立した製作会社「アンブリン・エンターテインメント」を知っていると、映画を再生し、そのロゴが出てきた時に「あ、この映画はスピルバーグが絡んでいるのかな」と連想できるのである。

アンブリン・エンターテインメントのロゴ映像

なぜ映画監督が製作会社を立ち上げるのか

本題に入る前に、そもそもの説明を少し挟みたい。

一般的に映画監督という仕事は、映画製作会社に所属するプロデューサーから雇われて行うもの。仕事をあげる人、もらう人、という線引きが明確に存在する。特にハリウッドではプロデューサーの発言力が強いという傾向が顕著で(もちろん映画によって異なるが)、監督が作品の編集権を持っていないというケースも多い。

監督からすると「このシーンはこういう風に盛り上げたい」「説得力を高めるためにあのシーンも追加したい」と芸術的な論点で試行錯誤するわけだが、プロデューサー的には「長いとお客さん入らないからカット!」などのように商業的な視点で映画を完成形まで先導する。

当然、揉めることも多い。監督にとって、不本意なバージョンが劇場公開されることもあるだろう。DVDやブルーレイに「ディレクターズカット」といったものが収録されるのには、こういった背景がある。「これが私の観てほしかった映画なのだ…」という監督の悲痛な叫びなのかもしれない。

多くのバージョンがあることで知られる『ブレードランナー』

かなり話がそれてしまったが、そういったことが往々にして起こり得るのが映画という巨大産業なのだ。そうなると、ある程度の知名度や資金力を持った映画監督であれば「じゃ、自分でプロデューサーもやっちゃえばいいじゃん」と思うのは至極当然な流れである。

そして、自身でプロデューサーを兼ねるには、自身で映画製作会社を立ち上げる。そんな会社の代表例をいくつかご紹介していきたい。


アンブリン・エンターテインメント

アンブリン・エンターテインメント

先ほども少し触れたアンブリン・エンターテインメント。スティーヴン・スピルバーグが1981年に、キャスリーン・ケネディ、フランク・マーシャルと3人で設立したアメリカの映画及びテレビ番組製作会社である。

スピルバーグ監督作をのぞいた代表作
『グレムリン』(1984年)
 :ジョー・ダンテ監督
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)
 :ロバート・ゼメキス監督
『ケープ・フィアー』(1991年)
 :マーティン・スコセッシ監督
『ツイスター』(1996年)
 : ヤン・デ・ボン監督
『ジュラシック・ワールド』(2015年)
 :コリン・トレヴォロウ監督
『ツイスターズ』(2024年)
 :リー・アイザック・チョン監督

多くの作品でスピルバーグ監督は製作に携わる

ファミリー層をメインターゲットとした『E.T.』のシルエットが施されているロゴの関係からか、『ミュンヘン』など社会派な作品の際には、文字のみでAmblin Entertainmentと表記される場合もある。

ドリームワークス・ピクチャーズ

ちなみにスピルバーグ監督は、元ディズニーの製作部門長らと「ドリームワークス・ピクチャーズ」という製作会社も創業している。この会社は規模が大きいこともあり、ドリームワークスだからといって必ずしもスピルバーグが関わっているわけではない。本筋と関係なく語りたいとこではあるが、今回は割愛。

スコット・フリー・プロダクションズ

イギリス出身のリドリー・スコット監督と弟であるトニー・スコット監督の兄弟によって、1970年に設立された映画会社。ロンドンとロサンゼルスにオフィスを構えており、本稿を書こうと思ったきっかけでもある。リドリー・スコット監督作品でなくとも、このロゴ映像が流れるだけでテンションが上がってしまうのは筆者だけだろうか。

鳥のロゴだけではピンとこないという方は、動画で見れば「ああ、これか」と分かるかもしれない。

リドリー・スコット監督作をのぞいた代表作
『エネミー・オブ・アメリカ』(1998年)
 :トニー・スコット監督
『ジェシー・ジェームズの暗殺』(2007年)
 :アンドリュー・ドミニク監督
『ブレードランナー 2049』(2017年)
 : ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督
『オリエント急行殺人事件』(2017年)
 :ケネス・ブラナー監督
『エイリアン:ロムルス』(2024年)
 :フェデ・アルバレス監督

リドリー・スコット監督自身の作品に加え、弟トニー・スコット、息子ジェイク・スコットとルーク・スコット、さらに娘ジョーダン・スコットの映画も製作しており、まさにスコット・ファミリーで固められた布陣だ。

9月公開の『エイリアン:ロムルス』では、映画館でこのロゴが観られるのではないかと期待している。無論、11月公開の『グラディエーターII』も。

ライトストーム・エンターテインメント

ライトストームは、ジェームズ・キャメロン監督が1990年に立ち上げたアメリカの製作会社で、『ターミネーター2』以降のキャメロン監督作品のプロデュースに携わってきた。

ジェームズ・キャメロン監督作をのぞいた代表作
『ストレンジ・デイズ/1999年12月31日』(1995年)
 :キャスリン・ビグロー監督
『ソラリス』(2002年)
 :スティーヴン・ソダーバーグ監督
『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)
 :ロバート・ロドリゲス監督
『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019年)
 : ティム・ミラー監督

アンブリンやスコット・フリーと比較すると本数が少なく、上記にキャメロン監督の作品を加えたら、ライトストームの映画はほぼ押さえることが可能だ。

ラインナップを見ていると、元妻キャスリン・ビグロー監督作品や、好きだった日本の漫画『銃夢』(アリータの原作)など、ジェームズ・キャメロンによるただの嗜好ではないかとついつい想像してしまうが…当たらずとも遠からずな気もする。

シンコピー・フィルムズ

シンコピーはクリストファー・ノーラン監督が設立したイギリスの制作会社。『メメント』(2000年)と『インソムニア』(2002年)をのぞいたノーラン監督作品は、最新作『オッペンハイマー』を含め、すべてシンコピーが製作を務めている。

ノーラン監督は自作以外のプロデュース業にそこまで精を出していないこともあり、監督ではないシンコピーの作品は以下の2作品のみ。

『マン・オブ・スティール』(2013年)
 :ザック・スナイダー監督
『トランセンデンス』(2014年)
 : ウォーリー・フィスター監督

作風から受ける印象通り、プロデューサーとして人に撮らせるより、監督として自分で撮りたい人なのかもしれない。

ヨーロッパ・コープ

米英の会社が続いたが、ヨーロッパ・コープはフランスの製作会社。設立したのはリュック・ベッソン監督である。

自身の監督作では名前を聞く機会が減ってしまったが、プロデューサーとしてはかなりの数の映画に携わっており、『TAXi』や、ジェイソン・ステイサムの『トランスポーター』、リーアム・ニーソンの『96時間』など、人気のシリーズものを次々と世に送り出している。

リュック・ベッソン監督作をのぞく代表作
『トランスポーター』(2002年)
 :ルイ・レテリエ監督、コリー・ユン監督
『アルティメット』(2004年)
 :ピエール・モレル監督
『 コロンビアーナ』(2011年)
 : オリヴィエ・メガトン監督
『SAINT LAURENT/サンローラン』(2014年)
 : ベルトラン・ボネロ監督
『潜水艦クルスクの生存者たち』(2018年)
 :トマス・ヴィンターベア監督

リュック・ベッソン印のド派手アクション映画ばかりではない。『アナザーラウンド』でアカデミー外国語映画賞を受賞した、デンマーク出身のトマス・ヴィンターベア監督の作品も手掛けるなど、作風の幅が広い映画会社なのだ。

おわりに

マーティン・スコセッシとスティーヴン・スピルバーグ

今回紹介したのは映画監督と製作会社の組み合わせだが、当然この枠に当てはまらない映画人も多い。

巨匠マーティン・スコセッシはスピルバーグと同様にプロデューサーとして活躍する作品も多いが、自身の製作会社を持っているわけではないし、クエンティン・タランティーノ監督は「A Band Apart」という自身の製作会社を持っていたにもかかわらず、その活動を終了させている。デヴィッド・フィンチャーはあまり他者の作品には関わらない。いろんなタイプがいるのだ。

映画会社について覚えておくことは、映画のみならず、監督のスタイルまでもが見えてくるようで、より楽しむことのできる方法の一つだと思う。ぜひ、お試しあれ。

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芦田央(DJ GANDHI)
最後までお読みいただき本当にありがとうございます。面白い記事が書けるよう精進します。 最後まで読んだついでに「スキ」お願いします!